2023年以降、生成AIは急速に一般化し、文章生成や要約、コード生成といった個人の生産性向上を超えて、企業の業務や意思決定そのものに入り込み始めました。プロダクト開発の現場でも、調査、要件整理、デザイン、実装、テストにかかる制約は大きく下がり、「作れるかどうか」よりも「何を作るべきか」「何を作らないか」「そこから何を学ぶか」という意思決定の重みが増しています。
しかし、AIによって変わっているのは、開発速度だけではありません。プロダクトは人が操作する道具から、判断や業務を前に進め、成果にまで踏み込む存在へと変わりつつあります。それに伴い、顧客体験、開発の進め方、GTM、プライシング、組織、経営のあり方までが連動して変わり始めています。AIはプロダクトに新しい機能を加えるだけの技術ではなく、プロダクト開発全体の前提を書き換える技術です。
一方で、変わらないものもあります。そのプロダクトは、誰のどんな未充足な課題を、どのような価値として届け、どのような仕組みで継続的に成立させるのか。AIによって仮説を作り、試し、実装する速度が上がるほど、この問いはむしろ重要になります。答えを生み出すコストが下がったからこそ、どの問いに向き合うのか、何を選び、どの価値に責任を持つのかが、より鋭く問われるようになるからです。
本書では、プロダクトの本質、プロダクト構想、プロダクトマネジメント、デザイン、開発、ビジネスモデル、組織、経営という観点から、AIによって何が変わり、何が変わらないのかをとらえ直していきます。ここで提示するのは完成された正解ではありません。変化が急速に進む今だからこそ見える構造を整理し、自ら問いを立て、判断し、学習し続けるための思考の足場を残すことを目指しました「ALL for AI」というタイトルには、AIを目的化するという意味ではなく、AIによって変わった前提を受け止め、プロダクト開発に関わるすべての営みを、もう一度顧客価値の創造に向けてつなぎ直すという意図を込めています。本書が、読者それぞれの現場で前提を問い直し、新しいプロダクト開発の形を考えるための一助になれば幸いです。
宮田善孝(みやたよしたか)
京都大学法学部卒業後,Booz & Company(現PwC Strategy&),Accenture Strategy にて,事業戦略,マーケティング戦略,新規事業立案などの経営コンサルティングに従事。その後,DeNA,SmartNews にてBtoC 向けコンテンツビジネスを,データ分析,プロダクトマネージャーの両面から経験。freee では新規SaaS の立ち上げを行い,執行役員VPoP として約50 名のプロダクトマネージャー組織を管掌。
現在はZen and Company を創業し代表取締役を務め,大企業からスタートアップまでプロダクト戦略,新規事業,AI を活用したプロダクト開発を支援。ソニー(株) Senior Advisor を歴任し,Product/AI では,AI 時代のプロダクト戦略をテーマとするカンファレンスやPodcast の企画· 運営に携わる。日本CPO 協会 常務執行理事,ALL STAR SAAS FUND PM Advisor,Product/AI 運営委員,電気通信大学非常勤講師。米国公認会計士。著書に『ALL for SaaS』(翔泳社)。