著者の一言

「品質とは何か?」は、多くの現場で議論され続けている問いです。筆者自身も、よく「品質とは何ですか?」と聞かれますが、その答えは1つではありません。顧客価値を守る、というほぼ普遍的な方向性はあるものの、守るべき価値の形や優先順位は、会社やプロダクトによって変わるからです。だからこそ本書では、⁠品質をどう作るか」をチームで定義し続けるプロセスこそが重要だと考えています。その営みは、⁠チームの意思決定の質」そのものです。何を優先し、どこまでを守り、どのリスクを受け入れてリリースするのか。日々の判断の積み重ねが、結果としてプロダクトの品質を形づくります。そして、ひとたび品質の問題が表に出ると、SNS や口コミを通じて一気に広がります。企業の評判やビジネスに直結することも珍しくありません。

こうした中で、品質保証(QA:Quality Assurance)という職能は、単なるテスト作業にとどまらず、プロダクト開発のさまざまな場面に関わる役割へと広がっています。一方、現場では「QAエンジニア=テストをする人」⁠リリース前に不具合を見つける人」というイメージがいまだに根強く残っています。⁠どこまでを任せてよいのか」⁠どのように協力すればよいのか」が見えづらい、という声も少なくありません。

筆者自身、QAエンジニアとしてキャリアをスタートしてから、スタートアップから大手企業まで、開発規模や求められる品質が異なる現場を経験してきました。その過程で強く感じたのは、QAエンジニアが担う役割は単なる「不具合を見つける人」ではなく、プロダクトの「品質の基盤を支える存在」だということです。

QAエンジニアが行うテストは品質保証の一部にすぎません。むしろ「品質保証のために何が必要か」を考え、開発チームやビジネスチームと連携しながら、プロセスや仕組みを整えることが求められる場面も多くあります。QAエンジニアという職種が注目されるようになったのは比較的最近のことです。しかし、その役割や期待値は年々変わり、いまや「品質を守るために必要なことを、状況に応じて担う」存在へと広がっています。

本書は、⁠QAエンジニアにはどこまでを任せてよいのか」⁠テスト以外で何を期待してよいのか」といった疑問を持つ開発者(エンジニア)やPdM(プロダクトマネージャー⁠⁠、あるいはこれからQAエンジニアを目指す人に向けて書きました。QAエンジニアという仕事の全体像と、現場での具体的な関わり方をわかりやすく伝えることを目的としています。本書でいう「プロダクト開発に関わる人」とは、主に開発者やPdM、デザイナーなど、プロダクトの企画・設計・実装・運用に関わる人を指します。

なお、本書は、テスト設計技法やテスト戦略を網羅的に解説する「テスト技術の教科書」ではありません。本書は用語や前提を必要な範囲で補いながら、⁠プロダクト開発チームがQA エンジニアとどう協力すれば、品質とビジネスの両面でよい結果を出せるか」という観点に焦点を当てています。

品質保証の考え方や実務の流れを理解することが、専任のQAエンジニアの有無にかかわらず、プロダクト開発全体に品質志向を浸透させる一助になることを願っています。また、開発者やPdMがQA エンジニアの視点を知ることで、設計や実装の品質が向上するだけでなく、プロジェクト全体の生産性やリリース後の価値向上にもつながることを期待しています。

本書を通じて、読者のみなさんがQAエンジニアの役割や意義を理解し、⁠QA エンジニアと一緒にどのように品質を作っていくか」を考えるきっかけとしていただければ幸いです。

(本書「はじめに」より)

岩崎駿(いわさきしゅん)

QAエンジニア。2014年よりソフトウェア業界で品質保証に携わり,スタートアップから大手企業まで,開発規模や求められる品質の異なる現場を経験。テストにとどまらず,仕様レビュー,リスクの可視化,テスト自動化,QA組織の立ち上げ・育成など,品質を支える活動に幅広く関わる。現役のQAエンジニアとして実務に携わるほか,QA顧問・アドバイザーとして企業の品質活動も支援する。

QAエンジニアは,プロダクト開発の現場で大きな価値を発揮できる職業だと考えている。一方で,テストの先に何を学び,どう成長すればよいのかが見えにくい。より多くの人にQAの魅力と,現場で価値を発揮するための視点を伝えたいという思いから,初心者向けの情報発信や個人向けの指導を続けている。本書は,QAの仕事や価値,チームで品質をつくるための視点を,プロダクト開発に関わる人に伝えることを目指して執筆した。