4月に「iPhoneアプリ&App Storeビジネスのしくみ」を発刊しました。本書では、アップルのモデルに留まらず、次世代コンテンツ市場の特徴やしくみ・問題点、技術面での知識、そしてビジネスを成功させるためのヒントを示しています。本稿では、そのなかの一部をご覧いただきます。
iPhoneの魅力を支えているのが、iPhoneアプリとApp Storeであることに異論を唱える人はいないでしょう。
開発ツールとApp Storeを一般に公開することで、アップルは、販売ルートや決済手段などの問題でこれまで自らのアイディアを商品化するのが難しかった「個人」や「中小事業者」に新たな可能性を提供し、その結果、App Store上にはわずか1年半で10万を越えるアプリが公開されました。
一方で、PC、ゲーム機、書籍ビューワー、デジタル端末など様々な用途で利用可能であるiPhone、アプリの流通・決済を担うApp Storeは、これまで端末・媒体・流通・決済などの参入障壁で守られていた既存事業者のビジネスモデルを大きく揺るがしています。そして、この「コンテンツ流通システムの変革」は、グーグルが提供する「Androidマーケット」、アマゾン・コムが提供する「Kindleストア」、アップルが提供する「iBook store」、そしてグーグルやソニーなどが提供するであろう「電子書籍の市場」などによって、今後さらに進むと思われます。インターネットが新聞社や音楽レーベルのビジネスモデルを破壊したように、出版社やゲーム会社などのパッケージコンテンツベンダーが、遠からずビジネスモデルの変革を迫られるのは間違いないでしょう。
また、App Store上には、コンテンツ・ソフトウェア・ウェブサービスが連携することで新たな価値を提供するiPhoneアプリが数多く提供されており、業界の敷居を越えた、新たなコンテンツ・サービス市場が生まれつつあります。この「コンテンツ-ソフトウェア-ウェブサービスの融合」は、日本でも様々な機種が登場する「Android携帯」、アップルやマイクロソフトやグーグルなどが提供するOS上で動作する「次世代タブレットPC」といった端末が増えるにつれて、さらにバリエーションが増え、進化していくと思われます。そしてそこでは、ウェブサービス事業者と出版社とゲーム会社とが互いに競合する可能性もあります。
現在、こうしたビジネスモデルの模索が行われているApp Store上には、これからさらに広がっていくであろう次世代コンテンツ市場において、成功するためのヒントが数多く含まれているはずです。(中村理・著)