生命科学は、生物の生きるしくみを遺伝子やタンパク質を中心とした分子のレベルで理解しようという学問です。よく知られているトピックには、自分の細胞を使った人工臓器や人工皮膚を可能にすると言われているiPS細胞、羊ドーリーで一躍有名になったクローン動物、微生物や植物を利用した土壌浄化技術バイオレメディエーション、特定の農薬に強い遺伝子組換え作物などがありますが、なんと、生物の進化のしくみも生命科学から読み解かれようとしています。
そもそも、ヒトも含めた私たち生物の共通点は何だと思いますか? それは、「細胞」です。細胞には核があり、その中に含まれるDNAに遺伝子があります。この遺伝子の情報を基にタンパク質がつくられ、生命活動が行われます。「DNAからタンパク質」という流れは、地球上のすべての生物に共通な基本法則です。親から子へ、そしてそのまた先の子孫へと、伝えられていくDNAは、また進化の軌跡を示す指標でもあります。ヒトの細胞にあるミトコンドリアは、もともとは細菌で、あるとき何かの細胞に食べられてしまったまま細胞内で生き残ったものと考えられています。
最近、京都大学のグループによって、脊椎動物の祖先が、「ナメクジウオ」だったことが明らかにされました。今まで、ホヤかナメクジウオのどちらかに違いないということで、さまざまな論議が交わされてきたそうです。
ホヤはパイナップルみたいな形ですが、卵からふ化した直後はオタマジャクシのような形で、背骨(脊椎)はないのですが、尾に背骨に似た脊索があります。一方、ナメクジウオはその名の通りナメクジのような魚のような形をしていて、脊索が頭から尾までつながっています。京都大学のグループは、ナメクジウオの遺伝子をヒトやホヤの遺伝子とを比較し、「ナメクジウオこそが脊椎動物の祖先である」としたそうです。
さらに、ナメクジウオには、「ヒトの遺伝子の9割が存在している」という事実もわかったようです。ヒトとはすごくかけ離れた生物に見えるナメクジウオですが、遺伝子の差はわずか1割とは、不思議ですね。ちなみにヒトとネズミの遺伝子の差は2.5%ということですから、ヒトもネズミもナメクジウオも、生物としてはそんなに違いはないのかもしれません。
このように生命科学は楽しく不思議でホットな話題に満ちています。『生命科学がわかる』で是非学んでみてください。