AIが進化するほど⁠⁠、スピリチュアルが大事になる

AIリテラシーよりスピリテラシー?

「AIをどう使うかとか言ってるのはもはや時代遅れ。AIは世界を変えないし、Claude Codeの研修とか受けてる場合じゃない」

『人生が整うマウンティング大全⁠』⁠ 著者のマウンティングポリスさんから、ある日そんな謎のマウンティングをされました。

(AIをどう使うかという本ばっかり出してる出版社なんですけど)

心の中で思ったことを口に出すのはグッとこらえ、「⁠じゃあ今、AIリテラシーではなく、何に注目すべきなのですか」と聞いたところ、返ってきたのは予想の斜め上の言葉でした。

「スピリテラシー、ですよ」

なんのことですかと聞いたところ、

「スピリチュアルのリテラシーですね。スピリチュアルを信仰ではなく教養として捉えて、妄信もせず毛嫌いもせず、ちょうどよい距離感で付き合っていく感覚をこう定義してます」

とのこと。

訝しさ満開な一方、「⁠そういえば、神社巡りをする人とか前よりSNSの投稿で見るようになった気がする」と思い、もう少し話を聞いてみることにしました。

若い世代を中心にスピリチュアルへの親和性が高まっている

「SBNRと呼ばれる人が増えているのを知ってますか」

マウンティングポリスさんの質問に「なんですかそれ」と言ってしまったのですが、SBNRとはSpiritual But Not Religious、直訳すれば「宗教的ではないけどスピリチュアル」とのこと。

神を信じるかと問われれば、返答に困る。
かといって、「⁠⁠見えない力など存在しない」と言い切られれば、それもまた違うような気がする。
宗教に帰依するつもりはないが、魂や運命といったものには、どこかで惹かれている。

そんな人を指す言葉です。

アメリカのピュー・リサーチ・センターの調査[1]では、成人のおよそ2割、単純計算で数千万人規模がSBNRに該当するとしています。若い世代の比率が多いのが特徴です。

博報堂生活総合研究所の「生活定点」調査では、2020年に占いやおみくじを信じるほうだと答えた20代女性が66%にのぼり、前回の調査から17ポイント以上も伸長しています[2]。同じ質問の全体の伸びは4ポイント弱で、20代女性だけが大きく数字を伸ばしています。

SNSでおみくじの写真を上げ、占いアプリの結果をスクショで送ったり、スピリチュアルへの関心を会話のきっかけにしている例も増えています。参拝のことを「スピ活」と呼んだり、「⁠スピってる」と自称したり、気軽なものとして扱うことで、重たい話にならないようにしているのは、「⁠スピリチュアルは怪しい、信じることを隠すもの」というひと昔前の感覚とは大きく異なります。

矢野経済研究所は、宗教、自己啓発、ヨガ、宝くじなどを含む広い意味でのスピリチュアル関連ビジネスの市場を、2023年度で4兆2,418億円と推計しています[3]。

答えのない問いとの付き合い方は、宗教とスピリチュアルが何千年も前から売ってきた

スピリチュアル市場が伸びているのはわかったけれど、AIとは関係ない話ではないか。疑問をそのままマウンティングポリスさんにぶつけると、こんな答えが返ってきました。

「正解のある答えはAIが出してくれるようになり、人間に残るのは正解のない問いになるから。そして、答えのない問いとの付き合い方なら、宗教とスピリチュアルが何千年も前から売ってきたから」

まだAIをうまく使える人が多いわけではないけれど、たしかにちょっとした作業はAIで効率化できる部分が増えている。一方で、「⁠何のために働くのか」「⁠どう生きたいのか」といった問いは、人間が答えを出す必要がありそう。あるいは、人間で答えを出せないなら代わりの何かに頼るか……。

マウンティングポリスさんはこう結論づけました。

「AIが賢くなるほど、スピリチュアル市場は膨らんでいく可能性が高いと思います」

信仰ではなく教養として、妄信もせず毛嫌いもせず、ちょうどよい距離感でスピリチュアルと付き合っていく

スティーブ・ジョブズの追悼式では、ヨガ行者パラマハンサ・ヨガナンダの『あるヨギの自叙伝』が配られた。
Twitter(現X)創業者ジャック・ドーシーは、10日間の瞑想合宿を習慣にしていた。
万有引力を発見したニュートンは、生涯の膨大な時間を、錬金術に注いでいた。
史上はじめてノーベル賞を2度受賞した物理学者のマリー・キュリーは、霊媒の降霊会に出席していた。
量子力学の基礎方程式にその名を残すエルヴィン・シュレディンガーは、古代インドの聖典ウパニシャッドを生涯手放さなかった。

――科学とスピリチュアルは水と油のように語られることが多い一方で、テック業界の経営者や科学者にもスピリチュアルのエピソードは事欠きません。

参拝することで願いが叶うとはいえない一方、同じ社に手を合わせ、同じ作法を共にすることで、ばらばらの人々を1つの集団にまとめてきた効能は、宗教史の研究において繰り返し指摘されています。

……といった事実があるからすべてがいいとは言えないわけですが、

「信仰ではなく教養として、妄信もせず毛嫌いもせず、ちょうどよい距離感で付き合っていく」

という塩梅ならいいのではないか。

マウンティングポリスさんとやりとりを重ねていたら、いつの間にかスピリテラシーが本になっていました。

『なぜ一流はスピリチュアルに引き寄せられるのか?~AI時代のスピリテラシー~』

傳智之(でんともゆき)

ビジネス書やIT入門/専門書などの書籍の編集を担当。
𝕏: @dentomo

傳智之(でんともゆき)

技術評論社の中の人。書籍編集部なのになぜかgihyo.jpに絡ませていただいてます。パソコン入門から本格的な技術書まで,熱い企画のご提案をお待ちしています。

Twitter:http://twitter.com/dentomo