システムインテグレーション崩壊 ~これからSIerはどう生き残ればいいか?

「システムインテグレーション崩壊」のカバー画像
著者
斎藤昌義さいとうまさのり 著
定価
1,848円(本体1,680円+税10%)
発売日
2014.6.5[在庫なし]
判型
四六
頁数
216ページ
ISBN
978-4-7741-6522-6 978-4-7741-6542-4

概要

国内の需要は先行き不透明。
案件の規模は縮小の一途。
単価が下落するばかり。
クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。

工数で見積もりする一方で、納期と完成の責任を負わされるシステムインテグレーションの限界がかつてないほど叫ばれる今、システムインテグレーターはこれからどのように変わっていくべきか?

日本IBMの営業を経て、数多くの企業にコンサルティングを行う著者が、豊富な図解とともに現状とあるべき姿を解説する。

こんな方にオススメ

  • SIerに勤めるエンジニア、営業担当者
  • 企業の情報システム部門の方

著者の一言

「今、仕事が増えていて、人手が足りません。世間がいうほど、SI(システムインテグレーション)業界は危機的状況じゃないですよ。うちではみんな1.5人月分働いてくれていますが、それでも足りません」

そのやり方が、いつまで通用するのでしょうか?

「システムインテグレーションは崩壊する」

私はそう考えています。

ここでいうシステムインテグレーション(SI)とは、「工数積算を前提としたビジネス全般」のことです。準委任や請負などの受託開発、SES(システムエンジニアリングサービス)や派遣などがこれに含まれます。これを「SI」という言葉にまとめてしまうには少々抵抗もありますが、世間でシステムインテグレーター(SIer)と呼ばれる企業の多くは、これらをあわせ持って生業としているところが少なくありません。中にはSIerと自称しつつも、実態はSESと派遣が大半を占めているところも決してめずらしくありません。そんなことから、本書ではSIという言葉を広義に解釈して使っています。

本来、SIは、テクノロジーやノウハウを組み合せ、ユーザー企業の求める最適なシステムを構築する請負型ビジネスを意味します。その目的は今後も色あせることはなく、必要性は増していくでしょう。しかし、そこに関わるSI事業者の仕事の内容やユーザー企業との係わり方、あるいは役割といったものは変わるでしょう。収益を上げる手段やスキルも変わってきます。「SIが崩壊する」とは、そのような意味で申し上げています。

我が国のSIは、工数で見積もりする一方で、納期と完成の責任を負わされるビジネス形態です。このやり方は、ユーザー企業とSI事業者との間に利益相反と相互不信を生み出しています。

たとえば、あらかじめ予算が決まっているプロジェクトでは、要件を少しでも追加しようとするユーザー企業と、要件を削ろうとするSI事業者が対立を深めることになります。ユーザー企業は「瑕疵担保」という形で完成内容の保証を求めますが、SI事業者はコストを上積みしてリスクを担保しようとします。そこには、「少しでもいいシステムを作ろう」というお互いの創意工夫や、SI事業者の努力に応じた見返りなど期待できません。

それでも、これまでSI事業者は、ユーザー企業からの依頼に精一杯応えてきました。それは、ユーザー企業が成長し、仕事もそれに伴い増えている間は、仕事の依頼も増え続け、リピートも期待でき、業績を伸ばすことができたからです。

しかし、リーマンショックを境として、このサイクルは壊れてしまいました。ユーザー企業の成長の勢いは衰え、事業の主体は海外へとシフト、国内での需要は頭打ちです。

需要が伸びている時代は、ユーザー企業は工数を確保するために「棲み分け」という構図を築き、あえて競合を避け、単金の上昇をくい止めてきました。しかし、もはやその構図は崩れてしまい、いっそうのコスト削減のための「競合」は当たり前となりました。競合相手は、国内企業とは限りません。クラウドもまたSIビジネスの競合になろうとしています。一時的な需要の拡大はあっても、中長期的に見れば、確実にこれまでのSIビジネスの構図を変えていくことになるでしょう。

「このままではいけない、なんとかしなければ……」

そんな考えをお持ちの方は少なくありません。しかし「では、どんな取り組みをされているのですか?」と尋ねてみると

「いろいろと考えているところなんですよ」

と、去年と同じ発言を繰り返される方もまた同様に少なくありません。

このままでいいのでしょうか?

本書では、この現実を整理し、これからのSIビジネスのあるべき姿、そしてポストSIビジネスへのシナリオを考えます。

SI事業者やITビジネスに関わる方はもちろん、ユーザー企業の情報システムに関わる皆さんが、IT業界の現実を正しく理解し、自分たちの未来を考えていくための参考にしていただければ幸いです。

目次

第1章 システムインテグレーションが崩壊へ向かう3つの理由

  • SIビジネスに内在する「構造的不幸」
  • 開発リスクは増大し、案件規模は縮小する
  • 既存の収益モデルを脅かす新しい技術や市場
  • コラム コモディティ化

第2章 ビジネスの変革を妨げる壁

  • SI事業者に内在する3つの壁
  • ユーザー企業に内在する3つの壁

第3章 資産ビジネスからサービスビジネスへ

  • サービスビジネスへのシフトが期待される理由
  • 自社の付加価値をサービスとして提供するには
  • サービスを直販する
  • よそ様のサービスを売るだけでは儲かりません ~株式会社グルージェントの事例
  • 「SIビジネス」を2つに分けて考える
  • 新しい3つの収益モデル
  • クラウドやOSSの普及で、サービスビジネスへのシフトは容易になる
  • コラム サービスビジネスでは「個人力で売る」方法が通用しなくなる

第4章 クラウドを活用する

  • 「自家発電モデル」から「発電所モデル」へ
  • なぜTCOを削減できるのか
  • 基幹業務でも使われるようになりつつある
  • 日米のビジネス環境の違いから読みとく「クラウド導入の壁」
  • 「効率化・コスト削減への期待」は受け入れられない
  • クラウドで変わるITの常識にうまく対処して、その価値を引き出す
  • 3つのクラウドビジネスモデル
  • 受託開発が嫌いなんです ~某中堅ITベンダーの事例

第5章 オープンソースソフトウエアを活用する

  • 伸びないIT市場の中で突出した成長が見込まれる分野
  • なぜ、OSSが支持を集めているのか
  • OSSを利用するメリットとは
  • Consume(消費)からContribute(貢献)へ

第6章 グローバル化に対応する

  • 海外展開にはガバナンスの確保が不可欠
  • 現場に最適化されたプロセスはグローバル展開の足かせになる
  • 文化の違いを理解しなければ失敗する
  • グローバルなリソースを活用できなければ淘汰される

第7章 新たな存在意義と役割へシフトする

  • お客様のCIOの役割を果たす
  • ウォーターフォール型の開発プロセスでは新しい価値を発揮できない
  • 「アジャイル型請負開発」で高品質・短納期・利益拡大を両立させる
  • なぜ、アジャイル開発が受け入れられないのか
  • 日本人が得意とする「改善」をシステム開発で使わないのはおかしい ~NPO法人 ドットNET分散開発ソフトピア・センターの事例
  • サービスビジネスにはマーケティングが不可欠
  • ソリューション営業で差別化できる時代の終わり
  • ソリューション営業からイノベーション営業へ
  • 未知のニーズや課題に向かい、変革のプロセスに関わる
  • 変革の推進者を味方につける

第8章 ポストSIの事業・組織・人をどう創るか

  • 組織の収益区分や業績評価の基準を変える
  • ソリューションではなく「コンセプト」と「デザイン」に気を配る
  • 新規事業プロジェクトの進め方
  • 「自前主義」の限界を突破する
  • 若い人たちにチャンスを
  • みんなの力で会社を変える ~日本ユニシスの事例

プロフィール

斎藤昌義さいとうまさのり

ネットコマース株式会社 代表取締役。
1982年、日本IBMに入社、営業として一部上場の電気電子関連企業を担当。その後営業企画部門に在籍した後、同社を退職。
1995年、ネットコマース株式会社を設立、代表取締役に就任。産学連携事業やベンチャー企業の立ち上げのプロデュース、大手ITソリューション・ベンダーの事業戦略の策定、営業組織の改革支援、人材育成やビジネス・コーチングなどに従事。ユーザー企業の情報システムの企画・戦略の策定、IT企業とユーザー企業の新しい役割を模索する「ITACHIBA(異立場)会議」を企画・運営。その他、著書、雑誌寄稿や取材記事、講義・講演など多数。

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