ついに⁠あなたの素粒子に対するイメージが具体的になる!

素粒子の「やさしい解説」を何度聞いても、どうにも腑に落ちない…。そんな方こそ本書素粒子論はなぜわかりにくいのかはいかがでしょうか。何とか素粒子のイメージをつかみたい、今度こそわかりたいあなたにおすすめです。

2013年のノーベル物理学賞は、クォークや電子などの素粒子が質量を持つメカニズムを、半世紀以上も前に理論的に解明したヒッグスとアングレールに贈られた。前年に、このメカニズムから予想される粒子(いわゆるヒッグス粒子)の存在が確認され、⁠素粒子の標準模型」が一応の完成を見たとされるだけに、素粒子論の専門家にとっては、すっきりする授賞だったろう。

しかし、すっきりしないのが、専門家以外の人たちである。ヒッグス粒子の発見以来、素粒子に関する一般向けの解説書がいろいろと出版されたものの、その内容がきちんと理解できる人は、あまり多くないはずだ。こうした解説書を執筆する物理学者は、最先端研究の華やかな部分を中心に紹介しがちだが、素粒子の標準模型は、長い年月にわたる理論的発展の最終段階であり、これを理解するには、前提となるさまざまな知識が必要となるからである。

標準模型を理解するのに必要な知識には、場の量子論・ゲージ対称性とその破れ・摂動法・繰り込みなどがあり、いずれも、物理学専攻の学生を対象として、大学3、4年次から大学院で教えられる内容である。数式を使わずに説明するのはほとんど困難で、多くの解説書は、名称に言及することはあっても、内容にまで踏み込まない。しかし、こうした知識は、素粒子論の全体像を把握する上で不可欠であり、これなしには、そもそも「素粒子とは何か」についての基本的な理解すら得られない。

本書は、できるだけ数式を用いず、具体的なイメージに基づいて場の量子論やゲージ対称性についての解説を行い、一般の人にも「素粒子とは何か」を理解してもらおうという試みである。厳格な物理学者は、数式こそが物理法則を記述する唯一の言語であり、数式を使わない説明は粗雑なアナロジーにすぎないと批判するかもしれない。だが、素粒子論を理解するための第1歩としては、こうした試みも必要ではないだろうか。

吉田伸夫(本書「まえがき」より―)