科学の扉 原子力の現在地 ― 放射線の利用から次世代原子炉まで ―
- 深田智 著
- 定価
- 1,980円(本体1,800円+税10%)
- 発売日
- 2025.7.2
- 判型
- 四六
- 頁数
- 208ページ
- ISBN
- 978-4-297-14955-0
サポート情報
概要
本書は,放射線の発生原理や種類といった基礎知識から始まり,医療・工業・環境分野での応用,人体への影響と防護,そして原子力発電の仕組みや安全対策までを幅広く解説しています。さらに,放射性廃棄物の処理や次世代原子炉の動向までを含む構成で,科学的・中立的な立場から情報を提供しています。専門的な内容も,図解や具体例を交えて平易に説明しており,理系初心者や原子力に関心を持つ読者にとって有用な一冊です。時事的な課題にも触れながら,「原子力とどう向き合うか」を考える視点を与えてくれます。
こんな方にオススメ
- 原子力について本格的に知りたい方
- 原子力についてどのような取り組みがなされているか知りたい方
目次
第1章 放射線の発生と原子炉内で起こる核反応
- 1-1 原子から分子を作る結合力の種類と強さ
- 1-2 原子の構造と表記
- 1-3 放射線の種類
- 1-4 同位体原子にある違い
- 1-5 放射線量を表す単位
- 1-6 原子核反応の例
- 1-7 地球内部で起こる原子核の崩壊と熱発生
- 1-8 核分裂反応で発生する特殊な元素,核種
- 1-9 崩壊系列
- 1-10 E=mc²の関係式,波長とエネルギーの関係
- 1-11 核力,強い力の起源
- 1-12 原子核の質量欠損と核子間の結合エネルギーの関係
- 1-13 核燃料核種では核分裂と中性子吸収反応が同時に進む
- 1-14 原子炉内で中性子を減速する理由
- 1-15 熱中性子と高速中性子の違い
- 1-16 核分裂の連鎖反応と核反応で発生する熱の大きさ
- 1-17 化石燃料の燃焼との発熱量の違い
- 1-18 原子炉中の中性子の動きと臨界とは何か
- 1-19 原子炉内で中性子増倍率を1に制御するには
- 1-20 反応度を使った核分裂反応の制御
- 1-21 水冷却核分裂原子炉の構成
- 1-22 軽水炉を含めた原子炉全般の世界の運転状況
第2章 放射線の利用と放射線の人体への影響
- 2-1 X線の診断への利用
- 2-2 X線あるいは中性子回折による結晶構造の解析
- 2-3 X線と中性子線の回折と内部透視像の比較
- 2-4 電子線の電子顕微鏡への応用
- 2-5 放射線による殺菌作用
- 2-6 強い酸化力を使った環境汚染物質の放射線分解
- 2-7 放射線照射による材料の性能向上と線源の幅広い利用
- 2-8 医療分野における高エネルギー放射線の利用
- 2-9 同位体を用いた年代測定法
- 2-10 放射線利用のまとめとその他の放射線利用
- 2-11 放射線被曝の2つの形態,放射線の人体への影響の分類
- 2-12 放射線防護の原則と外部被曝を避けるための方策
- 2-13 内部被曝量の把握
- 2-14 預託実効線量の考え方と低線量率での人の被曝影響
- 2-15 吸収線量グレイ Gy と実効線量シーベルト Sv
- 2-16 放射線被曝の確定的影響と被曝線量との関係
- 2-17 確率的影響と実効線量との関係
- 2-18 自然放射線の起源と自然放射線被曝量
- 2-19 過去の放射性核種取扱中の職業被曝事故の例
- 2-20 放射線の遺伝的影響と線量限度の設定
- 2-21 環境中の放射性核種の移行
- 2-22 放射性核種の管理,取扱施設からの排気,排水管理
第3章 原子力発電を安全に稼働するための方策
- 3-1 原子力発電の必要性を証明するために
- 3-2 世界各国の電源構成の現状
- 3-3 日本のこれまでの原子力発電所の導入状況
- 3-4 日本の発電原子炉の現在の稼働状況
- 3-5 原子力発電のためのウラン資源の安定確保状況
- 3-6 原子炉燃料としてのプルトニウム
- 3-7 兵器級ウランと兵器級プルトニウム
- 3-8 原子炉の熱的安定性の確保
- 3-9 燃料取り出し後の崩壊熱の長期間の放出と回収
- 3-10 原子炉緊急時の安全確保の原則
- 3-11 改善した非常用炉心冷却設備の設置
- 3-12 原子炉の多重防護策
- 3-13 深層防護と防護レベル
- 3-14 決定論的安全評価から確率論的安全評価へ(絶対安全思想からALARPへ)
- 3-15 炉心損傷確率CDF,格納容器損傷確率CFF,早期大規模放出確率LERFの内容
- 3-16 フォルトツリー(FT)とイベントツリー(ET)を使った原子炉安全性評価
- 3-17 原子炉機器の重要度
- 3-18 地震への備え
- 3-19 津波と火災防護への対応
- 3-20 過去の原子炉事故と異常運転発生頻度
- 3-21 トランスサイエンス(科学では答えられない課題)
第4章 原子力発電から出る放射性廃棄物の管理と処分
- 4-1 核燃料サイクルの必要性
- 4-2 燃料利用率とウラン資源獲得
- 4-3 ウラン濃縮
- 4-4 ウラン燃料棒の製造と燃焼度
- 4-5 使用済み燃料の一時貯蔵
- 4-6 湿式再処理法
- 4-7 混合酸化物(MOX)燃料の有効利用,プルサーマル運転
- 4-8 超ウラン元素(マイナアクチノイド)核種の分離と燃焼
- 4-9 放射性廃棄物の分類
- 4-10 気体と液体廃棄物の処理と処分
- 4-11 放射性固体廃棄物の分別と処分
- 4-12 高レベル廃棄物の最終処分
- 4-13 原子炉の稼働延長
- 4-14 原子炉の廃炉
- 4-15 原子力発電全体の発電単価と他の発電方式との比較
第5章 新しいタイプの原子炉
- 5-1 これまでの軽水炉をさらに安全にした改良型軽水炉
- 5-2 高温ガス炉を使って原子炉熱の利用を広げる
- 5-3 古くて新しいタイプの溶融塩炉
- 5-4 燃料を燃やしながら新たに燃料を作る高速増殖炉
- 5-5 小型で高性能のモジュラー炉(SMR)
- 5-6 加速器駆動の原子炉
- 5-7 新しいタイプの燃料を使うトリウム原子炉
- 5-8 次世代高性能の第4世代原子炉
- 5-9 核融合炉の成立条件
付録
- 放射線発見の歴史
- 発電原子炉誕生までの核分裂発見と核爆弾開発の歴史
- 原子力平和利用への道(発電原子力発電の歴史
プロフィール
深田智
九州大学総合理工学研究院名誉教授。専門は,核融合炉燃料サイクル,原子力工学,特に核燃料サイクル工学。著書に『溶融塩物性と利用ー新型溶融塩原子炉の実用をめざしてー』(九州大学出版会)と『核燃料サイクルと放射性物質の移行,原子力安全性向上への取り組み』(大学教育出版)がある。