インターネット広告とテクノロジーの行方

第6回行動ターゲティング

2002年にスティーヴン・スピルバーグが監督したSF映画に未来を予言するシーンがありました。

トム・クルーズが演じる捜査官の行く先々で彼の関心事の屋外広告が映し出されるのです。我々にとっては「なぜ?」と思うような場面にもかかわらず、冷静な表情を見せる彼を覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか…。

今回は「行動ターゲティング」について考察していきます。

行動ターゲティングとは?

「行動ターゲティング」とは、どういうモデルでどのようなテクノロジーなのでしょうか?

「ターゲティング」とは?

ターゲティングとは自社の顧客層や市場をセグメント化(分類)して、その中から対象を絞ってマーケティング・営業活動を展開する手法です。

実ははるか昔からターゲティングは行われていました。古くは富山の薬売りの例が持ち出されるように、顧客一人一人の嗜好や家族の情報を懸場帳(顧客データベース)に記録して、顧客にあった薬(商品)を置く(レコメンデーション)はまさに究極のターゲティング(One to Oneマーケッティング)です。

また、インターネットが普及する以前から、顧客管理システムやCRMシステムといった名称で呼ばれている、ターゲッティングが行われています。これらは、売上履歴やコンタクト履歴から顧客(見込み客)をセグメント化(グルーピング)を行い、抽出して顧客の嗜好や傾向を把握し、電話、FAX、営業訪問やDMでアプローチする手法です。このほかにも、売上データを元に顧客の行動を分析する手法も従来から行われています。

データウエアハウス・データマイニングの定番の「ビールと紙おむつ」の例が示すように、行動履歴からある嗜好性・パターンを探し出す試みは以前から研究・実践されています。

インターネットが始まってからは、メールアドレスを収集して、メールマーケッティングによるターゲティングが普及しました。

そして、アマゾン・ドットコムに代表される顧客の嗜好に合わせたお勧め商品が画面に表示される、レコメンデーション+パーソナリゼーションシステムはもやは珍しくなくなりました(実装レベルには各サービスでかなり差があるのも現実ですが、各社しのぎをけずって懸命に努力しています⁠⁠。仕組みとしては、顧客の購入履歴や他人の購入履歴を利用して、お勧めの情報を表示するというものです。これらの手法は、主に顧客(見込み顧客)とコンタクトが取れた確定データを元に事後でアプローチを行うといったモデルです。

行動ターゲティングとは?

さて、行動ターゲティングとはどのような手法・サービスなのでしょうか?

行動ターゲティングといっても多岐にわたります。広義で捕らえると、インターネットビジネスに限らず、生活者の行動を把握して自社のターゲットを絞り込みです。営業・マーケティング活動を行う点で考えると先に述べたデータウエアハウスやCRM、SFAシステムの機能は既に行動ターゲティングを実現しているといえます。

しかし、インターネット技術を応用した行動ターゲティングは前述のシステムとは違いがあります。このインターネットならではの行動ターゲティングを考察してみましょう。

生活者をターゲティングする場合には、主として以下の3つでセグメント(分類)されます。

1) 属性
性別・年代・職業・家族情報といった個人の属性を基に分類
2) 地域
住んでいる地域から分類
3) 心理状態を推定して分類
興味・関心毎から分類(購入履歴や会員登録時や営業マンが情報を収集)

これらの分類方法はいずれも事前に情報を入手しておくか、購入後であることが前提です。また、これらは固定的な情報であり、時間の経過とともに生活者の関心事が変わっても自動的には変更はされません。

インターネット広告において、当初はバナー広告に代表される広告枠を購入してある程度決まった広告を配信するといった手法がとられてきました。これはTV CMと同様に決まった時間にすべての視聴者(ウエブサイトを訪問する)に同一の広告を視聴させるといったものでした。

最近では、生活者の行動は固定的なデータによる分類だけでは推し量れなくなっています。検索したキーワードに一致する広告を表示するといった検索連動型広告に代表されるように、インターネット技術を駆使して生活者の嗜好・意図に合わせた広告を表示することが可能になってきました。また、インターネット技術を応用したブラウザベースで訪問者を特定する仕組みにより、訪問者の個人の属性を入手することなく、行動データを取得することが可能になりました。

※訪問者を特定する仕組みは第4回インターネット広告配信と測定の仕組みをご覧ください。

インターネットにおける行動ターゲティングとは属性やデモグラフィックデータだけに基づいて生活者をターゲティングするのではなく、ウエブサイトを訪問してきた生活者を特定して(ただし、個人を特定するわけではない⁠⁠、アクセスデータや過去の行動履歴をもとに生活者の興味・関心に合致する広告を表示したり、情報を提供する仕組みのことです。

インターネット広告では生活者が過去にウエブサイトの閲覧したページを元にセグメントして広告を表示するといった「行動ターゲティング広告」が広まってきています。米国では2004年から注目され、日本でも2006年から「行動ターゲティング広告」が認知され、サービスが開始されています。

よく挙げられる例は車関係のウエブサイトを閲覧している人が(広告枠のある)他のウエブサイトを閲覧したときに自動車の広告を表示するという例です。

図1 行動ターゲティングの例
図1 行動ターゲティングの例

米国では、行動ターゲティング広告が2011年までに38億ドルまで成長するだろうと予測されています。

では、行動ターゲティング広告はどのような仕組みで実現されているのでしょう?

行動ターゲティング広告の仕組み

行動ターゲティング広告はサービスを提供している会社によって、どこまでデータを取得するか、どうセグメントするか実装の差(設計思想)はありますが、大きくは以下のような仕組みで実現されています。

図2 行動ターゲティング広告の仕組み
図1 行動ターゲティング広告の仕組み

サイト閲覧時には以下の処理が実行されます。

  1. ブラウザがWebサーバーにリクエストを送信
  2. Webサーバーが閲覧タグを含んだコンテンツを送信
  3. ブラウザが閲覧ページ情報をアドサーバーへ送信
  4. アドサーバーが閲覧履歴を保存
  5. アドサーバーがCookieにユニークなIDやその他の情報を設定して応答

広告枠にあるサイトを訪問した時には以下の処理が実行されます。

  1. ブラウザがWebサーバーにリクエストを送信
  2. Webサーバーが広告表示タグを含んだコンテンツを送信
  3. ブラウザが広告表示リクエストとCookieをアドサーバーへ送信
  4. アドサーバーが閲覧履歴やCookie、セグメント情報から配信する広告を決定
  5. アドサーバーが広告を配信

そして、行動ターゲティングの仕組みで重要なポイントは以下の3つの処理です。

1) 行動トラッキング

ウエブサイトを訪問した生活者を特定して、ウエブページの行動履歴を取得します。生活者の特定には主にCookieを利用します。主として以下のようなデータを蓄積していきます。

  • ウエブサイトのドメイン
  • 閲覧したページ情報
  • 検索したキーワード
  • IPアドレスを元にした地域情報(都道府県)
  • クリックされた広告情報
  • 位置情報(携帯サイトの場合)

Cookieやこれらの情報は4週間~数ヶ月で破棄する方針をとっているサービスが多いようです。

2) セグメント化

行動トラッキングで取得したデータを基に生活者をセグメント化します。また、会員登録情報を持っている事業者・サービスであれば、属性情報もセグメント化に利用することが可能です。

大きな分類では、旅行、車、金融といった業種から、さらに細かく分類するといった手法がとられます。セグメント化は各社によって実装する仕組みが異なります。アドサーバーに定義しておいたルールベースでセグメントする方法と、動的にキーワードや閲覧コンテンツを分析してセグメントする方法、またはその両方を利用します。

3) 広告配信

生活者が行動ターゲティング広告の掲載サイトへ訪問したときにセグメント情報に基づいてセグメントに属する広告を配信します。

行動ターゲティングのメリット

行動ターゲティングを利用した広告配信が従来の広告配信と異なる点は、広告枠は同じだけれども、訪問者によって表示される広告が異なる点です。しかも、訪問者の趣味・嗜好にあった広告が配信されるので、クリック率が高まることが期待できます。

メール配信で顧客をセグメント化してメール本文をいくつかのパターンで分けて配信する、ターゲティングメールやパーソナリゼーション機能を実装したウエブサイトと同様の手法を、広告配信における「効果的な広告クリエィティブを配信する機能」を実現した点が重要なポイントです。

次回は「行動ターゲティングのモデル」について考察したいと思います。

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