12月12日、グリー株式会社さん主催のもと、六本木にて「Ubuntu 15.10リリース記念オフラインミーティング15.12」が開催されました。今年最後のRecipeは、このイベントレポートをお届けします。
Ubuntuオフラインミーティングとは
Ubuntu Japanese Teamはグリー株式会社さん主催のもと、半年に一度「オフラインミーティング」を開催しています。
これはUbuntuが半年に一度4月と10月にリリースされるので、それにあわせてリリースパーティやりたいよねというのが、主な目的です。「パーティ」なので食べ物も出ますしお酒も出ます[1]。せっかくUbuntuユーザーが集まるのだからと前でセミナーをしていたりしますが、別に後ろでセミナーの邪魔にならない程度の酒盛りをしていてもかまいませんし、なんなら手持ちのデバイスを広げて黙々とハッカソンを行っていてもかまいません。そういう「ゆるめ」のイベントです。
ATNDのページにもあるように、今回のテーマは「半年後のLTSに向けて」でした。2016年4月リリースのUbuntu 16.04 LTSは2年ぶりのLTSとなる予定です。同時に16.04は「普通のUbuntu」としては「最後のリリース」になるかもしれません。そこで16.04がより良いものになるようにとこのテーマにしました。ちなみにセミナーはほぼそんなテーマと関係なく進行していきます。
リベンジ・オブ・からあげ
オフラインミーティングと言えば第400回でも少し説明したように「からあげ」です。
ただ、前回(第380回のレポート参照)のオフラインミーティングとはうって変わって、今回は当初の参加申し込み人数が少なかったこともあり、注文したからあげの量は控えめでした。ところが参加申し込みの締め切り期限に思っていたよりも参加者の数が増えてしまい、急遽当日にサブウェイで追加の食材を注文するに至ったのです。
結果的に当日の一人当たりのノルマは「サブウェイとオードブルに加えて、からあげ100グラム」となりました。実際、開場からセミナー開始までの約一時間は「からあげ、一人100グラムは食べるように!」「バームクーヘンの差し入れをいただきましたー」「日本酒開封します!」「手巻納豆うめぇ」「生ハム解禁でーす」のような会話が大半だったのです。Ubuntuの話題は、一つもありませんね[2]。
一通り参加者の入場手続きが終わった頃、開会宣言も兼ねて乾杯することになりました[3]。乾杯の音頭は前回に引き続き、関西からこの日のために上京されたあわしろいくやさんです[4]。
セミナー1「“bcache”を使ってSSDの速さとHDDの大容量のいいとこどり」
最初のセミナーはUbuntu Japanese TeamのメンバーでもありCanonicalの社員でもある村田さんによる「“bcache”を使ってSSDの速さとHDDの大容量のいいとこどり」です。
一般的にSSDは「容量単価が高いが高速」、HDDは「容量単価は安いが低速」という特性があります。当然「容量価格を抑えつつ、高速なストレージを使えたらいいよね」と思ってしまうわけです。そこで「bcache」によってSSDの領域の一部をディスクキャッシュにすることで、大容量のHDDを高速に使ってしまおうというのが、この発表の目的とのことでした[5]。
その「bcache」ですが、Ubuntu 14.10からbcache-toolsパッケージがTechnology Previewとして公式リポジトリに投入されています。しかしながら、Ubuntuのインストーラーは今のところbcacheは未サポートなので、システム領域にインストールするのはいろいろ大変です。そこで村田さんは、データ領域でbcacheを使うことでその性能を検証していました。具体的には、120GBのSSDにUbuntuをインストールした上で余った領域(80GB)を、750GBぐらいのHDD(バッキングデバイス)のキャッシュとして使った領域として設定したそうです。
発表資料の中では、簡易的という前置きはあるものの速度を計測した結果がわかりやすくグラフ化されていました。fioを用いてSSDやHDDをそのまま使った場合と、WriteBack(読み書きともにキャッシュする)、WriteThrough(読み込みのみキャッシュする)のパターンで計測しています。それによると書き込みやランダム読み込みが劇的に改善していることがわかります。特にランダム読み込みはSSDと遜色ない値になっています。
なお、MAAS 1.9ではcurtinを用いてWebUIからbcacheを設定できるようになるそうです。
セミナー2「或る卒論生の執筆環境」
2番目のセミナーは関西から深夜バスで参戦されたRakugouさんによる「或る卒論生の執筆環境」です。
実はこのイベントの一週間前に「Japan.R 2015」という統計処理ソフトウェアRのイベントが行われていました。Rは今もっとも人気の言語の一つなので、その人気にあやかって「UbuntuでR」な話題をオフラインミーティングでも誰か喋ってくれないかなと考えていたところ、「卒論でRを使ったので、その話でよければ」と手をあげてくれたのがRakugouさんなのです。
学生時代の専攻が社会心理学だったRakugouさんは、卒論を「Ubuntu+LibreOffice+R」の組み合わせで作成したそうです。周囲の学生が皆、「Windows+Microsoft Office+SPSS」という組み合わせだったため相談することができず、自分で調べたりR勉強会に参加することで情報を得ていたことを話していました[6]。
今回は卒論で使った分析手法のうち、「因子分析」と「パス解析」について説明がありました。特に「パス解析」については、あらかじめオフラインミーティング参加者の一部に、「からあげが食べたいかどうか」や「幸せかどうか」などの5つの質問項目を5段階で評価してもらったことにして、そこから「何が幸福感につながるか」を分析していました[7]。
分析の結果は実際に発表資料を読んでもらうとして、読者の皆さんも是非からあげ(もしくは各自が美味しいと思う何か)を食べて幸せになりましょう。
セミナー3「サーバー監視のはなし ~ 監視と通知と障害と俺とお前と大五郎」
3番目のセミナーは北海道から海を越えてはるばるおこしの水野さんによる「サーバー監視のはなし ~ 監視と通知と障害と俺とお前と大五郎」です(リンク先はPDF)。
インフラ(ミニ四駆やゲーム機の配線を含む)エンジニアである水野さん曰く「サーバー障害は絶対に起こるもの」。というわけで、障害にできるだけ早く(場合によっては障害が起こる前に)気づくための、さまざまな監視ツールをその用途や類型から紹介しました。特に「Mackerel」や第383回でも取り上げた「Xymon」については、実例も交えて詳しく解説しました。
さらに障害を検知したあとの通知も重要です。いかに気づけるように通知し、スルーしないようにするかが勝負の分かれ目になってきます。そこで通知方法を管理する手段として「PagerDuty」を使ってスマートフォンに障害発生時にSMSを送信したり、会場にあったUbuntu Phoneに対して電話をかけ自動通話させるデモを実演しました。
ちなみに発表中に「大五郎」の要素はまったくありませんでした。大五郎に興味のある方は水野さんに直接問い合わせてみてください。
セミナー4「LibreOfficeのいろいろ」
一度休憩を挟んで後半戦最初のセミナーは、本連載でも第218回や第271回といった印刷関連の記事でもおなじみ、LibreOffice日本語チームの小笠原さんによる「LibreOfficeのいろいろ」です。
まず小笠原さんが最初に伝えたのは「Ubuntu 15.10リリースおめでとうございます」でした。……この流れ、前回もありましたね。さらにその前のイベントでも小笠原さんに指摘された記憶があります。次回あたりからは、乾杯の前に司会にコメントしてもらうことにしましょう。
さて小笠原さんの発表は、まずLibreOfficeの名前や基本的な情報を紹介するところから始まり、UbuntuとLibreOfficeの関係やパッケージの状況、最新版を使う方法などを説明。次に9月に開催されたLibreOffice Conference 2015 Aarhusの様子を紹介するという、LibreOfficeづくしの内容でした[8]。特にカンファレンスの報告は、アドバイザリーボードにミュンヘンが参加するなど、とりわけヨーロッパの自治体が開発に積極的な印象ですね。
さらには、今後の目玉になるであろう「LibreOffice Online」のデモ動画の解説も行いました。あくまでレンダリングソフトはLibreOffice本体で、その結果をOpenStreetMapなどでも使われているLeafletを用いてHTML5+CSS+JavaScriptでタイル状に表示する仕組みだそうです。HTML5+CSS+JavaScriptでLibreOfficeそのものを再実装したわけではない、というところがポイントですね。個人的には、描画だけなら非力なマシンでも軽いような状態だと嬉しいところです。
次のUbuntuのリリースでは、おそらくLibreOfficeも新しいバージョンである5.1が取り込まれるであろうということで、セミナーの中では現在ベータ2の5.1の新機能についてもいくつか紹介しました。すでにいくつかの新機能が実装されていて、テスト版でも試せるということなので、気になる方は試してみてはいかがでしょうか[9]。
また来年の1月9日(土)にはLibreOffice mini Conference 2016 Osaka/Japanが開催されます。最寄り駅が大阪駅という、日本人にとってはオーフスやチェコよりは遥かに参加しやすい場所ということですので、ぜひ読者の皆さんも参加しましょう。
セミナー5「Ubuntuで森モニタリング 準備編」
後半戦2番目のセミナーは、主催であるグリー株式会社の松澤さん……にとてもよく似たalumicanさんによる「Ubuntuで森モニタリング 準備編」です。発表内容そのものは会社の査読を通していないので、あくまで「個人的な松澤として発表します」とのことでした。
日々新しい技術が生まれてくる中で、技術的な興味はあっても「モチベーションをどう維持するか」が問題になってきます。松澤さんは、明確にコミットできる目標を作ることで、モチベーションを維持しようとしているそうです。そこで「今年、森を落札してみた」んだとか。
そのセリフと共にスライドに映った写真はリアルの森です。会場がその意味を理解するまで一瞬間がありました。そして「ざわ……ざわ……」感と共に湧き上がってくる笑い。もうそこからは松澤さんの独擅場です。「お金使ってしまったんでモチベーションがどうとか言ってられない」「木が生えているんでダッシュはできませんが、森spec的に100m走は余裕です」「危ないので開発時にヘルメットとツナギは必須です」「チェーンソーは思ったより安全。むしろ倒れてくる木の方が危険」などなど、何か発言するたびに笑いが起こる会場。
開発区は遠隔地なので、とりあえずポストを立てて「ping」と書かれたハガキを送ったそうです。ただ、これは届かなかった。そこでご友人にひまわりの種を入れた手紙を別途送ってもらったら、届いたんだとか。心がこもっていれば受信できるポスト。それでも如何せん現地までが遠いので、リモートでモニタリングできる環境を用意しようということで、ようやくタイトルの話になっていきます。
森にお金がかかったので、いかに安く作るかがポイントです。いろいろ検討した上で、Raspberry Pi 2とSoracom Airに太陽電池パネル、各種センサー類など[10]。配線のために電気工事士の資格試験の勉強も行ったと言います。ソフトウェア的にはUbuntuの上でFluentdやMotionでログを収集して、Soracom Air経由でAWS上にGrafana/Graphiteで視覚化するようにしているそうです。既に動くシステムができていて、会場でも収集結果のリアルタイムの様子も紹介しました。今後は現地の森に設置して、動くかどうかのテストが待っているとのことでした。発表の様子はGREE Engineer's Blogにも掲載されています。
「森を買ったらシステムが1つできた!」
セミナー6「日本語Remixどうしよう」
セミナーラストは結局生ハムを食べられたかどうか聞きそびれた、いくやさんによる「日本語Remixどうしよう」です(リンク先はPDF)。
先ほど小笠原さんが話題にしたばかりの5.1のベータ2でセミナーを始めたいくやさんは、「日本語Remix」とはなんぞやというところから、最初の日本語Remix(の元となる改変版)がリリースされたUbuntu 5.04から最近のUbuntu 15.10までの系譜や名前の変遷などを紹介していきます。特にUbuntu 5.04は、そもそもインプットメソッドのパッケージそのものがなかったため、日本語Remixは日本語を使う上で必須といえる状態でした。
さらに資料では「日本語セットアップヘルパ」の話をしたり、Ubuntu 6.06 LTSから各LTSごとに日本語Remixでカスタマイズしていた パッケージのリストを紹介しました。カスタマイズパッケージはリリースを経るごとに順調に減少していき、現在はほぼunzipのみとなっている状態です[11]。
加えてUbuntu 15.10からはライブセッションでも日本語入力が一応できるようになりました。そのため「日本語Remixをリリースする意義」がだいぶ薄くなっているのが現状です。それを踏まえてセミナーでは、「リリースを続けるべき理由」「やめた方が良い理由」をそれぞれわかりやすくまとめていました。
少なくともUbuntu 16.04 LTSはLTSであることとUnity 7であることから、日本語Remixを出した方がいいでしょう。では、その先はどうするべきか。特にUbuntu Personalになったら、これまでの考え方はすべてひっくり返るため、いろいろと考えなおさなくてはならないのではないか。そもそもUbuntu Personalを日本語Remix化できるのか、Snappyではないであろう他のフレーバーをベースにすべきか。……というように考えるべきことは山ほどあります。いくやさんは、もし日本語Remixを使っているのであれば、今後はどうあるべきか考えて意見を表明してほしい、という形でセミナーをまとめていました。
ちなみに、先日発売されたばかりのSoftware Design 2016年1月号のUbuntu Monthly Reportでは、「Ubuntu 15.10で修正された日本語関連のバグ」という記事をいくやさんが寄稿しています。またいくやさんや、今回発表してくれたRakugouさん、水野さん、司会の長南さんなども執筆している「うぶんちゅ! まがじん ざっぱ~ん♪ vol.3」も絶賛発売中です。このレポートを書いている柴田も、Device Treeの入門的な記事を書いています。なお、vol.4は来年1月発売予定です。
会場の後方や外では
今回も会場の後方ではUbuntu PhoneやRaspberry Pi 2のデモ機材を展示していました。
Ubuntu TouchとしてはNexus 4とNexus 7(2013)にインストールしたものに加えて、bqが販売しているUbuntu Phoneである「Aquaris E5」(ただし電源は入らない)も並べています。特にNexus 4はBluetoothマウスをペアリングすると(デスクトップのような)マルチウィンドウモードになるデモを動かしていました。
さらに今回は名古屋でも、第284回を書いてくれた松本さんが独自に会場を借りてリモート参加してくれました。Ubuntuオフラインミーティングでは、セミナーの様子をUstreamでライブ配信しています。名古屋会場は、そのUstreamを見ながらTwitterでいろいろとツッコミをいれてくれていたようです。
セミナー後に若干時間があったのでGoogleハングアウトで、名古屋会場との相互接続しながら、向こうの様子を伺ってみました。それによると、名古屋会場は登録した4人全員参加という素晴らしい出席率で、終始なごやかに視聴していたようです。ちなみに、名古屋会場でもちゃんとからあげを準備していたとのこと。
今後もこんな風に地方でのリモート参加が増えると嬉しいですね。
まとめと謝辞
ここまで「Ubuntu 15.10リリース記念オフラインミーティング」のイベントの様子をお伝えしましたがいかがだったでしょうか。「Ubuntu 15.10の要素がほとんどないじゃないか!」って思った方もいらっしゃるかもしれません。実際、15.10っぽいことはほぼありませんでした。まぁ、リリースパーティ自体、リリースにかこつけてパーティすることが主たる目的だったりするので、その辺りはご容赦ください[12]。
ちなみにイベント中にTwitterで流れた#ubuntujp付き投稿をまとめてくださった方もいますので、今回のレポートに載っていない様子が気になる方はそちらも参考にしてください[13]。
参加された方はSNSやブログなどに感想を書いて、宣伝していただけると助かります。次回に向けての要望がある場合は、ぜひUbuntu Japanese Teamに届く形でご連絡ください。できる範囲で応えていきたいと考えています。もちろん次回があるなら発表させろという要望も随時受け付けております。
最後になりましたが、今回もたくさんの方がこのイベントを裏や表で支えてくれています。毎回六本木ヒルズというお高い立地にとても広い会場を提供してくれている主催のグリー株式会社さんには頭があがりません。このRecipeやTopics、Ubuntu Monthly Reportなどを担当している技術評論社さんにはじゃんけん大会の景品用にとSoftware Designとインフラエンジニア教本2を差し入れていただきました。
会場スタッフには早めに会場入りしていただき、買い出しから設営、受付に給仕っぽいことまでいろいろ手伝っていただきました。今回はとうとうスタッフに対する事前説明をほっぽりだして、「適当に指示に従って」というスタイルになってしまいましたが、それでも空気を読んで動いてくれるあたりすごいなぁ、と関心しきりです。またJapanese Teamの身内ではありますが、司会の長南さんには毎度毎度じゃんけんやアナウンス、セミナーの前フリなどいろいろなマイク関連のお仕事をこなしてもらいました。今回はシックな黒の衣装でしたね。また吉田さんには本業の方がかなり忙しそうにもかかわらず、「からあげ(とついでに食料)」の調達という重要かつ一番頭を使うミッションをこなしていただいています。この2人がいるからオフラインミーティングが成り立っているので、この記事を読んだ方はぜひねぎらいの言葉をお願いします。
2016年4月には2年ぶり6度目のLTSがリリースされます。もちろん5月か6月頃にはまたオフラインミーティングを開催するつもりです。その際は、ぜひ読者の皆様も参加や発表していただけたら嬉しいです。
さぁUbuntu 16.04 LTSに向けて、「Ubuntu、前進!」