職場の「距離感」なぜこんなに難しいのか

現代の人間関係は難しい。

そう聞くと、違和感のある人もいるかもしれません。

今は昔と違い、個人の領域が意識されるようになりました。他人の思想や信条にずけずけ切り込んだり、相手の意に沿わない誘いや付き合いを強いても、そこまで問題とされなかった、あるいは問題にできなかった時代とは違います。ですから、より自由に生きられるようになったはずだと思うのは自然なことです。

しかし裏を返せば、配慮が求められる場面は格段に増えました。例えば食事や飲みの誘い、あるいはちょっとしたアドバイスも、それが良かれと思ってやったものであっても、今では一歩間違えば「ハラスメント」になりかねません。SNSを見れば、⁠その一言はアウト」⁠こういった配慮ができなければいけない」といった、NG行動を名指しする言説がバズっています。

善意の行動が干渉になってしまうこともある

言いたいことがあっても場の空気を壊さないよう飲み込んだり、気の乗らない飲み会や付き合いに毎回顔を出したりといった、⁠我慢」によって良い関係をキープしていた過去とは違います。⁠我慢する」⁠我慢させる」という選択肢の価値が弱まった今では、コミュニケーションは以前よりずっと難しくなっているのではないでしょうか。

このように、求められる人間関係のレベルが上がっている中で、人とのかかわりを閉ざすことなく、いい関係を築くというのは簡単なことではありません。

難しさの根底にあるのは、「距離感」ではないか

その難しさに共通しているのは、距離感というキーワードではないでしょうか。言い換えると、難しさの本質は「相手に踏み込みすぎても、引きすぎても良くない」ということです。

例えば、日々の雑談はコミュニケーションのツールとして優秀です。しかし時と場合や長さを誤ると、それは相手を不快にさせます。かといって、まったく誰とも話さない、雑談は無駄だと話しかけを無視するのも良くないでしょう。これは関わる頻度や距離のとり方といった、いわば物理的な距離感の話です。

あるいは、仲良くなりたいと思って少しプライベートな領域に踏み込むこともあります。しかし相手や踏み込む内容を誤れば、それは相手を不快にさせます。かといって、まったく自己開示をしないのでは、最低限の親密さすら築くのは難しいでしょう。これはどこまで心を開くかという心理的な距離感の話です。

こうしてみると、距離感には少なくとも物理的な距離心理的な距離という2つがあり、どちらも極端に振り切るのではなく適切に調整する必要があります。しかし、⁠我慢」というバッファがなくなった今では、その塩梅を適切なものに着地させるのが難しくなっています。

相手によって距離感は千差万別 ― 特に職場は難しい

この2つの軸で適切な距離感を探ろうとしたとき、さらに厄介なのは距離感は相手の属性によって変わるということです。特に難しいのは、やはり職場の環境でしょう。

  • 上下関係や取引先、他部署など、自分では選べない相手とのかかわりが多い
  • 自分の昇進や異動によって、一度築いた関係性がリセットされることがある
  • 対面やメールの場面ごとに、プライベートな話題や敬語などのトーンをどこまで調整すればよいのかわからない
職場では、相手ごとに距離感を切り替える必要がある

上下関係でいえば、かつては下の側が上の側に気を遣うもので、その逆の配慮は必要なかったでしょう。しかし今は、上の立場の人間ほど相手との距離感に神経を使わなければならない時代になっています。もちろん、下の側の気遣いが不要になったわけではありません。これは上下関係に限った話ではなく、職場の人間関係全体で、これまで気にしなくてよかった側にも配慮が求められるようになっているのです。

さらに、相手に「我慢」をさせることの代償も、職場のほうが大きくなっています。プライベートの友人や家族であれば、多少の我慢が積もっても、関係が多少こじれる程度で済むかもしれません。しかし社会の場で相手の我慢を限界まで溜めさせてしまう行為は、⁠ハラスメント」と扱われ、自分の社会的信用そのものが危うくなる可能性もあります。

では、この距離感、どう扱えばいいのか

距離感を相手や場面に合わせて正しく調整していくのは、簡単なことではありません。かといって、いつどこで誰と接するときも同じ基準で臨むのは考えものです。

関わる人全員と親密な100点満点の関わり方をする必要はありません。しかし誰に対しても同じ距離感で接してしまうと、人によっては近すぎ、または遠すぎることになります。その結果、関わる人のうちの何割かは、問題のある距離感で接してしまうことになります。さらには、その「問題のある距離感で接してしまう何割か」の中に、⁠本来100点満点の関わり方をすべき相手」まで含めてしまいかねません。

どの相手にも仕事の話しかせず、距離をとってしまう。親しみを込めて話しかけてくれた相手の好意もはじき返してしまう。最低限親密になって仕事をやりやすくすべき同僚や取引先のような相手まで遠ざけてしまうのは、社会人として避けたいところです。

今の距離感なら相手とどんな会話ができるのか、あるいはどんな会話をすべきなのか。そういった行動の基準は、感覚的にわかる人にはわかるものなのでしょうが、わからない人にとってはなかなかつかみにくいものです。

では、その「わからない」はどう埋めればいいのでしょうか。答えは単純で、いくつかでいいので、自分なりの基準を持っておくことです。最低限、⁠近づきたい人」⁠離れたい人」⁠今の距離を保ちたい人」に分類して、接し方を考えてみてください。

とはいえ、どのくらいの種類の基準をもっていればいいのか、そもそも基準はどう作ればいいのかもわからないまま、距離感について0から自力で考えるのは難しいと感じる方も多いと思います。

自分だけの「距離感の基準」を作る

そこで役立つのが、多種多様な距離感のパターンを整理して解説した距離感大全 ⁠迷いをなくす⁠コミュニケーション術です。

この本では、距離感を調整する際の行動を「近づく」⁠保つ」⁠離れる」の3つに分けて概要を説明したうえで、

  • 上司や部下といった相手ごと
  • メールや会議といった場面ごと
  • 新人からリーダー期までのキャリアの段階ごと

に使える距離感の技術について解説しています。つまり、この本を読めば、⁠誰と」⁠どこで」⁠いつ」という自分なりの距離感の基準が、なんとなく見えてくるはずです。

距離感大全サンプル

ただ、この本で示した内容が、あなたにとっての正解になるとは限りません。重要なのは、これを一つの行動の基準、あるいはたたき台として、自分自身の距離感を微調整していくことにあります。

整えられたはずの「距離感」を誤ったばかりに、本来得られるはずの成果を逃し、無駄なすれ違いや関係の悪化につながってしまう前に、ぜひ一度、自分の距離感の基準について考えてみてはいかがでしょうか。