世界の海野が撮る昆虫の擬態

この夏、全く昆虫に出逢わなかった人は、ほとんどいないだろう。とかくこの世は昆虫だらけ。世界中のあらゆる場所に、膨大な種類の昆虫が住んでいる。昆虫の種類数は、名前ついているものだけで110万。それぞれの種が独自の生活様式を持っていることを考えれば、その世界がいかに多様性に富んだものであるかは、想像するに難くないだろう。

本書は、そんな昆虫の生活戦略の中の、擬態に着目。日本が誇る昆虫写真家「海野和男」の美しい写真と共に、昆虫たちがどんな擬態を駆使して生きているのかを、分かりやすく解説していく。華麗なる昆虫擬態の世界を、存分に堪能してほしい。

 

光を利用して立体感を消す

チョウやガの幼虫はまるまると太っているから、よく目立つはずだ。ところが自然界の中では、大きな幼虫であっても見つけにくいものである。それはチョウやガの幼虫が、体の色やとまり方で、なるべく目立たないようにする工夫をしているからだ。

ヤママユ幼虫
(背中を下にすると立体感が消えて目立たない)
海野和男>
ヤママユ幼虫(背中を下にすると立体感が消えて目立たない)<写真・海野和男>

ヤママユの幼虫は、ふつう腹側を下にして葉や枝にとまっている。よく観察してみると、背中側の色が腹側より明るい色彩をしていることがわかる。ヤママユの幼虫は、腹側を上にして色の薄い部分に影をつけることで、背中と腹側が同じような濃さの色となるようにしている。色の濃淡が、立体感を消すのに役立っているのだ。

ヤママユ幼虫
(ひっくり返すと立体感が増して目立つ)
ヤママユ幼虫(ひっくり返すと立体感が増して目立つ)

このヤママユの幼虫のとまっている枝を切って、背中側を上にしてみよう。すると、その幼虫の太り具合が強調されてしまい、立体感のあるイモムシの姿が浮かび上がってくる。

チョウやガの緑色の幼虫は、ほとんどの種がこの原理にしたがって生活している。体の背中側か腹側のどちらかの色が薄く、その薄い方を下にしてとまるのである。だから、幼虫を見てどちらの色が濃いかを調べれば、自然の中でどのような姿勢でとまるかが想像できるのだ。