本書のタイトルになっているSIer(エスアイヤーと読みます)は、IT業界で働いていない人にとっては聞き慣れない言葉かもしれません。SIerとは「システムインテグレータ(System Integrator)」の通称です。インテグレートとは統合/融合という意味です。つまり、SIer は、会社のさまざまなシーンで使われるITシステムを作る(統合/融合する)仕事を、専門に行っている会社です。
社会生活や企業活動にこれだけITシステムが浸透した状況で、SIerで働くSEには何が求められるのでしょうか。
SIerの歴史/種類
国内のSIerは、1960年代に給与計算や決済処理などを請け負う電子計算センターとして誕生し、70年代のメインフレームやオフコン(オフィスコンピュータ)全盛時代を経て、さらにオープン化、ダウンサイジング、インターネット時代と企業システムとともに発展してきました(図1)。そして今、クラウドコンピューティング化の真っ只中にあります。
また、SIerは設立時の背景によって「メーカー系」「ユーザ系」「独立系」「コンサル系」に分類されますが、現状ではSIer各社の差はほとんどなくなり、企業システムを作るという視点では同じ土俵でしのぎを削っています。
図1 システムの歴史とSIerの歴史
これからの企業システムの主流
ユーザ企業は日々他社と競争しながらビジネス活動をしています。そんな中、ITシステムは「速く、正確に、安く」構築することが求められています。
これまでのシステム開発とは
これまでの企業システム開発案件の多くが、ユーザ要件を1つひとつていねいに聞き出し、取りまとめて開発し、きっちりとテストを行いリリースするということが重視されてきていましたが、ビジネスのスピード感を持ち込むとどうしても無理が生じていました。
クラウドサービスの台頭
また、クラウドサービスが充実することによって、ユーザ企業のシステム投資に対する考え方も大きく変わろうとしています。裏を返せば、SIerの収益モデルが変わることを意味します。
クラウドの価値を高める視点
SIer自身の収益モデルが大きく変わることで、これからのSIerは先行き不透明と言われていますが、ビジネスチャンスと捉えることもできます。
ユーザ企業のビジネスを取り巻く環境は「少子高齢化」「環境問題「雇用形態の多様化」「グローバル化」など大きく変化し、さらに「ロボット」「バイオ」「ウェアラブルコンピュータ」など技術も進歩しています。
これらを踏まえて、技術的な観点以外にもユーザ企業に対して提案でき、クラウドサービスを活用して「速く、正確に、安く」提供できるSIerが重宝されていくでしょう。
多様化するSEのキャリアパス
当然SIer自身が大きく変革する中で、そこで働くSEのキャリアパスも変わってきています。
これまではプログラマからシステムエンジニアを経て、プロジェクトマネージャやコンサルタント、システムアーキテクトへのキャリアパスが多く見られましたが、昨今ではサービスプロデューサやデータサイエンティストなど新たなスキルをもった人材が注目されています(図2、3)。
図2 システムの歴史とSIerの歴史
図3 システムの歴史とSIerの歴史
本書では、SIerに従事する若手SEやこれからSIerを志望する学生の方を対象に、イラストや用語解説を加えながらわかりやすく解説しています。ぜひ、時代の変化をチャンスと捉えて活躍してください。