生きる技術!叢書 
                    ためらいのリアル医療倫理
                    ―命の価値は等しいか?
                  
                  
                  - 岩田健太郎 著
 - 定価
 - 1,738円(本体1,580円+税10%)
 - 発売日
 - 2011.9.23[在庫なし]
 - 判型
 - 四六
 - 頁数
 - 216ページ
 - ISBN
 - 978-4-7741-4837-3
 
サポート情報
概要
延命治療をすべきか否か、人工妊娠中絶は正しいか正しくないか……イエスかノーかの二者択一をせまる命題は、医療の現場にはそぐわない。我々のとるべき態度とは、白か黒かの二元論から離れ、ためらいの口調で静かに対象と向き合うことではないか。3.11被災地における体験を縦糸に、命の価値をめぐる考察を横糸に、数々の修羅場をくぐりぬけてきた感染症医がその経験知をもとに贈る、患者も含め医療にかかわるすべての人に読んでもらいたいリアルな医療倫理の手引き。
こんな方にオススメ
- 医療とつきあう可能性のあるすべての人々
 - 重篤な疾患と直面している患者とその家族
 
目次
1 沈黙するよりほかない現場を前に
- 「どうせ生きていたってしょうがない」
 - 「患者の気持ちが分かる医者」と「患者中心の医療」
 - さまざまな有責性に耐えること
 - ありったけの想像力を動員して
 - リアルに死と向き合うことのない社会
 - 自分の命より大切なもの
 - 倫理的な正当性を担保するもの
 - 価値観の共有を前提にできるか
 - そこに責任が生ずるがゆえの「あいまいな口調」
 
2 イエス・ノー・クエスチョンから遠く離れて
- 同等にカウントできない死
 - 死の価値は距離と時間で変動する
 - 医療倫理が実現可能なものでなければならないこと
 - 距離感があるから正気を保てる
 - 「クジラを食べるのは正しいか」は正しい命題か
 - イエス・ノー・クエスチョンからの離脱
 - 生命の価値も距離に依存する
 - 正しい答えはない。主観があるのみ
 
3 死の定義は変わりゆく
- 人は連続的に死に向かう
 - 一度つないだら外せない人工呼吸器
 - 延命治療はどういう条件下で許容されないか
 - 一意的なマニュアルやフロー図のない場で
 - 人の死の基準は恣意的に作られてきた
 
4 ためらいつつ対峙する、という態度
- 自殺の是非を問う議論に意味はあるか
 - 絶望している人と対峙してためらうこと
 - ためらい、後ろめたさ、有責性
 - 患者の健康はいかなる時も第一のプライオリティか
 - 他者の生命と患者の個人情報とのトレードオフ
 - 「程度の問題」を考える必要が
 - 過度なコンプライアンス遵守主義はむしろ倫理に悖る
 - 朝日新聞にみる悪しき白黒二元論
 - 「他者の言葉」が免罪符となって
 - 「ためらいのマスメディア」は望めないのか
 
5 世界を白と黒で塗り分けすぎない
- 患者の自己決定権はどこまで尊重されるべきか
 - 医療者の良識によって判断されるべきこと
 - 「金を中心とした世界観」
 - 「正義」と「悪」がくっきり分けられるアメリカの世界観
 - 多くのスポーツは健康に悪い
 
6 医療者は「神の視点」に立てるか
- プロフェッショナリズムからメタ・プロフェッショナリズムへ
 - 「神の視点」があれば可能なのか
 - レヴィ=ストロースの西洋中心主義批判
 - 複眼的な態度が必要
 - 正義という錦の御旗があればいいのか
 - ファンダメンタリズムは医療の世界にフィットしない
 - 「あるなし」だけでなく「程度」が大事
 - 手前勝手な正義感と不寛容を基本とするマスメディア
 - ミドルメディア、スモールメディアも同じ轍を
 - 石巻日赤のカンファレンス現場から
 - 静かなためらいの語り口がふさわしい場
 - 評論家としてではなく「当事者」として語る
 - コミュニケーションは相互作用的に行われるもの
 - 「ためらいながら」対話を続ける
 
7 理性的なリスクテイカーをめざして
- HIV感染者とのマニュアルのない真剣勝負
 - 有責の念を感じながら患者をたぶらかすこと
 - タバコの害も放射線リスクも「程度の問題」
 - 85歳のじいさんと3本のタバコ
 - とあるロールモデルたる研修医の話
 - 医者はしばしば正しさを強く主張「しすぎる」
 - 命は数字としての寿命「だけ」でははかれない
 - 理性あるリスクテイカーたれ
 
プロフィール
岩田健太郎
1971年島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。1997年島根医科大学(現・島根大学)卒業。沖縄県立中部病院、コロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院内科などで研修後、中国で医師として働く。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。2004年帰国し、亀田総合病院(千葉県)に勤務。感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任し、現職。著書に『1秒もムダに生きない』『予防接種は「効く」のか?』(共に光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『バイオテロと医師たち』(最上丈二・ペンネーム、集英社新書)、『感染症外来の事件簿』(医学書院)、『感染症は実在しない』(北大路書房)など多数。