役にたちすぎる分子 ――超分子とは

分子とか原子とかはよく耳にする言葉だけれど、⁠超分子」という言葉はあまり聞いたことがないという方も多いのではないでしょうか。それもそのはず、⁠超分子」という概念が登場したのは30年ほど前のことで、言葉としてまだ広く一般に浸透しているとはいえないのが現状です。

しかし「超分子」は決して化学者だけが興味を持っているようなマイナーな分子、というわけではありません。⁠超分子」は私たちの身のまわりにたくさんあるのです。たとえばシャボン玉を典型とする泡は「超分子」の代表的なもので、洗濯は「超分子」を利用したスゴイ化学的操作なのです。それどころか、私たちの生体をつくっている物質の多く、とくに重要なものには「超分子」がたくさん存在しています。細胞膜、ヘモグロビン、DNAなどは典型的な「超分子」ですし、酵素が基質にはたらくときにも「超分子構造」をなすのです。

「超分子」は、いくつかの単位分子が集合してつくった分子構造体のことです。この構造体は原料の単位分子にはないスゴイ性質や機能を持ち、そのため「普通の分子を超えた分子」である、ということから「超分子」と名づけられました。

似たような言葉に、プラスチックに代表される「高分子」があります。⁠高分子」「超分子」も、⁠小さな単位分子が集まってつくった大構造体」ということでは似ていますが、単位分子の結合の仕方がまったく異なります。⁠高分子」においては、単位分子は共有結合によってしっかり結合しており、もとの単位分子に分解するのは困難であるばかりか、不可能なこともあります。それに対して「超分子」では単位分子は弱い力で結合しています。シャボン玉が壊れてもとのシャボン液に戻るように、⁠超分子」はたやすく分解してもとの単位分子に戻り、その後また集合して、再度「超分子構造」をつくりなおしたりすることもあります。⁠超分子」のこのようなダイナミックスが、生命というダイナミックな組織をつくりだす原動力にもなっているのでしょう。

入門!超分子化学では、こうした「超分子」の姿を、わかりやすく楽しく紹介しています。ぜひご一読を!