著者の一言

原子力と放射線について、できるだけわかりやすく理解できるよう、かつ議論の本質を失わないようにと、一見非常に達成困難な目標を立ててこの本の著述に向かいました。原子力と放射線に関わる今の世の中で課題となっていることについ短く2ページにまとめ説明するように心がけ、かつ難しい数式を使わず、反応式も最低限にして説明に努めました。原子炉記述には不可欠と考えられる中性子束や断面積の用語は使っていません。エネルギーを電子ボルトeV、あるいはその百万倍のMeVの単位で表すことはやむを得ず、核反応エネルギーの起源、強い力から生じる点を記述しました。原子力安全性について、放射線と原子力の安全性議論の本質が、決定論的か確率論的かが議論の本質となると思い書くことに決め、批判を請うことにしました。

今、大学で原子力を教育する専攻が減っています。社会が要求する流れといえば仕方がありませんが、エネルギー選択の一つとして当面は原子力発電を社会が未だ要求していると思います。将来の選択については次の世代が考えることであり、現状について、原子力批判の声が社会で大きく聞こえる現状で、原子力発電の内容、核燃料サイクルの内容を基礎分野から始め、できるだけ正確な現状を伝えるべく、内容を絞り、図を多く引用してわかりやすさを第一に書き留めました。

深田智(ふかださとし)

九州大学総合理工学研究院名誉教授。専門は,核融合炉燃料サイクル,原子力工学,特に核燃料サイクル工学。著書に『溶融塩物性と利用ー新型溶融塩原子炉の実用をめざしてー』(九州大学出版会)と『核燃料サイクルと放射性物質の移行,原子力安全性向上への取り組み』(大学教育出版)がある。