前回まではペイドメディアとオウンドメディアをどのように活用すればよいかを提示してきました。これまで、集客に力を注いで新規の消費者を囲い込むことに力を入れていた企業が多く存在していましたが、今後は、集客と追客のバランスをとることが必要です。
今回は、顧客を優良顧客まで育成していくために、オウンドメディアとリピーター獲得施策ツールの有効な活用方法を提示していきます。
とくにこんな方に読んでもらいたいと思っています。
- 消費者とのコミュニケーションに課題を感じている方
- リピーター対策の内容をすべて同一で実施している方
- 顧客の嗜好に合わせたセグメントをしていない方
- リピーター対策のどこに反応しているか分析していない方
- どんな顧客がリピートしているのか分析できていない方
- 広告や宣伝など新規顧客獲得コストばかりかかり効率が悪いと感じている方
なぜ顧客の育成をする必要があるのか?
商品やサービスの複雑化、競合先の新規参入、メディアの多様化により、従来まで注視されていた新規顧客の獲得単価が上昇してきました。また、インターネットの普及と進化によって、さまざまな販売チャネルが生まれ、他社での購入に簡単に流れてしまうようにもなりました。
このような消費者動向の変化により、信頼してもらい、ブランドに愛着を持ってもらう必要性が生まれ、信頼してもらい、ブランドに愛着を持ってもらうには、共創という視点で顧客育成をしていく他はないのです。
顧客育成の考え方
では、どのようにして既存顧客の育成を行っていけばいいのでしょうか?
まず前提として、「顧客を囲い込む」という発想ではいけません。失敗する可能性が高くなります。なぜなら、自社を選んでくれた顧客は、自分の意志で選んでくれているからです。そのような顧客には感謝の気持ちを伝え、顧客との間に良好な関係性を築くことを心がけるべきではないでしょうか?
顧客を囲い込むために、数多くのメルマガを配信したり、電話勧誘をしたりするのではなく、個客[1]にとって有益かつ快適だと感じられるものである方が重要なのです。ですから継続的な質の高いコミュニケーションをとることによって、結果的に、リピート消費へとつながっていきます。
また、テクニックにこだわり過ぎて、効率的な施策を行おうとすると、消費者にもその意向は伝わってしまします。この記事でテクニック面も解説しますが、「個客と共創する」という観点を持った上で、ご参考にしていただきたいと思います。
顧客育成の設計(テクニック面)
まず、顧客育成の実施の前に理解しておかないといけないのは、メルマガや手紙などの既存顧客育成においてのプロモーションは、新規顧客獲得のプロモーション時と同様に、「企業理念・経営ビジョンに従い、事業戦略に従ったものにする必要がある」ということです。
もし事業戦略とは何の事か理解していない方は、第2回をご覧ください。
そのうえで、顧客育成は次の順序で行っていきます。
- 現状分析
- 目標設定
- 全体設計
- ストーリー設定
- 施策設定
- タスク管理
①現状分析
まず、現状の分析を行い、現在の問題点(ボトルネック)、顧客育成ポイントを把握します。そのためには、全体のリピート売上の推移を確認、離脱しやすいステージを確認、離脱率と購入回数などピンポイントな問題点を確認します。
②目標設定
そして、どのポイントに対してCRM施策強化を行うか一定期間の目標を定めます。たとえば「目標設定」では、まず初回購入顧客を何%向上させ、売上を1年間で何%向上させたいかなどを決定します。
③全体設計
「全体設計」では、全体を見た上で、どのポイントを具体的に改善させていくかを決定します。
④ストーリー設定 / ⑤施策設定
「ストーリー設定」では、全体設計を基に、実際に改善をしたいポイントに対して何回フォローを行うのか、どの手段でフォローを行うのかを具体的に決めます。フォローの方法はメール、DM、コールセンター、同梱物等です。少額に抑えたい際は、掛かる費用が少ない「メール」から取り組む場合が多いです。
施策内容は必ず、ABテストを実施します。題名テスト、本文テスト、方向性テスト、構成ブロックテストなどで、たとえば、飲食店を次回も来店する理由を伝え、キャンペーンページへ誘導するブロックをテストしたり、「〇月〇日までに購入いただくと500円引き」という割引き価格をテストしたりします。
⑥タスク管理
④、⑤によりフォローを行うことが決定しても、誰が、どのタイミングで取り組むのかなど、担当者を分け、スケジュール管理する必要があります。
具体的な分析手法
既存顧客の育成において分析をしていきますが、そもそもなぜ分析をする必要があるのでしょうか?
分析をする理由は、消費者の傾向を把握し、経験や感覚ではなく、実在像を基にした顧客育成のプロモーションが出来るからです。むやみやたらにプロモーションを実施するのではなく、分析する事によって最良のプロモーションを実施する事が可能となります。
分析には大きく2種類あります。大まかな流れをつかむための「全体把握」と、「ピンポイントな問題点を把握するための分析」です。まず大きく「何処を改善する必要があるのか」を把握するために全体把握をし、「それを踏まえてピンポイントな問題点を把握する」という順序となり ます。
全体把握
それではまず、「全体把握」のための分析手法を見ていきます。全体把握で用いる分析は、RFM分析、CPM分析、顧客属性分析、商品転換率分析です。
RFM分析
R(リーセンシー):最終購入日(直近の最終購入日)、F(フリークエンシー):購入頻度(一定期間の購入回数)、M(マネタリー):購入金額(一定期間の購入総額)、そして、3つの指標に対して数値の高いグループ(R5・F5・M5)を優良顧客とし、数値の低い下位グループを「一般顧客」や「見込み客」など分類する手法です。
たとえば、「購入頻度15回以上になると離脱率が低くなる」という傾向がある場合は、F5を「15」と設定し、「送料無料でミニマムの購入単価が2,500円」の傾向がある場合は、M1を「2,500」と設定します。
具体的には下記のようになります。
- F5を15回以上に
- F4を12回に
- F3を9回に
- F2を6回に
- F1を3回に
- M5を50,001円以上に
- M4を10,001円から50,000円に
- M3を5,001円から10,000円に
- M2を2,501円から5,000円に
- M1を2,500円以内に
そして、業種によっても変動しますが、自社では「4ヵ月以内に消費してもらうことでリピート率が上がる」という傾向があるなら、R1を「120」と設定します。
- R5を1日から30日に
- R4を31日から60日に
- R3を61日から90日に
- R2を91日から120日に
- R1を121日以降に
CPM分析
顧客を商品購入後の経過日数によって初回客、よちよち客、コツコツ客、優良客に分類し、「優良客」に育成するために客層ごとに行うべきアクション を考案する手法です。減少している数の大きい客層を改善し、優良客を増やしていきます。
離脱率分析
過去の購入者が「初回購入」や「5回目」など、どの段階で商品購入を止めてしまっているか(離脱してしまっているか)を転換率から分析する手法です。どの購入回数段階の転換率が低いかを分析することで、優良顧客へと成長させる余地がある顧客層が分かります。
たとえば、「商品購入8~10回目の顧客」の転換率が低い場合は、該当する顧客達に現在どんなアクションをしているのか確認し、「離反顧客の特性分析」を行い、オウンドメディア内のキャッチコピーなどのコンテンツ改善、プロモーションのタイミングを最適化することで転換率を高めるようにします。
ピンポイントな問題把握のための分析
次に「ピンポイントな問題把握のための分析」を行います。
ピンポイントな問題把握で用いる分析は、顧客属性分析、商品転換率分析、商品軸分析、LTV分析、入り口商品分析です。
顧客属性分析
顧客の年齢、性別、入会店舗、住所等の基本属性を掛け合わせたセグメント(顧客グループ)を設定し、セグメントごとの顧客数や売上の内訳を集計する手法です。
顧客属性分析は、アンケート結果、商品購入分析・併売分析と併せて使用し、消費者のどのような生活シーンが考えられるのかを予想します。そして、その他の分析で必要となる仮説作りに役立てます。
商品転換率分析
商品カテゴリ、商品、及び商品セグメントごとの売上分析から、特定の商品、商品カテゴリにおける購入顧客層を分析する手法です。商品ごとにどの商品からどの商品へ転換しているかを把握し、アップセル・クロスセル[2]を実現したり、商品購入の転換率を向上させます。また、セット商品の提案も可能になります。
たとえば、ペット用品を販売している通販事業であれば、ペットシーツの購入者が、消臭グッズを購入する確率が高いのであれば、セット商品の提案をメール配信で行うなどです。
商品軸分析
「商品Aを購入した顧客は、商品Bを同時に買う確率が高い」というように、「ある商品と併せて購入されている商品は何か」を分析する手法です。商品ごとにどの商品が同時に購入されやすいか把握し、サイト内で同時購入を促進したり、セット商品として販促することで顧客単価の向上させます。
たとえば、衣料品を販売している通販事業であれば、ボトムス購入者に必要になると思われる物(併せて着られるデザインのトップスやベルトなど)を提案していき、コミュニケーションを取っていった上で購入促進を行うなどです。
LTV分析
どの購入経路(来訪別)から訪れたユーザが売上に貢献し継続しているのか、CRM施策ごとにどのような効果およびLTVなのか、を判別することでマーケティング予算の最大・効率化を図る手法です。
どの購入形態が初回商品購入から長く継続されているのかを分析することで、新規顧客獲得時に何を打ち出していくのかを判断することができます。
たとえば、パスタソースのサンプル購入、定期購入、単品購入の中で、長期購入継続しているのは単品購入者だと想定していたところ、実際はサンプル購入者の方が長期購入継続者が多いと判明した場合、最もLTVが高いのは「サンプル購入者」と言えます。その場合、新規獲得のための広告で用いるキーワード、キャンペーンサイトなどのオウンドメディア上のキャッチコピーもサンプル購入者向けに変更する必要があります。
そうすることによって相手を絞った広告施策が打て、広告費の削減、顧客LTVの最大化が実現できるようになるのです。
分析後のストーリー設定
分析を行った後「どのようなポイントを改善するか」は、顧客数が多い所、改善率が高い所を選択します。分析だけでは、仮説を立てるのに情報量が少ないので、過去のプロモーションの結果や事業戦略に見合うかなどで判断していきます。そして、タイミング、コンテンツを吟味しストーリー設定を行い、リピーター率を向上させるのです。
今回は、顧客を優良顧客まで育成していくために、リピート対策ツールの中でもメルマガを取り出して提示しました。その他の施策をふまえ、自社の戦略に合ったツールを取捨選択し、通販サイトやキャンペーンサイトといったオウンドメディアと相関性を持たせ、顧客を育成していってもらいたいと思います。