今回のレシピは、HP EliteBook Folio G1 にUbuntuをインストールしたところ、ほぼほぼ全機能がストレスなくすんなり使えてしまったというレポートです。
Ubuntu ロードテストとは
かつて『Ubuntu Magazine Japan』というムックが株式会社アスキー・メディアワークス[1]から出版されており、Ubuntu Japanese Teamのメンバーやその友人知人が気ままに執筆に参加していました。特集のひとつとして「Ubuntu ロードテスト」があり、執筆者は思い思いのラップトップやデスクトップ、サーバーにUbuntuをインストールし、その使い勝手について述べていました。
筆者は一度もUbuntu ロードテストに寄稿したことがありませんが、新しいラップトップを購入したこの機会に、当時のノリを模倣してお届けします[2]。
HP EliteBook Folio G1とは
筆者はこれまで、2011年に購入したThinkpad Edge E420を持ち運び用ラップトップPCとして使っていました。体力の関係で特に重量など気にならなかったのと、コードを書くか読むか原稿を書くか読むかくらいにしか使っていなかったためにスペック等も気にならなかったので、まだしばらく使うつもりでした。しかし先日のUbuntu 16.04 LTSリリース記念オフラインミーティングの発表資料をベッドの上で書いた際、落とした拍子に電源アダプタのプラグ部分を破損してしまい、思いがけず代替機の調達に迫られました。機械学習が世間を賑わすこの時代、もっと我が家の家計のことを考慮してインテリジェントに壊れてくれたらよかったのに、残念でなりません[3]。
普段の筆者のマシン調達方針は、数世代前のアーキテクチャを採用したマシンで、かつビジネス向けに安価に製造されたものを物色することです。しかし今回はとある事情で[4]、その方針を変更して割と新し目のものを物色することにしました。すると人間欲が出るもので、バッテリー放電時間が長く、ファンの風切り音が静かで、かつて愛用していたThinkpad X21程度にコンパクトなものが欲しくなりました。
Panasonic社やDell社などの製品が候補となりましたが、ちょうどキャンペーンをやっていたHPのEliteBook Folio G1にしました。
まずはスペックから確認します。
- 実売価格:15万8,000円
- CPU:Intel Core(TM) M5-6Y54
- チップセット:Intel Sunrise Point LP
- メモリ:LPDDR3 8GB オンボード
- ストレージ:128GB M.2 SSD (SATA III)
- 無線LAN:Intel Dual Band Wireless-AC 8260 802.11 a/b/g/n/ac
- サイズ:292(w)×209(d)×12.4(h)
- ディスプレイ:12.5インチ、フルHD(1,920 × 1,080 dot)
- 重量:0.97kg
- バッテリー持続時間:11.5時間
メモリやストレージはオプションで増強できます[5]。重量が1kgを下回っていたり、バッテリー駆動時間がもう少しで半日に届きそうだったり、ファンレスだったりと、筆者の使用目的にはちょうどよさそうに思いました。
Ubuntu Certified hardwareではない
Ubuntuプロジェクトに参加しているCanonical社では、ハードウェアベンダーの協力のもと、動作確認済みのマシンのリストを公開しています。このリストを確認することで、購入対象のハードウェアでUbuntuが使えるかどうかがわかります。
残念ながらFolio G1はリストにありませんでした。そこで「まぁ困ったらWindows 10で使えればいいや」という妥協のもと、購入に踏み切りました。
到着そして分解
購入したハードウェアが到着した瞬間に分解して内部を見るのは、一部の人にとっては嗜みのようなものです[6]。というわけで底面パネルを外してみました。Folio G1は底面パネルが8つの特殊ねじで固定されているだけの簡素なパッケージでしたので、それほど苦労することなく内部を見ることができました。
リチウムポリマーバッテリーが場所を取っています。パームレスト直下にはアナログスピーカーが配置されています。イヤホンやBluetoothヘッドセットを主に使う方であれば、スピーカーを外して十数グラムの軽量化を行ってもよさそうに思いました。
WifiとBluetoothのコンボモジュールにはIntelの名前を見ることができます。また、HDAコーデックとしてConexantのチップを使っていることもわかります。残ったヒンジ直下のスペースにCPUなどの載ったシステム基盤があります。
ライブUSBによるUbuntuのブート
UbuntuをインストールしてプリインストールOSであるWindows 10を潰してしまう前に、ライブUSBから一度Ubuntuをブートしておくと、本当に使い物になるかどうかの目処をつけられます。場合によってはUbuntuのインストールを諦め、Windows 10を使い続けるべきでしょう。今回はUbuntuのDaily イメージからブート可能なUSBメモリを作成し、Ubuntuのライブブートを試みました[7]。
電源を投入してHPのロゴマークが表示されたらF2キーを押してUEFIのメニューに入ります。最初にHPのユーティリティが起動し、exitするとBIOSの設定画面になります。Boot Optionsを選択し、ブート可能なディスクのリストからUSBフラッシュメモリを選択します。しばらく待つとUbuntuのデスクトップが表示されました。
筆者の試す限り、結構な頻度でマウスカーソルが表示されないという不具合がありました。またあるPythonスクリプトがエラーを発生しました。それ以外は特に目立った不具合等はありませんでした。原稿を書いたりコードを書くくらいなら多少のGUIの不具合は何とかなるので、実用できるだろうという見通しを立てました。
Windows 10のリカバリメディアの作成とリカバリ
Ubuntuをインストールして使うものの、事情によってはWindows 10に戻さざるを得なくなるかもしれません。その場合に備え、Windows 10のリカバリメディアを作成しておきました。「リカバリメディアあっても実際にリカバリできるかどうかはわからないよ」というアドバイスを同僚からもらったこともあって、リカバリの確認もしておきました。Windowsのユーティリティを使いメディアの作成を行い、1時間程度かかりました。UEFIのメニューからリカバリメディアをブートし、リカバリ処理に1時間半程度かかりました。
Ubuntuのインストール
準備は整いました。早速Ubuntuをインストールしてみましょう。ライブUSBから再度ブートし、デスクトップにあるアイコンをクリックします。あとは案内に従って手順を踏みます。
インストール後に再起動すると、あっさりUbuntuがブートしました。ブートにかかる時間はWindows 10の倍くらいですが、SSDの恩恵でE420よりもかなり速く、筆者の満足度上昇に貢献しました。
ライブ起動の際に見つけたマウスカーソルの不具合ですが、予想に反してきちんと表示されました。「ディスプレイ設定」の「メニューとタイトルバーの拡大縮小」をいじるとCompizが再起動しますが、実用上は問題なさそうです。
ファンレスのため発熱が心配ですが、パームレスト周辺の温度上昇は穏やかでした。熱源はヒンジ直下のシステム基盤に集中しており、この近辺は映像再生時には長時間接触したくない程度に熱くなりました。
機能の利用可否
インストールできたからと言って、Ubuntuからマシンの諸機能をきちんと利用できなければ、だいぶ使用感は損なわれます。そこで、いくつかの項目について検証していきました。結果から言うと、実用上は問題ないように思いました。
Wifi
筆者は室内に802.11gのアクセスポイントを設置しており、UnityのIndicatorから設定して問題なく接続できました。802.11nや802.11acはアクセスポイント側の設定変更の面倒が先行してしまったため、試していません。
Bluetooth
筆者の持つBluetooth 4.0以前の古いデバイスは、Ubuntuの設定のBluetoothウィンドウから問題なくペアリングできました。
サスペンド
Unityのツールバーなどで明示的にサスペンドを行った場合は機能しました。しかし、ディスプレイを閉じる・開けるといったジェスチャーへの連携はできないようでした。これは、「システム設定」の「電源」で適切な設定を行った場合でも同様でした。
バッテリー
満充電時、UnityのIndicatorでは10時間近く放電可能と表示されました。ディスプレイのバックライトを調節して輝度を上げると極端に減少することから、残り時間は時々の消費電力から計算されているようでした。
タッチパッド
タッチパッドの左下/右下押し下しはそれぞれマウスの左クリック/右クリックに相当しており、きちんと機能しました。パッド上のドラッグ、タップなども、期待通り機能しました。
マニュアルによると、クリックパッドでは2本指での操作として以下を行えるようです。しかし筆者が試す限り2本指スクロール以外の操作を行うことができませんでした。
- 2本指の縦スクロールで画面移動
- 2本指クリックで右クリックメニュー表示
- 2本指のピンチ/ストレッチで拡大/縮小
またパッドの左上をタップすることでパッドの全機能を一時的にフリーズできるようですが、これは機能しませんでした。おそらく、パッドの入力を検出してGUIソフトウェアに伝えないような対応が、ソフトウェア側に必要なのだと思います。パッドは感度がよく、不慮に触ることで作業が妨害されることがあるため、ぜひ機能させたいと思いました。
音声
内部スピーカーからの音声出力は無難に行えました。イヤフォンのステレオミニプラグ挿入で音声出力が切り替わりました[8]。
ハードウェア動画再生支援
Intel社のチップセットには動画再生支援機能が実装されており、典型的にはVA-APIというプログラミングインターフェイスからドライバを制御することで利用可能です。VA-APIのアプリケーションであるvainfoというコマンドで機能の詳細を出力できます。筆者の場合は以下のようになりました。
MPEG2 Video、H264/AVC、VC-1、VP8、H.265/HEVCの主要なプロファイルをデコード可能であることが伺えます。gstreamerなどVA-APIを利用するアプリケーションにおいて、デコード処理のハードウェアオフロードによる消費電力低減が期待できます。
ホットキー連携
F1キーからF12キーは、デフォルトではホットキーとして動作します。ボタンの刻印からは、以下の機能を意図していることがわかります。
- F1:通話開始
- F2:通話終了
- F3:カレンダー表示
- F4:マイクオフ
- F5:スピーカーオフ
- F6:音量を下げる
- F7:音量を上げる
- F8:外部モニター切り替え
- F9:キーボードバックライト光量変更(3段階)
- F10:ディスプレイ輝度下げる
- F11:ディスプレイ輝度上げる
- F12:Wifi機能の有効化・無効化
筆者が試す限り、F1ないしF3、F8およびF12は機能しませんでした。
トラベルドック
今回筆者は古い周辺機器も併用したかったので、オプションのトラベルドックも購入しました。トラベルドックは以下の機能を持ちます。
- マニュアルやドライバを提供するUSB Mass Storage device
- USB 2.0ポート1基
- USB 3.0ポート1基
- イーサネット向けRJ-45ジャック
- 外付けディスプレイ用VGAジャック
- 外付けディスプレイ用HDMIジャック
USB Mass StorageにはFAT16ファイルシステムが入っていますが、読み出し専用でした。VGAコネクタおよびHDMIジャックですが、外部ディスプレイを接続してもUbuntuからはその認識ができませんでした。
ゴム製のカバーは粘着テープで接着されていて、剥がすとネジが露出します。試しに内部基盤を確認したところ、RGB/HDMI出力を担当するチップには「DisplayLink」と印刷されていました。筆者は扱った経験がなく対応方法がわかりませんでした。
なおドック接続中はバスパワー供給のため放電量が増えるようで、バッテリー使用可能時間が短くなる点に留意してください。
まとめ
HP EliteBook Folio G1はUbuntuとの相性がそれなりによく、使用する上で苦労することは少なそうです。今回筆者はこのレシピの原稿をこのマシンで書きましたが、特にストレスはありませんでした。日々持ち歩くマシンとしてちょうどよいと思いました。