「パンツ車」です。突然ですが、パンツ車を想像してください。一体どんなものを想像……え、そんなものはない? 意味がわからない? たしかに、そうかもしれません。しかし、これはただのおふざけではありません。このパンツ車という謎の言葉の背後には、意外にも(?)まじめなアイディアを生み出す思考プロセスが隠れているのです。一体どういうことなのでしょうか? STEM教育本の最終兵器『無駄なマシーンを発明しよう!~独創性を育むはじめてのエンジニアリング~』(以下、本書)の内容を踏まえながら、その深淵をちょっとのぞいてみましょう。キーワードはズバリ「無駄」です。
パンツ車
※図・写真はいずれも本書から
無駄の空気は自由にする
「無駄」という言葉にあなたはどのような印象を受けるでしょうか? 多くの場合、ネガティブな印象を持つのではないでしょうか。しかし、無駄は決して悪いことばかりではありません。むしろ、無駄なものは私たちを自由にしてくれると本書は説いています。
無駄なものは最初から何かが間違っています。だからこそ、無駄なものは何を考えても、何を作っても成功です。皆に必要とされるものは誰が考えても似たようなかたちに収斂します。しかし、無駄なものはどう無駄であるか、考えた人それぞれです。たとえば、「インスタ映え台無しマシーン」。スマホで写真を撮ると必ず指が写り込む、地獄のようなマシーンです。まさに無駄。一体誰が必要としているのでしょうか(いや、誰も必要としていない)。しかし、誰も必要としていないからこそ、自由な発想が可能なのかもしれません。そう言われると、無駄も悪いものではない気がしてきませんか?
インスタ映え台無しマシーン
○インスタ映え台無しマシーン
(muda4_01.jpg)
無駄を生み出す方程式
しかし、無駄なものを考えるのは案外難しいです。自由だからこそ何を考えていいのかわからないかもしれません。必要は発明の母と言いますが、無駄は一体どこから生まれるのでしょうか……?
本書が紹介する無駄なものを生み出す一番簡単な方法は、すでにあるもの同士をくっつけることです。たとえば、「あーんしてくれるマシーン」。ラジコンに手のマネキンを巻き付け、スプーンを持たせて、はい出来上がり。このように、何かをくっつけることで新たな可能性が爆誕するのです。パンツ車もパンツ+車ですね。
こいびとがいなくても
「あーん」してくれるマシーン
ただし、大事な点がひとつだけ。生み出された無駄なものには役割と名前を与えましょう。役割があるからこそ、その無駄さが際立つのかもしれません。
無駄が生み出す「冗長性」を育てよう
わざわざ無駄なものを作るなんて、単なるお遊びでしょ、と思った方もいるでしょう(至極まっとうな反応だと思います)。そんな方は、「遊び」という言葉を辞書で引いてみてください。「遊び」という言葉には「ゆとり」とか「余裕」とかいう意味があります。固い言い回しに直すなら「冗長性」と言えるかもしれません。無駄なものを作ることは遊びの一種かもしれません。しかし、ともすれば凝り固まった考えになりがちな私たちに冗長性を与えてくれるものでもあるかもしれません。インスタ映えは敢えて台無しにしてしまいましょう。誰が考えても同じ結論の必要性より、一人ひとりしか生み出せない冗長性を育ててみませんか?
最後にもう一度質問です。「パンツ車」です。あなたが考えたパンツ車は、この世界にどんな無駄をもたらしますか?