「数億円かけて、現在と同じシステムをつくっただけ」という究極のムダづかい
- 「システム開発を成功させるには、要件をきちんと定義することが大事だ」
とよく言われます。たしかに、要件定義はユーザーのきめ細かな個別の要求をかなえる、重要なプロセスなのはまちがいありません。しかし、もしその要件が、実現しても意味がないものだったらどうでしょうか?
1つのエピソードがあります。建設業F社は、地方の名門中堅企業で、公共工事を安定して受注できた頃は業績もよく、新規採用もしていました。しかし、ここ10年で環境は激変、売上高は毎年前年を下回って、営業赤字がつづいています。経営陣はいっこうに改善しない環境に危機感をもち、同じ規模のライバル企業と比べて人員があきらかに多い購買部門をシステムの刷新でなんとかしたいと考えていました。
経営陣の意向を受け、情報システム部は購買部に見積・発注業務の自動化・電子発注を提案しました。しかし、購買部長から
- 「今、何の問題もないのに、なぜ業務や機能を変える必要があるのか。現在と同じシステムでいいよ。そのままつくればいいだろう」
と、頭から否定されます。新システムの目的を説明しても、購買部長は
- 「発注先や下請先は中小企業ばかりだよ。メールやインターネットもできないのだから、従来どおりFAXや電話でやりとりするしかないだろう」
と、まったく聞く耳を持ちません。
結局、ほぼ現行の業務を踏襲し、古いシステムとたいして違わない新システムが、数億円をかけて構築されることに。新システムは要件どおりに無事完成し、現場の評判も「システムのレスポンスが速くなった」「検索結果をExcelに出力できるので作業が楽になった」と良いもので、一見すると成功に見えます。しかし、そもそも当初の目的だった購買部門の固定費削減は実現できませんでした。多少使い勝手が良くなったとはいえ、コスト削減につながるレベルではなく、実質的には「数億円かけて、現在と同じシステムをつくっただけ」という究極のムダづかいとなってしまったのです。
「経営」「会計」「業務」「システム」の4つの視点をおさえればうまくいく
では、どうすれば価値を生み出すシステムを作れるのか?
この度刊行された『お金をドブに捨てないシステム開発の教科書』の著者・中川充さんは、「要件定義以前に、『経営』『会計』『業務』『システム』の4つの視点から、システム構想をきちんと練りあげることが大事」と言います。
- 経営の視点 → 「経営者がシステムで実現したいことは何か?」を明確にする
- 会計の視点 → 「何の数字が、いつ、どのシステムでつくられ、どのタイミングで確定し、自動仕訳となって、会計システムに取り込まれるのか?」を押さえる
- 業務の視点 → 劣化した業務をそのままシステム化するのではなく、ゼロベースで見直す
- システムの視点 → 開発の「型」を知り、それにのっとって、コストやリスクを押さえる
中川さんは、システムコンサルタントでありながら公認会計士の資格も保有するという、異色の経歴をお持ちの方。ベンチャーから中堅企業まで50社以上、業務設計・改善から会計監査さらにIPO支援まで、20年近いコンサルティング実績があるからこそ書けるノウハウが書籍には満載されています。数億円単位のお金がかかることもめずらしくないシステム開発の失敗を防ぎたい方、ぜひチェックしてみてください。