本書は、マンガ・アニメ・ゲームのデータを使って、楽しくデータ可視化の基礎を学ぶ本です。
データ可視化とは、複雑なデータを人間が見てわかる表現に変換できる技術です。天気予報の図や経済ニュースのグラフ、感染症の推移を表すチャートなど、私たちの周りにはたくさんの例があります。小学校で習った棒グラフや折れ線グラフもその仲間です。いまや学校でも仕事でも、データを的確に捉えてわかりやすく伝える力は欠かせません。現代社会において、データ可視化は多くの人にとって身につけておきたい重要なリテラシー・教養の一つと言えるでしょう。
ただ、いざ学ぼうとすると「理論」と「実践」、2つのハードルが現れます。
理論面のハードルは、必要な知識の幅広さです。大量のデータを扱うための「情報科学」や人がどのように物を見るかを理解する「認知科学」など背景となる学問は多岐にわたります。初学者の段階でこれらをすべてを学ぼうとすると、その情報量や種類に圧倒されてしまうかもしれません。
実践面のハードルは、作業の地道さや時間です。分析には、データを集め、整え、加工する大量のデータ処理作業が不可欠です。筆者もかつて、個人的に当時人気があったタレントの画像を集めて分析してみようとしたことがありますが、数百枚もの画像データを手作業で整理する段階で「貴重な時間を使って何をやっているんだろう」と我に返り、挫折してしまった経験があります。「なんとなく好き」という程度の動機では、データ分析特有の長時間の作業に耐えるのは困難でした。
本書は、データ可視化・データ分析に興味を持ち、この2つのハードルを楽しみながら乗り越えてみたい方々に向けて執筆しました。
まず理論面では、難しい数式やグラフの書き方よりも「なぜその形なのか」を解説します。たとえば「なぜ棒グラフは棒で、折れ線グラフは線なのか」。人間の目のしくみから理由を知ることで、誰かに誤解なくメッセージを届けるための「伝わる表現」が自然と身につきます。
次に実践面では、モチベーションを維持できるよう、多くの人に馴染み深いマンガ、アニメ、ゲームのデータを対象としました。長時間の作業で目的を見失いがちなデータ処理も、自分の好きな作品のデータであれば、宝探しのようなワクワクする作業へと一変するでしょう。本書のGitHubリポジトリには環境構築用のDocker設定ファイルと前処理済みのデータを格納してありますので、コンピュータとネットワークがあれば気軽に分析・可視化の世界に飛び込めます。
最後に本書を通して伝えたいのは、データ可視化が持つ本来の「楽しさ」です。自分の手でデータを加工し、これまで見えなかった作品の特徴や傾向が浮かび上がってきたとき、言葉にできない達成感と感動があります。筆者自身、マンガデータを分析することで新たな発見があり、よりいっそうマンガが好きになるという自分にとって快適なループの中にいます。
あなたには、データを眺めるだけで心が躍る、そんな興味・関心の対象はありますか。もしあるなら、ぜひそれを入り口にしてデータ分析・データ可視化を始めてみてください。また、もしそれがマンガやアニメ、ゲームなら、本書はきっと楽しめる1冊になるはずです。そこからみなさんのオリジナルの新たな分析・可視化の切り口も模索してみてください。さあ、自分の手でデータを可視化することで、大きく広がる世界を体験してみましょう。
kakeami(かけあみ)
都内マーケティング会社で数理モデルの研究に従事する傍ら,ジョージア工科大学大学院で計算機科学を専攻。少年時代はマンガ家に憧れ,現在はデータ分析という形で日本のポップカルチャーに向き合う。難解な概念を身近なデータで解き明かし,学習者が直面する理論と実践の壁を取り払うことを目指す。二児の父。
【GitHub】https://github.com/kakeami
本書について
本書は元々「マンガ・アニメ・ゲームといった豊かな創作物のデータを,自分で可視化できたらどんなに楽しいだろう」という著者の思いから生まれた企画です。この分野のデータ分析には正解がないことも多いため,本書の構成やアプローチは著者の個人的な経験と視点に基づいています。
なお,本書著者は勤務先の規程により本名や所属先を出さず,ペンネーム「Kakeami」で執筆しています。分析内容や見解は著者個人に属し,所属する組織・団体の公式見解ではありません。
本書で扱うデータは,著作権法を遵守した上で参照・分析を行いました。偉大な作品を生み出してくださった創作者・関係者の方々に深く敬意を表しつつ,データを通じて見えてくる新しい視点を読者と共有することを目指し,データ可視化・データ分析の解説を行いました。