著者の一言

著者のことば

本書は、2025年1月から始まった大学入学共通テスト「情報Ⅰ」試験対策用に対応した演習用問題集です。情報という教科は、私たちの生活や社会に密接に関わる一方で、まだ新しい教科でもあり、学習内容や出題傾向に不安を抱く受験生も多いことでしょう。そこで本書では、⁠情報Ⅰ」の全範囲を丁寧にカバーし、基礎から応用まで段階的に実力を養えるよう工夫しました。

問題は、実際の出題形式を意識しながらも、多様な切り口で設問を構成しており、読解力・思考力・判断力を総合的に鍛えることを目指しています。また、詳しい解説を付すことで、単なる正解の暗記ではなく、内容の理解と応用力の定着につながるよう心がけました。

本書が、受験生の皆さんにとって信頼できる「道しるべ」となり、情報活用力を育む一助となることを願っています。

普連土学園中学校・高等学校 教諭
渥見 友章

本書は、大学入学共通テスト「情報Ⅰ」に対応した問題集ですが、⁠情報Ⅰ」の学びのゴールは共通テストではありません。むしろ、⁠情報Ⅰ」の学びはこれからの社会を生きる人々にとって重要な教養となるものです。

そもそも「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」は、問題解決のための学問として位置づけられています。つまり、情報を活用して課題を解決するための学びなのです。その学習内容は、コンピュータ技術に特化した「情報科学(Computer Science⁠⁠」にとどまらず、より広い領域である「情報学(Informatics⁠⁠」を包含しています。

本書が目指すのは、単に知識を覚えることではありません。⁠生きて働く知識・技能」「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力」を養い、⁠学びを人生や社会に活かす」ことを期待しています。

このような学びのプロセスは、DIKWモデルの考え方からも理解できます。このモデルでは、データから情報へ、情報から知識へ、知識から理解へ、理解から知恵へという流れが示されており、単なるデータから価値ある知恵を生み出すことの重要性が説かれています。

本書は、こうした知識の系統を意識して構成されています。さらに、理解を深めるための動画コンテンツや、実践的・体験的な学びを促すWebアプリケーションも掲載し、多角的な学習をサポートしています。

「情に報いる」と書いて「情報⁠⁠。

この言葉が示すように、情報とは人と人とのつながりの中で価値を生み出すものです。大学入学共通テスト「情報Ⅰ」への取り組みを通じて得られた学びが、皆様の今後の人生において生きた知恵となることを願っています。

大分県立日田高等学校 情報科教諭
伊藤 大貴

監修のことば

本書を手に取ったみなさんへ。

私たちの日常は、気づかぬうちに無数の情報によって支えられています。天気予報を見て傘を持つか決め、交通系ICカードで改札を通り、SNSのタイムラインで友人の近況を知る。その一つひとつの背後には、データを集め、整理し、私たちに届けるための仕組みが静かに動いています。情報という科目は、この社会を動かす仕組みの「なぜ」「どうやって」を解き明かし、自ら作り変えるための力を与えてくれる学問です。

この本は、そのための9つの章からなる「知恵の箱」です。統計と可視化のレンズで複雑な状況を見渡し、アルゴリズムの思考法で解決の手順を設計し、ネットワークの仕組みで世界とつながり、データサイエンスの知見で理解を体系化する。各章は独立して学べますが、前章の学びが次章のヒントになるよう、理解がゆっくりと螺旋を描いて深まるように構成されています。 学びを具体的に支える仕掛けも用意しました。各問題の解説は思考の足がかりとなり、紙面と連動した動画では、動きを伴う概念を確かめられます。疑問が浮かんだらページをまたいで調べ、自分の言葉で整理してみてください。その往復が、ここで得た方法を、身体に染み込ませていくはずです。

私は大学や高校で、学生や生徒たちが「これを試してみたい」と目を輝かせる瞬間に何度も立ち会ってきました。学びは、点数を取るためだけのものではありません。何より先に、みなさんの好奇心を動かすものであってほしいのです。本書では、例題が日常の疑問と結びつき、次の探究へとつながる余白を大切にしました。うまくいかない点に気づけば、それが新しい学びの入口です。解説を読み返し、それでも分からなければ、ぜひ仲間や先生に「なぜ自分はこう考えたのか」を説明してみてください。言葉にする過程で、思考の曖昧だった部分がはっきりと輪郭を結ぶはずです。

この一冊は、多くの人の手によって作られました。編集部の皆さんは図と文章の呼吸がそろうまでレイアウトを調整し、著者のお二人は教室でのつまずきを拾いながら例題を磨き上げ、監修者である私は「学びが生活につながる道筋」が確かであるかを確認しました。この本が長く机の上に置かれ、日々の学習はもちろん、課題研究や文化祭の企画といった活動にも役立つ存在になれば、これほど嬉しいことはありません。

本書で培った視点が、やがて社会や日常の問題解決に活きることを信じています。ページを閉じたあとも、身近な出来事をデータの目で捉え直す習慣を続けてください。それこそが時代を切り開く力を育てる最良の訓練です。

さあ、この本を開いて問題と向き合ってください。未来を自ら描き出すための、確かな力を手に入れるきっかけになるはずです。

山梨大学教育学部
准教授 稲垣俊介

渥見友章(あつみともあき)

普連土学園中学校・高等学校 情報科・技術科教諭。

神奈川県立高校および私立中高一貫校で数学科・情報科の教員を経て現職。「分かりやすく,実力がつく,楽しい授業」をモットーに,さまざまな学力層の生徒に向き合ってきた。また,情報Ⅰの共通テスト模試などの作問・校正,検定教科書のコンテンツ制作,映像学習サービス「学びエイド」の講師など幅広く活動している。教育の現場と学習支援の両面から関わり,情報教育の質の向上と学びの可能性を広げることを目指して日々取り組んでいる。主な著書に『スライドで見る全単元の授業のすべて 情報I高等学校』(東洋館出版社)があり,全国の教育現場で活用されている。

伊藤大貴(いとうだいき)

大分県立日田高等学校 情報科教諭。情報処理学会 初等中等教育委員会。大分県高等学校教育研究会教科「情報」部会 専門副委員長。

「知識を実践に活かす学び」を重視した授業を目指し,情報教育における統計学習教材やプログラミング教材の研究,探究学習の手法開発に注力している。「座学中心」の授業からの脱却を目指し,実践的・体験的な学びを重視したWebアプリケーションを数多く開発しながら,検定教科書や問題集の校閲・編集などにも携わる。

稲垣俊介(いながきしゅんすけ)

山梨大学教育学部准教授。東京都立高校や私立高校の情報科教諭として20年以上教壇に立ちながら,東北大学大学院情報科学研究科博士後期課程にて博士(情報科学)を取得。教室で直面した課題を研究へ昇華させ,その成果を授業へ還元する「実践と研究の循環」を信条とする。専門は情報モラルと授業設計。特に「情報Ⅰ」のデータ活用分野を対象にしたカリキュラム開発と評価の実践研究が評価され,2024年に情報処理学会山下記念研究賞を受賞した。文部科学省「情報Ⅱ」教員研修用教材作成ワーキンググループ委員として教材作成に参画する傍ら,日本文教出版発行の高等学校の情報科教科書や教育専門書の執筆,高校生向けの参考書と問題集の執筆・監修などを幅広く手掛ける。全国の研修会やメディア登壇を通じて授業改善の知見を発信し,後進の育成と現職教員の研修支援に尽力する。情報を用いて社会課題を探究し,その解決に貢献できる人材を育むため,現場と学術を往還し続けている。