なぜ職場では言いたいことが言えないのか
あなたの職場では、こんな問題を抱えていないでしょうか?
- 表向きは「風通しのいい職場」をうたっているのに、実際には誰も会議で本音を言わない。
- 新しい提案をすれば「前例がない」と言われ、異論を唱えれば「空気を読め」と咎められる。
- 気づけば、言いたいことを飲み込むのが“賢い立ち回り方”になっている
でも、それはなぜなのでしょうか。組織が悪いから? 人間関係が悪いから? 本当にそれだけなのでしょうか。
職場を支配する“心理的な力学”
実はそこには、心理学で説明できる“力学”があります。たとえば、心理学には「同調圧力(conformity)」という概念があります。1950年代にアッシュという心理学者が行った有名な実験では、明らかに間違った答えでも、周囲がそう言うと人はそれに合わせてしまう、という結果が示されました。職場も同じです。
- 「おかしい」と思っても、反対意見を出せば面倒な立場に置かれるかもしれない。だから、多くの人が沈黙を選ぶ。
- 誰かが何かを提案しても、「それ、微妙じゃない?」とネガティブな空気が漂えば、もう二度と誰も提案しなくなる。
こうして職場には、「言わない方が安全」という無言のルールができあがります。そしてその空気は、個人の問題ではなく、集団における人間心理の自然な帰結なのです。
だからこそ、“働きづらさ”はあなたのせいではない。
ここで大事なのは、こうした「働きづらさ」はあなた個人の性格や能力の問題ではないということです。人は本質的に、「集団から排除されること」に強い恐怖を感じる生き物です。だからこそ、空気を読み、忖度し、沈黙し、ストレスを抱えます。
本書では、そうしたビジネスにおける問題を一つひとつ心理学の視点から紐解いていき、よりよく働くためのヒントを探ることを目的としています。
「なぜあの人は感情的になるのか」「なぜ上司は曖昧な指示しか出さないのか」「なぜ誰も助けてくれないのか」——。
こうした疑問に、“人間の心”のしくみから迫ります。
本書で紹介するビジネスにおける心理学
こうした「働くことの不自由さ」にどのように向き合えるのか。本書は、働く人々の「なぜ?」を心理学の視点から解き明かすために、5つのパート、77のトピックから構成されています。
Part 1:認知バイアス——気づかぬうちに歪む「思考のクセ」
まずは、私たちの判断を無意識のうちに左右する「認知バイアス」に注目します。自分では合理的に考えているつもりでも、実際にはさまざまな思い込みや偏りに支配されています。この章では、職場でのすれ違いや誤解の背景にある「思考のクセ」を明らかにしていきます。
(本書p14-15より)
Part 2:セルフコントロール力——「わかっているのに、できない」のはなぜか
次に、自分自身を思いどおりに動かす難しさについて考えます。先延ばし、感情のコントロールミス、モチベーションの低下——。その背後には、人間の本質的な心のメカニズムがあります。自分を責めすぎずにうまく扱うヒントを、心理学から探っていきます。
(本書p68-69より)
Part 3:コミュニケーション——伝わらないのには理由がある
会議や商談、日々のやりとりで生まれるすれ違い。どうして「ちゃんと言ったのに伝わらない」のか? この章では、対人コミュニケーションの心理学に基づき、印象形成や共感、説得といった視点から、伝える力・受け取る力を深掘りしていきます。
(本書p84-85より)
Part 4:マネジメント力——人が自ら動く組織とは
上司と部下の関係、チームの空気、リーダーシップのあり方。ここでは、メンバーが自然と動きたくなるマネジメントの心理学を取り上げます。命令よりも「関係性」が重要になる現代の職場で、どうすれば健全なチームをつくれるのかを心理学的観点から見つめ直します。
(本書p118-119より)
Part 5:マーケティング——人の「欲しい」はどうつくられるのか
最終章では、職場の外、ビジネスの最前線である「マーケティング」に視点を移します。なぜ人はモノを買いたくなるのか? その背景にある消費者心理を紐解きながら、働くうえで欠かせない「人の心の動かし方」を見つめます。
(本書p166-167より)
“心”がわかれば仕事はラクになる
職場を理想の場所に変えるのは、難しいかもしれません。でも、その職場をどう見るか、どう理解するかは変えられます。心理学を通して「なぜそうなるのか」がわかれば、それだけで心は少し軽くなります。働くことにモヤモヤしている人ほど、実は正しく状況を感じ取れているのです。
本書は、そんなあなたのモヤモヤに「名前」を与えます。“働く”という日常の中に潜む心理のからくりを知ることで、もっと納得して、もっと自由に、自分らしく働くための小さな手がかりを見つけてみませんか。