著者の一言

今日のIT技術を学ぶ上で、Linuxは欠かすことのできない存在です。大規模な計算を担うスーパーコンピューターからWebサーバ、身近なスマートフォンや家電まで、その活用範囲は実に広大です。ITシステムの構築や運用に携わろうとするなら、Linuxは「基礎教養」の1つになったといってよいでしょう。

Linuxについて、インターネット上には膨大な情報が見つかります。コマンドの使い方、設定ファイルの記述例、トラブルへの対処方法など、必要な情報を探し出すこと自体は、以前よりもはるかに容易になりました。さらに現在では、生成AIに質問すれば、調べたい内容についてその場で説明を受けたり、コマンドや設定例を提示してもらうこともできます。それにもかかわらず、Linuxの学習につまずいてしまう人は少なくありません。その理由の1つは、存在を知らない概念を検索することはできないという点です。検索によって情報を得るためには、あらかじめ「何を調べるべきか」を知っている必要があります。しかし初学者にとっては、わからないことを検索可能な言葉にすること自体が難しいのです。また生成AIが示す回答も、常に正しいとは限りません。もっともらしい説明の中に誤りが含まれていたり、古い手順と新しい手順が混在していたり、利用している環境には適さない操作が提案されることもあります。こうした間違いを見抜くのも、初学者には困難でしょう。

Web検索や生成AIの回答は、目の前の疑問を解決する強力な手段です。しかしそこで得られる回答は、多くの場合、個別の問いに対する断片的な情報です。それぞれの知識がどのように関連し、Linuxというシステム全体の中でどのような位置を占めているのかまでは、必ずしも示してくれません。場当たり的な答えだけを集めていると、個々の操作はできるようになっても、その理由や背景を理解できないままになりがちです。学習の最初の段階で必要なのは、細部を深く掘り下げることよりも、まず全体を見渡すための地図を手に入れることだと筆者は考えています。本書はこれからLinuxを学ぶ人が、学習の土台を築くための「ガイドブック」となることを目的として執筆しました。Ubuntu 26.04 LTSを題材に、実際にLinuxを利用・管理していく上で知っておきたい基本事項をできる限り網羅し、体系的に学習できるよう構成しています。また本書では、Ubuntuに固有の仕組みや、日常的な運用の中でUbuntuと付き合っていくための「お作法」も重視しています。ディストリビューションが採用している方針や管理方法は、個々のアプリに比べてまとまった形で説明される機会が少なく、暗黙知になりがちです。本書ではそうした部分についても、必要な背景を含めて丁寧に説明するよう努めました。本書が読者のみなさんにとって、Linuxの世界へ踏み出すための案内役となり、その後の学習を支える確かな足場となれば幸いです。

水野源(みずのはじめ)

1980年,神奈川県生まれ。北海道在住。日本仮想化技術株式会社に所属し,Linux,Ubuntu,仮想化,クラウドを中心とした技術検証や情報発信に携わる。プライベートではUbuntu Japanese TeamおよびUbuntuメンバーとして,日本におけるUbuntuの普及やコミュニティ活動にも参加。技術記事や書籍の執筆を通じて,初心者にもわかりやすく,実際の運用に役立つ技術情報を伝えることを心がけている。趣味は写真撮影。主に北海道内で,星景や野生動物を中心に撮影を行っている。ちなみにたけのこ派。