今回は7月7日に発売されたAMD Ryzen 5 3400Gと、その前のモデルである2400Gを比較します。
3世代目のRyzenが発売開始
7月7日に、AMDのCPU/APUであるRyzenシリーズの最新モデルが販売開始されました。大きくはGPU内蔵のCPU(APU)がRyzen 3 3200GとRyzen 5 3400G、CPUがRyzen 5 3600/Ryzen 5 3600X/Ryzen 7 3700X/Ryzen 7 3800X/Ryzen 9 3900Xに分かれます[1] 。前者は前のモデル(Ryzen 3 2200G/Ryzen 5 2400G)のシュリンク版で大きな変化はなく、少しだけ高速化されたと謳われていますが、後者は新アーキテクチャのコア(Zen2)を採用して大幅に高速化されました。
今回は、その少しだけ高速化されたはずのRyzen 5 3400Gと、従来の2400Gを比較してみます。
なぜ今回の比較を行うことになったかというと、Ryzen 5 2400Gは第510回 でも紹介したように筆者のメインPCのAPUでしたが、やはり非力な感は否めず、少しでも速くなるのなら、と藁をも掴む思いで3400Gをを購入したのです。そのため、筆者の期待どおりの速度向上が見られるかどうかが一つのポイントとなります。
あと新APUは新CPUの影に隠れて目立たず、あまりベンチマークなどの情報が出回っていないので、興味があったというのも事実です。
Ryzen 5 3400Gは発売されたばかりで価格が高いですが、2400Gであれば充分に価格が下がっているため、あまり変わりがないのであれば新規に購入する場合でも後者のほうがお得です。
参考情報としては、今回の話とは無関係ですが、新CPUにはバグがあって、新しめのUbuntuだとブートしません 。19.04ではこの不具合は修正されており、HDD/SSD等のドライブを別のPCに接続し、インストールした上でアップデートを適用し、新CPUを搭載したPCに接続してブートするといいでしょう。のちにUEFI BIOSのアップデートで根本的な解決が図られる見込みです。
新APUは18.04 LTSでも問題はありませんが、必ず18.04.2以降のカーネル(4.18以降)を使ってください。UEFI BIOSのバージョンによっては起動しないためです[2] 。
[2] 3400Gを使用する場合は18.04.2以降のカーネル(4.18以降)が必須です。2400Gでは不要な場合もありますが、同じく18.04.2以降のカーネル(4.18以降)にしてからUEFI BIOSを上げておくのがおすすめです。
ベンチマークの条件
Ryzen 5 2400G PCは筆者のメインPCのため、検証環境を揃えるのが難しかったです。よって2台のPCに分かれたものの速度に影響を与えそうなパーツは統一する、という方針にしました。具体的には次の表のとおりです。ただし認識していても使用していないハードウェアの情報は除外しています。
CPU
Ryzen 5 3400G
Ryzen 5 2400G
マザーボード
Gigabyte B450 I AORUS PRO WIFI
ASRock AB350 Gaming-ITX/ac
メモリー
ADATA AX4U320038G16-DB10
同左
SSD
ADATA ASX7000NP-256GT-C
同左
ケース
Cooler Master Elite 130 Cube
IW-BP671B/300H
電源
玄人志向 KRPW-PT500W/92+
(ケースの添付品)
前述のようにRyzen 5 3400Gを使用する場合、対応したUEFI BIOSのバージョンに上げておく必要があります。CPUを交換する場合は事前にバージョンアップを忘れないでください[3] 。新規に購入される場合はアップデート済みのものを購入するか、ショップによってはバージョンアップサービスもありますので適宜利用してください。
今回使用したSSDはNVMe SSDであり、原則としてはマザーボードに直結するものです。しかし、AB350 Gaming-ITX/acではマザーボードの背面に取り付ける必要があり、取り外しが非常に困難です。そこで、玄人志向のM.2-PCIe に接続した上でPCI-Eスロットに接続しています。B450 I AORUS PRO WIFIはマザーボードの表面に取り付けられるため、直結しています。
AX4U320038G16-DB10はいわゆるオーバークロックメモリーで、UEFI BIOSで設定しないとそのパワーを発揮することができません。B450 I AORUS PRO WIFIの設定方法は図1 を、AB350 Gaming-ITX/acの設定方法は図2 をご覧ください。
図1 B450 I AORUS PRO WIFIでは「Extreme Memory Profile(X.M.P.)」を「Profile1」にして保存する。ただし今回の例の場合で、プロファイルは複数あることもあるようだ
図2 AB350 Gaming-ITX/acでは「OC Tweaker」タブの「Advanced Frequency Setting」 -「 Load XMP Setting」を「XMP 2.0 Profile 1」にして保存する
使用したベンチマーク
使用したベンチマークは、Phoronix Test Suite です。執筆時点で最新版の8.8を使用しました。
GPUのテストに関してはおおむね第528回 に準拠しますが、使用したUbuntuが19.04のためプロプライエタリなドライバーであるAMDGPU-PROは使用していません。
具体的に実行したテストの項目は次のとおりです。
pts/john-the-ripper-1.7.0
pts/x264-2.5.0
pts/compress-7zip-1.7.0
pts/build-linux-kernel-1.9.1
pts/llvm-test-suite-1.0.0
pts/encode-mp3-1.7.3
pts/system-decompress-xz-1.0.2
pts/xsbench-1.0.0
pts/supertuxkart-1.5.2
pts/unigine-heaven-1.6.4
pts/unigine-valley-1.1.7
pts/glmark2-1.1.0
実際には実行したもののうまく動かなかったので落としたテストや、結果が明らかにおかしかったので落としたテストもあります。
テスト結果
CPU編
まずはCPUの結果から見ていきましょう。John The Ripperは著名なパスワード解析ツールですが、図3 の結果になりました。
図3 John The Ripperの結果
Blowfishでは約1.2倍というかなり理想的な速度差が出ています。一方、MD5ではあまり差がありませんでした。
x264はH.264のエンコーダーで、図4 の結果になりました。
図4 x264の結果
1割くらい速くなっています。
7-Zip Compressionはその名のとおり7-Zipでの圧縮ベンチマークですが、単位がMIPSなので絶対評価が可能です。図5 の結果になりました。
図5 7-Zipの結果
こちらも1割くらい速くなっています。
Timed Linux Kernel Compilationはカーネルのビルドにかかった時間ですが、図6 の結果になりました。
図6 カーネルのビルド時間
なんと10秒しか速くなっていません。
LAME MP3 Encodingもその名のとおりLAMEでMP3をエンコードした際にかかった時間です。図7 の結果になりました。
図7 LAMEのエンコード時間
誤差とまではいえないものの、差はほとんどないといっていいでしょう。
System XZ Decompressionもその名のとおりXZで圧縮されたファイルを展開した際にかかった時間です。図8 の結果になりました。
図8 XZの展開時間
こちらも誤差とはいえないものの、差はほとんどないといっていいでしょう。
XsbenchはOpenMC の演算結果を使用するベンチマークです。図9 の結果になりました。
図9 Xsbenchの結果
ほぼ差がありませんでした。
GPU編
CPUのベンチマーク比較は厳しい結果でしたが、GPUではどうでしょうか。実際に見ていきましょう。
まずは毎度おなじみSuperTuxKartでの結果です(図10 ) 。
図10 SuperTuxKartの結果
あまり差がありません。
Unigine Heaven/Valleyでの結果は図11 のとおりです。
図11 Unigine Heaven/Valleyの結果
あまり差がありません。
最後にGLmark2の結果は図12 のとおりです。
図12 GLmark2の結果
誤差程度の差しかありません。
GPU、特にOpenGLに関してはほぼ差が出なかったことがわかりました。
まとめ
今回のベンチマークがRyzen 5 2400/3400Gの性能差のすべてではありませんが、そんな言い訳をするのも虚しいくらい速度差は乏しかったというのが現実です。理想的にぴったりハマったとしても1.2倍、多くの場合は少しだけの性能アップで、買い換える理由は全くなく、価格差が大きければ迷わず2400Gを買ってもよさそうということがわかりました。
とはいえ、Ubuntuを使用するのであればRyzen APUを選択するというのは現状ベストだと言ってもいいでしょう。
このRecipeでも第577回 などで取り上げているように、古いPCにインストールすると処理に時間がかかることも多くなってきていますので、可能な限り新しいPCで使ってほしいと思っています。
ただし、前述のとおりUEFI BIOSとUbuntuのバージョンには気をつけください。