第35回交通図書賞〔三部(歴史)受賞 ―島秀雄の世界旅行1936-1937―

はじめてそのアルバムを見たのは、1999年の春先であったと記憶する。

  • 「こんなものが残っているんです」

と、ご子息の島隆さんが、箱入りのアルバムを丁寧に紙袋に包んで持参された。

(本書プロローグより)

平成20年(2008年)暮れ、ラストランを終え引退した0系新幹線。昭和39年(1964年)から、その勇ましくもどこか愛らしい姿で日本を駆け抜けた「夢の超特急⁠⁠。その新幹線の開発者である島秀雄は、1936年から1年9カ月に及ぶ鉄道視察旅行に出かけた。それは、欧州、北米、南米、アフリカなど、世界の主要都市をまわる壮大なものだった。

島は、この旅行で世界各国の鉄道・自動車や、歴史的なシーンを膨大な数の写真に収めたほか、各地のパンフレットや地図など大変貴重な資料を持ち帰っている。写真は35ミリフィルムのベタ焼きで、丁寧にアルバムに整理され、ほとんどの写真には自筆でコメントが付記されてあった。その数ざっと2300枚。ベルリン・オリンピックでのヒトラーや、大の自動車好きでもあった島がアメリカを自動車で横断中にあった事故の様子など、セピアに退色した写真は芳しい歴史の香りにつつまれていた。

本書ではこれらの写真、資料を元に島秀雄の足跡を辿る。はたして、そこに夢の超特急・東海道新幹線のルーツはあるのだろうか。鉄道ファンはもちろん、多くの人にとっても、当時の最先端、そして世界大戦前つかの間の平和で完成をみた、各国の風景や交通、地図は、間違いなく刺激的だ。海外旅行好きや写真愛好家も、当時の欧米にノスタルジーを感じるあなたも、是非本書を手にとっていただければ幸いである。

島 秀雄(しま・ひでお 1901-1998)

明治34年5月20日、大阪に生まれる。東京帝大工学部機械工学科卒、大正14年鉄道省入省。D51などの蒸気機関車の設計者として活躍し、戦後、工作局長として湘南電車などをプロデュース。桜木町事故で国鉄を去るが、総裁・十河信二に懇請されて、1955年技師長としてカムバック、東海道新幹線建設の指揮を執る。のちに初代宇宙開発事業団理事長。