生成AIの登場で、データサイエンティストの役割が問われています。本稿では、AI時代を生き抜くデータサイエンティストになるための、ビジネス課題を解決に導く思考のフレームワークを提案します。
AI時代のデータサイエンティストの介在価値
現代のビジネス環境において、データはかつてないほど重要な資源となっています。企業は日々蓄積される大量のデータを活用し、競争力を高めようと、製品開発、マーケティング、サプライチェーンなど、ビジネスのあらゆる場面でデータに基づく意思決定が行われています。この大きな潮流の中で、
特に近年、ChatGPT、Gemini、Claudeといった生成AIの登場は、データサイエンティストの作業環境を一変させました。複雑なプログラムコードの自動生成や、対話形式での技術調査と分析指示が可能になり、以前なら何時間もかかっていた作業が数分で完了するケースも出てきています。
しかし、このようなAIツールの目覚ましい普及は、データサイエンティストに新たな問いを投げかけています。高度な分析ツールが容易に使えるようになった今、私たちデータサイエンティストに求められるスキルとは何でしょうか? AIがコードを書き、分析を実行してくれるのであれば、私たちが介在する価値はどこにあるのでしょうか?
その答えの一つが、
ビジネス課題を「解ける問題」に変える力
では、
ビジネスの現場で直面する課題の多くは、その出発点においては曖昧で漠然としています。例えば、
数理最適化問題としての定式化は、この曖昧なビジネス課題に対し、目的関数、制約条件、決定変数といった数理的な要素を用いて明確な構造を与えるプロセスです。これにより、何を達成すべきか
ビジネス課題解決のための3ステップフレームワーク
そこで、データサイエンティストがビジネス課題をデータサイエンスの問題に落とし込んで解決するための、統一的かつ実践的なフレームワークとして、以下の3つのステップを提案します。

- ステップ1:ビジネス課題を数理最適化問題として定式化する
- 最初のステップでは、解決すべきビジネス課題を数理最適化問題として明確に定義します。具体的には、
「何を最大化または最小化したいのか」、 「そのためにどのようなアクションがとれるのか」、そして 「守らなければならない条件は何か」 を数式を用いて具体的に表現します。このプロセスを通じて、課題の核心が明らかになり、分析の方向性が定まります。 - ステップ2:数理モデルを構築し、未知のパラメータをデータから推定する
- 次に、ステップ1で定式化した最適化問題を解くために不可欠な
「アクションと成果の関係性」 を明らかにします。多くの場合、この関係性は未知であるため、数理モデルを構築し、手元のデータを用いてモデル内の未知のパラメータを推定します。この際、分析対象のデータ生成過程に対するドメイン知識を活用し、分析者の仮説を数理モデルに反映させることで、現実に即した妥当性の高い推論を可能にします。 - ステップ3:数理最適化問題を解いて最適なアクションを導出する
- 最後のステップでは、ステップ2で関係性が明らかになった数理最適化問題を実際に解くことで、ビジネス課題に対する最適なアクションを導出します。これにより、勘や経験だけに頼るのではなく、データに基づいた客観的で合理的な意思決定を行うことが可能になります
この3ステップは必ずしも順番通りに進むわけではなく、試行錯誤を繰り返して行ったり来たりする必要があります。ステップ2で適切なデータが入手できない場合や、ステップ3で数理最適化問題の解を見つけるのが困難な場合は、ステップ1に戻って問題の定式化を見直すことが有効です。
ビジネスの現場で遭遇する問題の種類は無限とも言えるほど多様であり、それらすべてに対してあらかじめ
そのため、ビジネス課題に対してデータサイエンスという武器を用いてアプローチするための普遍的な
AI時代を生き抜くために
AI技術が日進月歩で進化し続ける現代において、データサイエンティストに求められる役割は、より戦略的なものへとシフトしています。
定型的な分析作業はAIに代替される一方で、複雑なビジネスの課題を深く洞察し、それを解決可能な形に再定義し、データと数理モデルを駆使して組織を動かす最適な意思決定を導き出すという、本質的な能力の重要性は増すばかりです。
2025年6月27日に刊行される
データサイエンスの道を歩み始めた方、すでに実務でデータ分析の経験を積まれている方、そしてデータサイエンスの力を自社のビジネス成果に繋げたいと考える全てのビジネスパーソンにとって、本書は理論と実践とを結びつける、信頼に足る実践的なガイドとなるはずです。本書を通じて、データサイエンスを真のビジネス価値へとつなげるための

森下光之助(もりしたみつのすけ)
REVISIO株式会社 執行役員CDO データ・