著者の一言

シンプルな料理が好きです。粉と水を練った生地をゆでるだけ。

自由な料理が好きです。手元にある材料を入れて味を整えるだけ。

そんな発想から本書の「すいとん」が生まれました。ベースにあるのは、日本各地で昔からつくられてきたおなじみのすいとん。

「郷土食」⁠田舎のおばあちゃんの味」というイメージは、言い換えれば多くの地域・家庭・環境で食べられてきたことの証。じつはすいとんは現代においても、とっても優秀な家庭料理なんです。

私とすいとんとのはじめての出会いは、群馬県甘楽町でした。⁠道の駅甘楽」で特産品の小麦粉を生かしたレシピを開発することになり、1年間現地に通って、地元のお母さんたちから群馬の郷土食である小麦粉料理を教わりました。

農作業が忙しい時期でも、帰ってきてサッとつくって食べられる。季節の野菜をたくさん入れた温かな汁物を食べると、ホッとする。

そんな話を聴きながらごちそうになったのが、すいとんです。⁠定番すいとん」⁠P.60)としてご紹介しているのがそのときに教わったレシピ。

すいとんの魅力は何を入れてもいいところです。そのときある季節のものを野菜でも肉でも、食べたいだけ入れていい。

どんな組み合わせでも仲よく、おいしくなってくれるんです。わざわざ買い物に行かなくても食べられるって、台所を預かる身にとっては本当に助かること。

その大らかさ、懐の深さが、すいとんに惹きつけられた一番の理由です。

  • 「一品で必要な栄養をしっかり摂りたい」
  • 「下ごしらえなし、短時間で調理したい」
  • 「買い置きしてあるものだけでつくりたい」

そんな希望も丸ごと叶えてくれるすいとんは、言うなれば昔ながらの和製ファストフード。

必要な材料は粉と水だけ、調理は練ってちぎってゆでるだけと、思い立ったらすぐ、簡単につくれるのも魅力です。

食べ方のバリエーションも豊富で、温かな汁物に入れるのはもちろん、パスタやうどん、麺、パン、餃子の皮、団子、スナックにもアレンジ可能。

私がこれまで出会ってきたたくさんのおいしい「粉物」を思い起こしつつ、本書にはさまざまなバリエーションの41レシピを掲載しました。

さあ、まずはどれからつくりましょうか。

minokamo(みのかも)

長尾明子。料理家,写真家。岐阜県美濃加茂市出身。祖母が暮らした岐阜の築100年以上の家と東京を拠点にしている。日本の地域食の調査・提案をフィールドワークとし,自治体らと協力しながら特産品を生かした料理を数多く考案。

地元・岐阜県で新聞連載を担当するほか,著書に『料理旅から,ただいま』(風土社)『ふるさと雑穀のっけごはん』(みらい出版)がある。

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