「人は泣くとなぜ涙を流すのか?」「涙はなぜしょっぱいのか?」などという疑問を、みなさんも一度はいだかれたことがあるのではないでしょうか? いやその前に、なぜ涙なんてものがあるのでしょうか?
涙には大きく分けて、ふたつの種類があります。ひとつは、おそらくみなさんがイメージする涙、「刺激・反射性分泌の涙」です。いわゆる泣いたときに出る涙、感情の動きであふれ出てくるもの(エモーショナルティア)、あるいは、目にゴミや煙などの異物が入った時にそれを洗い流すために反射的に分泌されるもの(リフレクショナルティア)がそれです。もうひとつは、「基礎分泌の涙」。目の表面に常に微量に供給され蓄えられている涙で、目の表面を乾燥から守ったり、酸素や栄養素を運んだりしています。
普段、目を覆っている涙の量は、およそ7マイクロリットルぐらい。1日に分泌される涙の量として計算しても、約1ミリリットル程度。1年で365ミリリットル。10年分でやっと牛乳ビン2本分というわずかな量です。そんなわずかな量の涙がない(足りない)だけで、目は厳しい環境下にさらされてしまいます。人に視覚をあたえる目という感覚器にとって、涙は母なる海ともいえるでしょう。
涙が足りない、目が疲れる、いわゆる疲れ目の原因として注目されているドライアイという病気があります。ゲーム、パソコン、携帯電話など、目を酷使するアイテムに囲まれた現代では、多くの人が目の疲れなど、目に不快感を感じているようですが、その不快感は単に目の疲れだけではなく、目の乾き、ドライアイという病気の一症状なのかもしれません。
本書『涙のチカラ』は、眼科医でもある筆者自身、ドライアイという病気と向かいあいながら、涙という小さな環境についてフォーカスし、研究してきた中から生まれてきた本です。「自分の涙が足りないことを知ってから、僕は眼科の中で、ドライアイという病気を専門に研究することに決めた。」(本書まえがきより)
たった7マイクロリットルの涙ですが、その中にはたくさん科学や、緻密な生物のメカニズムが秘められています。乾いていく未来にむけて、涙という小さな海に秘められた大きな「チカラ」に、ぜひご注目を。