「ファイナンスの視点は不可欠だ」「⁠最低限のファイナンスは理解しておいて」と言われる場面が増えています。なぜでしょうか？　筆者（村上）は2つの理由があると考えています。

1つめは、資金調達の意思決定に関わるからです。ファイナンスは経営における“血液”のような存在。マーケティングや人事の専門家が経営陣になっても、ファイナンスがまったくわからなければ、経営の舵取りを託すのは難しくなります。

2つめは、投資の意思決定に関わるからです。ファイナンスは「リスクとリターン」を扱う学問です。将来のリターンに対して、どれだけのリスクを取るべきか。これを考えずに意思決定するのは、勝率の低いギャンブルに賭けるようなものです。ファイナンスは、意思決定の質を高めてくれる武器なのです。

とはいえ、いざファイナンスを学ぼうとしても、壁を感じる人は少なくありません。会計の本に比べて、初心者向けでわかりやすいファイナンスの本は少なく、分厚く専門的なものが多いため、「⁠自分には無理かも」と感じてしまう人もいるでしょう。

そこで本書では、「⁠実務で使えるファイナンスを、ツボを押さえて学べる」ことを徹底的に意識しました。具体的には以下のとおりです。

• 見開き1ページで1テーマを学べる構成
• 左ページに文章、右ページに図解というスタイル
• 興味のあるパートから読み始められる6部構成

本書の最大の特徴は、「⁠スタートアップファイナンス」に特化していることです。筆者は銀行出身で、証券化、不良債権投資、不動産投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資などに携わってきましたが、スタートアップの世界に入ったとき、言葉も文化も違い、戸惑った経験があります。たとえば、「⁠PMF」「⁠バーンレート」「⁠ランウェイ」など、スタートアップ特有の言葉や資本政策の考え方などは、従来のファイナンスの本ではあまり扱われていません。だからこそ、本書ではスタートアップにおける実務に即した用語解説を重視しました。

共著者は、日本におけるベンチャーデットの第一人者、INQの若林哲平さんです。若林さんは本やネットには書かれていない、スタートアップの現場におけるファイナンスの手触り感のある知識と経験を多く持たれています。この2人の強みを最大限活かし、実践的かつリアルな内容に仕上げました。

「だれもが読める」そして「それぞれの立場で実務に使える」ことを目指して本書をつくりました。大企業で働くビジネスパーソンはもちろんのこと、中小企業やスタートアップの経営陣や、資金調達に向き合う起業家、さらに経営者や役職者を支えるメンバーの方々。加えて、ベンチャーキャピタルやスタートアップに関心のある若手ビジネスパーソンや学生、金融機関で働きながらスタートアップファイナンスを学びたい方や、将来的にスタートアップへの転身を考えている方も、本書から得られるものは大きいでしょう。また、コンサルティング業界出身でスタートアップにおいてファイナンス力を武器にしたいと考えている方にとっても、実務的な視点でファイナンスを捉えるきっかけになるはずです。ご自身の立場や関心に応じて、必要なパートから気軽に読み進めていただければと思います。

「ファイナンスを学ぶなら、この1冊から」――そう思っていただけたなら、著者としてこれ以上にうれしいことはありません。本書が、あなたのビジネスや人生における意思決定に小さくない力を与えることを心から願っています。