唐突ですが、ぶんしせいぶつがく(分子生物学)、って聞いたことありますか?
この言葉を知らなくても「DNA」や「遺伝子」はどうでしょう。あるいはニュースなどで「万能細胞(iPS細胞)」、「遺伝子組み換え」、「クローン技術」、「ゲノム創薬」などを見聞きしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
分子生物学はこれらの言葉とたいへん関係が深い、生命の物質的な側面――出産と誕生、成長、病気、老化、そして死――を対象とする科学です。DNAの二重ラセン構造が提唱され、遺伝が合理的に説明できることが発見されて以来発展してきました。
生活と密接にかかわる技術へ
2003年になって、ヒトゲノムの配列が99.999%解読されました。これで今までは部分的情報でとらえていた生命現象を、全体から眺めることができるようになりました。とはいえ、配列がわかったからといっても個々の遺伝子がもつ機能がわかったわけではありません。実際に現れる生命現象は複数の遺伝子の機能が協働していることも多く、解明にはまだ時間を要するでしょう。
しかし、これまでにわかった情報で多くの技術が実を結んでいます。最近最も注目を集めたのは、ヒトiPS細胞作成成功の話題でしょう。この研究成果によって、壊れてしまった細胞を新たに作りなおす再生医療への道が大きく開かれました。
また、iPS細胞はまだ研究段階のものですが、すでに実用段階のものもあります。最たるものは遺伝子組み換え作物でしょう。人口増加が引き起こす食糧難を回避するために有効な技術と目されながらも、同時に安全性への不信感が根強くあります。このように分子生物学から派生する技術は生命に直接かかわる性質をもつため、さまざまな問題をはらんでいることが多いという側面もあります。
書籍『ラセンがかたる生命の不思議』では、おおまかに次のような内容を扱っています。
- からだのしくみ(細胞の構造と情報伝達)
- 遺伝と進化
- バイオテクノロジーの光と陰
本書で紹介してる内容は分子生物学のほんの一端ですが、この先われわれ個々人に、また社会全体に深くかかわってくる生命の科学の基礎としてぜひとも知っておいてほしい内容となっています。