ご挨拶
新年あけましておめでとうございます。
本連載は今年で無事に10周年を迎えました。長年のご愛顧、誠にありがとうございます。10周年だからといって特別なことはせず、堅実かつユニークにさまざまな情報をお伝えしていきたいと考えております。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
今回は昨年の初めと同じく、デスクトップ環境の今について取り上げます。
GNOME
GNOMEは毎年3月と9月にリリースを行っており、この3月には3.28のリリースが予定されています。また、タイミング的にこのバージョンがUbuntu 18.04 LTSで採用され、5年間サポートされることになるものと思われます。
どのような変更点があるのかはまた別途お知らせするとして、今年の注目点は引き続きWaylandサポートと、それに伴うHiDPIディスプレイ対応の改善でしょう。
現在のGNOMEもHiDPIディスプレイの対応として、「サイズ調整」でスケールの設定ができますが、100%と200%しかありません。100%だと広すぎるものの200%だと狭すぎるといった場合は125%や150%にしたいところですが、現段階では不可能です。
これをWaylandセッションの際は25%刻みに変更できるようにする開発が進んでいます。実は現在のGNOME 3.26でも機能としてはデフォルトで無効になっていますが存在しており、有効にすると試すことができます(図1)。しかしデフォルトで無効になっている分バグもあります。
この機能がデフォルトで有効になればWaylandを積極的に選択する理由になる上、HiDPIディスプレイも使用しやすくなります。またWaylandセッションでは複数のディスプレイで異なったスケールの設定もできるようになるはずです。
現段階ではWaylandのメリットはあまり感じられませんが、こういった実利的なメリットが出てくるとユーザーが増えることが見込まれます。
一方、Files(Nautilus)からデスクトップ機能を削除するという話も出てきて時代の流れを感じます。Ubuntu 17.10のGNOME Shellはデスクトップにごみ箱アイコンを表示していますが、これができなくなる、あるいはほかの方法で実現することになります。
KDE
KDEが今年目指す方向はすでにKDE's Goals for 2018 and Beyondで示されています。大きくは基本的なアプリケーションの使い勝手と生産性を向上させること、プライバシーの保護をより広く推進すること、新しい貢献者への間口を広げる施策を実行する ことの3点を挙げています。
例で挙げられている基本的なアプリケーションはデスクトップシェルのPlasma、ファイルマネージャのDolphin、ドキュメントビューアーのOkular、アプリケーション管理のDiscoverです。しかし詳細情報にはもっとたくさんのアプリケーションがリストアップされています。おそらくKDE Flamework 5への移行作業が一通り完了し、次のフェーズに移行する段階に来たということなのでしょう。
Waylandのサポート状況も気になります。Kubuntu 17.10には間に合わなかったPlasma 5.11で大幅に改善されたとのことで、確かに実際に検証してみてもあと一歩というところまで来ています。Kubuntu 18.04 LTSはおそらくPlasma 5.12を採用することになり、より安定したWaylandサポートが見込まれます。
Xfce
XfceはGTK+3へのポーティングが完了して4.14がリリースされるかどうかがここ数年の関心事ですが、ロードマップを見る限りでは年内のリリースが現実的に思えます。世界中で使われている軽量デスクトップ環境としては開発リソースが少ないのは気になりますが、そんな中でも継続して開発を進めている開発者さんにはただただ頭が下がるばかりです。
Ubuntu Weekly Topics 2017年12月15日号を見ても、あるいはGTK+3のメジャーバージョンアップ終了とGTK+4への注力を見ても、GTK+2はPython 2と同じく「レガシー」扱いです。これから先のプロジェクトのことを考えるとGTK+3へのポーティングは必須であり、そのタイミングも、もし今年いっぱいポーティングの完了にかかったとしても遅すぎることはありません[1]。
LXDE/LXQt
LXDEはメンテナンスモードのままでしょうが、LXQtはどうでしょうか。開発スピードが速いとはいえませんが、他のLinuxディストリビューションでも広くサポートされていることから、充分なクオリティを保っているとは思います。
17.10のリリースサイクルでLXQt版LubuntuであるLubuntu Nextの開発が開始したものの、結局リリースされませんでした。リリースアナウンスによると致命的なバグが10個以上あるという状態だそうで、今年中に実用レベルになるのか注目です。
MATE
MATE(マテ)は半年ごとのリリースを目指していると思っていたのですが、どうやらそういうわけではなく、昨年は3月の1.18が唯一のリリースでした。今年は1.20のリリースを目指して開発中です。おそらく第1四半期にうちにリリースされ、Ubuntu MATE 18.04 LTSで採用されるでしょう。
MATEのロードマップは更新されなくなって久しいためどのような変更が加えられる予定なのかを把握するのは難しいですが、あまり大きな変更は加えられず、堅実なアップデートになるものと思われます。
Cinnamon
CinnamonはLinux Mintと一体で開発されており、そのLinux MintはUbuntuのLTSをベースに開発されています。つまり、今年新しいバージョンのLinux Mintもリリースされるということです。
とはいえロードマップを見る限りはあまり大きな変更は予定していないようです。一つ間違いなくいえることは、バグ報告によるとWaylandサポートはしないということです。
Unity 7
Unity 7は正確にいえばデスクトップ環境ではありませんが、昨年のUbuntuの最大のトピックがUnity 7からGNOME Shellへの変更だったので、ここでも取り上げることにします。
第493回でも取り上げたとおり、Ubuntu 17.04から17.10にアップグレードした場合はUnity 7セッションは引き続き利用できますが、17.04とは若干違ったものになります。Ubuntu 18.04 LTSではどうなるのかはまだ公表されていません。
一方Unity 7をフィーチャーしたフレーバーの準備は進んでいます。現段階では18.04までにフレーバーになるのか、リミックスのままなのかは未定ではありますが、Unity 7ユーザーには嬉しいニュースといえるでしょう(図2)。
ただし課題もあります。Compizのメンテナンスをどうするのかや、Unity 7のために当たっているGNOMEアプリケーション向けの各種パッチをどうするのかといった、継続性に関わる重要な問題が提起されています。後者は該当するMATEアプリケーションと置き換えれば解決可能でありますが、前者は解決するのが極めて困難な問題なので、どこかで折り合いをつける必要があるでしょう。
新しいパッケージ配布の仕組み
新しいパッケージ配布の仕組みとは、具体的にいえばsnapやFlatpakですが、今年あたりから本格的に普及を始めるものと思われます。
メリットは、次のようにいろいろとあります。
- 新しいバージョンのアプリケーションを使用する際に新しいバージョンのライブラリが必要になっても、現在のシステムを全くいじらずに使用することができる
- 古いバージョンのアプリケーションを使用することができる(図3)
- パッケージの形式がRPMやDeb、その他ということを全く意識する必要がない
- GNOMEでKDEアプリケーションを使用する場合は大量のライブラリをインストールする必要があるが、これが不要になる
snapとFlatpakが実現しようとしていることは概ね一致していますが(ただしデスクトップアプリケーションの場合)、設計思想がまるで異なるのでどちらを使用したほうがいいのかはケースバイケースです。Ubuntuだからsnapで決まりとはなかなかいい難いのが現状です。
この仕組みが広く普及すると、デスクトップ環境はおろかLinuxディストリビューションの垣根すら超えられます。これにより、より自分の好きなものを選べるようになり、それはとても魅力的に思えます。