IT訴訟の先に勝者はいるのか

45年間、絶えず発生し続けるITシステム開発のトラブル

「日経クロステック」にて公開されている記事の1つに「ITトラブル38年史」と銘打たれたものがあります[1]。2019年9月19日に公開されたその記事では、IT黎明期の1980年代から当時の最新事例だった2010年代まで、全1,176件のITトラブルを振り返っています。この記事から約7年後の2026年現在、技術やノウハウの発展とともにトラブルが無くなったかといえば、そんなことはありません。現場ではトラブルが絶えず発生し、裁判に持ち込まれるものも少なくありません。

トラブルの種はさまざまですが、特に要件定義や契約が原因のケースが多くあります。要件定義が不十分だったために、開発工程の下流で「実装されていない機能がある」⁠この機能も追加してほしい」⁠テストしてみたら使えないシステムだった」などとトラブルになるケース。契約内容が不十分だったために、開発工程における想定外への対応や、いざプロジェクトが完遂した際の支払いで揉めるケース。これらの訴訟例は、⁠@IT」の連載『⁠⁠訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説』でも数多く確認することができます。

賠償額が膨らむ傾向に

さらに、近年のIT訴訟事案は大型化が指摘されています。ITメディアエグゼクティブの記事[2]では次のような事案が挙げられています。

  • 野村ホールディングスら vs. 日本IBM(36億円)
  • 日本IBM vs. 文化シャッター(20億円)
  • 日本通運 vs. アクセンチュア(124億円)

大手企業による紛争では数十億円以上の規模の賠償額が判決で出ているようです。ここまでの規模でなくても、IT訴訟における賠償金は数百万円〜数千万円というケースも多くあるでしょう。数千万円ともなれば、中小企業にとっては、賠償額が企業の存続を揺るがす規模となっているのではないでしょうか。企業vs.個人の例であれば、100万円規模の賠償金でも個人側は相当なダメージとなるでしょう。

裁判で勝ったからと言って本当の意味で“勝者”と言えるのか?

裁判所で争われたトラブルは、判決でその責任が明確になり、賠償金が命じられるケースが多いでしょう。ユーザー企業に責任があるとされれば、開発企業の仕事の損失に応じた賠償金が支払われたり、開発企業側の責任とされれば、ユーザー企業の損失に応じた賠償金が支払われたりします。敗訴した側はもちろん、多額の賠償金を背負うことで取り返しのつかない状況に追い込まれることもあります。

一方で、勝訴した側は果たして本当の意味で⁠勝者⁠と言えるのでしょうか。

成功するシステム開発は裁判に学べ!⁠細川義洋 著、技術評論社、2017年)でも指摘されていますが、数年とかけた裁判に勝ったからと言って、得られる賠償金はトラブル当時の損失を補う程度のものです。裁判にかかった労力や時間、プロジェクトが成功した先にあるビジネスチャンス、そういったトラブルには直接関係なかった損失まで考えると、賠償金を得たからと言って、ビジネスとして⁠勝者⁠とは言えないのではないでしょうか。

本当の⁠勝利⁠とは、プロジェクトを成功させ、開発企業にとっては次のビジネスチャンスにつなげること、ユーザー企業にとっては得たシステムを使って自社の事業を発展させることではないでしょうか。そういった意味では、プロジェクトが成功さえすれば、両者が⁠勝者⁠への入り口に立てると言えるでしょう。

裁判例からトラブル回避のポイントを押さえよう

ITシステム開発のトラブルは、コロナ禍や働き方改革を経て、近年のAI隆盛時代に新たな争点が生まれています。数十年来普遍的に続くトラブルの種もあります。プロジェクトを成功に導くためには、より幅広い知識とポイントを押さえておく必要があるでしょう。

そこで、本書システム開発のトラブル回避は裁判に学べ!の出番です。細川氏による先述の書籍でも解説された、普遍的な「要件定義」⁠契約」⁠セキュリティ」のポイントはもちろん、IT開発の「知的財産⁠⁠、エンジニアと企業の関係を左右する「労務⁠⁠、⁠AI」によるトラブルの例と回避のポイントが解説されています。トラブルの原因や責任の所在がわかれば、先回りして対応することで成功へのヒントが得られるでしょう。

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2017.4.3[新刊ピックアップ]掲載
失敗したシステム開発のトラブルと裁判