著者の一言

AIの大波は、単なる変化の兆しではなく、SI業界における構造的な「革命」の序章です。 かつてない注目を浴びるAIは、クラウドサービスの充実、メタバース、IoT、ブロックチェーン、さらには量子コンピューティングといったテクノロジーの急速な広がりとともに、社会とビジネスのあり方を根底から揺るがし始めています。この巨大な変革の波は、当然のことながら、SI(システムインテグレーション)の世界にも例外なく到達し、SIerに「革命」とも呼べるほどの変化を突きつけています。

この変化の予兆は、決して昨日今日に始まったものではありません。2014年に刊行した『システムインテグレーション崩壊』では、ウォーターフォール型の大規模開発やオンプレミス構築に依存しがちな従来のSIビジネスが、激変する経営環境と技術発展の中でいかに脆弱化していくかを示しました。そのシナリオは、まさに現実のものとなりつつあります。続く2016年の『システムインテグレーション再生の戦略』では、この危機的状況に対し、クラウドやアジャイル開発を積極的に取り込み、SIer自らがデジタルサービス事業者へと転身することも含めた再生プランを提示しました。

そして8年が経過した今、私たちはさらなる、そしてより強力な変革の潮流に直面しています。その決定的な引き金となったのが、2022年11月に登場したChatGPTに始まる「AIの民主化革命」です。専門家だけの技術だったAIが、日常の言葉で誰もが活用できるサービスとして突如出現したのです。これを機にAIへの関心は爆発的に高まり、関連する製品やサービスは驚異的なスピードで進化・拡大し、企業の中期経営計画や国の研究開発ロードマップに「AIの利活用」が当然のように組み込まれる「AI前提社会」が、不可逆的に始まろうとしています。

このAIの大波は、SIビジネスの根幹を揺るがしています。AI駆動開発による生産性の劇的向上、予測不能な変化に即応するアジャイル開発、クラウドネイティブへのシフト、DevOpsとAIOpsの融合、そしてユーザー企業による内製化の拡大などは、従来のSIビジネスを支えてきた「工数」という概念そのものを過去のものにしようとしています。もはや、人月ベースのビジネスモデルでは、この大波に立ち向かえません。

だからこそ今、SI事業者やITベンダーは、⁠脱人月」を旗印に、次なるステージへと踏み出さなければならないのです。本書『システムインテグレーション革命』は、⁠崩壊」⁠再生」に続くシリーズ第三弾として、SIer自らがDX(デジタルトランスフォーメーション)を断行し、AIが前提となる時代に自らを「変革」し、その存在価値を再定義するための具体的な「シナリオ」を描き出すものです。

本書が提示する「変革のシナリオ」は、以下の3点を核としています。

  • システム開発から、AIを活用した事業開発・事業変革支援への大胆な転換
  • アジャイル、DevOpsといったモダンITの真の定着と、AI活用の日常化
  • パーパスドリブン経営と、AI時代に不可欠なエシカルガバナンスの実践

これらの視点から、従来のSIビジネスの常識をいかに打ち破り、AI時代にふさわしい新たな事業モデルを構築していくかを具体的に提案します。

AIやクラウドといった先端技術がいかに進化しようとも、最終的に「その技術を何のために、どう使うのか」を決定するのは、私たち人間の意思と価値観です。テクノロジーが自動的に輝かしい未来を創造してくれるわけではありません。企業や組織がどのようなパーパス(存在意義)を掲げ、どのような社会を実現したいと願うのか。それこそが、AIを活かすための土台となるのです。

SI事業者やITベンダーもまた、⁠自分たちはなにを目指すのか」という明確なビジョンを持ち、まず自らがDXに果敢に取り組むことで、その実践知を獲得しなければなりません。それによって初めて、顧客にとって単なる“外注先”ではなく、自らの手で掴んだ知見を活かして“新しいビジネスを共創するパートナー”へと進化できるのです。従来の受託請負や工数提供といった枠組みから勇気をもって飛び出し、テクノロジーを駆使して社会課題の解決をリードするイノベーターとしての存在感を示すことこそが、これからの時代を生き抜き、成長し続けるための唯一の道です。

本書が示すシナリオは、決して平坦な道のりではありません。前例のない領域への挑戦は、短期的に見れば既存の組織文化との摩擦や、収益モデル転換に伴う痛みを伴うでしょう。しかし、この「革命」を先延ばしにすれば、いずれ本当の意味での“崩壊”が現実のものとなりかねないのです。

なお、本書に登場するITキーワードについては、拙著『⁠⁠図解】コレ1枚でわかる最新ITトレンド[改訂第5版⁠⁠技術評論社 2024年6月)をご参照いただければ幸いです。DXを支える最新テクノロジーの基礎知識は、本書の理解をより深める一助となるはずです。

読者の皆さまが本書を手に取り、自社のDXを推進し、SIビジネスの再構築という困難な、しかしやりがいのある挑戦に踏み出す一助となれば、これに勝る喜びはありません。それが実現できたとき、必ずや優秀な人材が集い、活気に満ちた組織を築き上げることができると確信しています。

人月依存という旧時代の呪縛を解き放ち、AIと共に新たな価値創造モデルを確立する。それこそが、これからのITベンダー、SI事業者が進むべき道であると、私は強く信じています。

今こそ、このAIの大波を自ら捉え、SI業界の新たな『革命』を牽引するときではないでしょうか。

(本書「はじめに」より)

斎藤昌義(さいとうまさのり)

1982年,日本IBM に入社,営業として一部上場の電気電子関連企業を担当。その後営業企画部門に在籍した後,同社を退職。

1995年,ネットコマース株式会社を設立,代表取締役に就任。産学連携事業やベンチャー企業の立ち上げのプロデュース,大手IT ソリューションベンダーの事業戦略の策定,営業組織の改革支援,人材育成やビジネスコーチング,ユーザー企業の情報システムの企画・戦略の策定などに従事。

IT 関係者による災害ボランティア団体「一般社団法人・情報支援レスキュー隊」代表理事。『未来を味方にする技術』『システムインテグレーション再生の戦略』『システムインテグレーション崩壊』(すべて技術評論社 刊)ほかの著書,雑誌寄稿や取材記事,講義・講演など多数。

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