ネットショッピングの普及に伴い、ビジュアルデザインや商品の写真画像がきれいで、ページの構成もわかりやすく、お買い物しやすい店舗の数が多くなりました。
しかし一方で、見た目はきれいなのに売上に結びつかない、という店舗も多く存在します。
ネットショップも「通信販売」というビジネスであり、開設して発展させていくために、事前に明確にしておくべきポイントがあります。ネットショップを成功させるための要因の8割は「ヒアリング」にかかっているといっても過言ではないかもしれません。
今回は制作者の立場から、ネットショップの新規開設、リニューアルにあたってのヒアリングのポイントについてまとめます。
一番大事なのはネットショップの「コンセプト」
「コンセプト」とは本来「概念」という意味ですが、ここでは店舗運営における基本的な概念、つまり「企業理念」に近いものです。
具体的には「お店の商品やサービスを通じて、お客様にどのようなベネフィット(利益・価値)を提供するか」ということです。
たとえば、店舗別に以下のようなコンセプトが考えられます。
- 特産品・食品を扱う店舗であれば…
- 「無農薬の有機野菜の生産・販売を通じて、お客様の食事環境の向上を促し、健康的な生活の実現のお手伝いをする」
- インテリアを扱う店舗であれば…
- 「お客様のライフスタイルにあわせたインテリアの提供を行い、理想的な生活空間の実現と、生活環境の向上をサポートする」
「ただ、商品を販売する」ということだけでは、短期的な売上に意識が奪われがちになり、お客様本位でなく、店舗主体の運営になってしまいます。
店舗のコンセプトが明確になっていることで、コンセプトに基づくデザインや配色、コピーの作成などにも一貫性ができ、スタッフとの共有することで、顧客対応や受注、商品梱包、発送作業、アフターフォローなどの部分でも店舗のブランドイメージを構築し、お客様との信頼関係を築いていくことができます。
「コンセプト」はお店の基盤となる、重要な部分です。コンセプトがしっかり固まっていれば、短期的な売上だけにとらわれることなく、ネットショップの軸がぶれることなく、発展させることができます。
ネットショップ構築にあたってコンセプトが設定されていない場合、以下の文を埋められるようにすることから始めてみると良いでしょう。
「当店は、○○(製品、サービスの種類)を通じて、お客様に○○(ベネフィット、価値)を提供し、○○○○(お客様の欲求を満たす具体的な環境)をお手伝いします。」
想定顧客のイメージと、お客様の欲求をイメージする
コンセプトの次は、ネットショップのお得意様となるお客様のイメージを想定します。お客様の年齢や性別、家族構成、収入、趣味などの具体的なイメージ像を作ります。
その上で、そのお客様がどのような欲求を持っているか、どのような悩みを抱えているか、などということを考えます。
例えば、ドッグフードを取り扱う店舗では、以下のような顧客イメージが想定できます。
- 「首都圏近郊に住む一人暮らしの20代の女性。マンションで犬を飼っている。」
- 仕事もしており、忙しくなるとドッグフードを買いに行く時間もなくなることもある。
- また、買い溜めしておこうとも思っているが、重たくなるので面倒。
- ドッグフードが切れたときになじみのないものを食べさせたくはない。
このようなお客様に対して、安心して食べさせられるドッグフードを、毎月届けるサービスをすることで、お客様に喜んで利用してもらえる、というネットショップの利用シーンが考えられます。
理想のお客様のイメージをはっきりさせることで、そのお客様にお店のこと、商品について知っていただき、商品を購入して利用してもらい、リピートしていただくためのアプローチの方法を考え、実行することができるようになります。
お客様のイメージ像は、1パターンだけでなく、お店のファンとなってくれるお得意様、一般的なお客様、潜在的にいるであろうお客様、の3パターンのイメージ像ができると良いでしょう。
可能であれば、実際にお客様と会い、より具体的なイメージを作ると効果的です。身近な友人を理想の顧客イメージとして固めたり、自分と商品を届けたり、顧客交流会を開いたりして、お客様の姿と生の声を聞いてより詳細なイメージ像を作り、店舗運営に役立てられている店舗もあります。
ネットショップ構築・運営の参考となる、競合店舗を見つける
ネットショップを発展させていく上で、参考となり、ライバルとなる競合店舗もヒアリングします。
同じ商品を取り扱う店舗、同じメインキーワードで上位表示されている店舗、コンセプトが似ている店舗など、競合店舗をリストアップします。
競合店舗のサイト内には、自店舗にも活かせるヒントも多く隠されております。競合店舗のコンテンツをパクる(コピーする)ことは絶対に行ってはなりませんが、内容を参考にして、自分の店舗で提供するサービスを考えるためのヒントを得ることはできます。
また、交流会などで店長さんと実際にお話しすることができれば、その店舗さんとの情報交換を通して、お互いに切磋琢磨し、発展させていくこともできます。
取扱商品数、商品写真素材の数、商品説明文などの把握
ネットショップのコンセプト、想定顧客のイメージが把握できましたら、次は制作に関するヒアリングになります。
制作にあたって、きちんと把握しておきたいポイントは、ネットショップで取り扱う商品数、その商品の写真素材などの点数、商品説明文やキャッチコピーなどの情報です。
ネットショップで取り扱われる商品数は、少ない店舗では単品販売という店舗から数十商品という店舗、多い店舗では数千、数万点という店舗まであります。
中小規模の店舗でも500、600商品を取り扱う店舗は多くあります。
それらの商品情報を登録するときの素材の準備状況はどうか、商品説明文はデータ化されているか、キャッチコピーは誰が作成するのか、ということをしっかりと把握しておく必要があります。
テンプレートに沿って商品ページを作成するのであれば、データが揃っていれば、一括で登録することも可能です。
しかし『第2回 なぜ、楽天の商品ページはものすごく縦に長いのか?』で解説させていただいたように、ネットショップでの購買率を上げるためには、商品ページの作りこみを行う必要があります。
そのため、各商品にあわせたキャッチコピーやキャッチイメージを制作し、設置していく必要があります。
その作業量を事前に把握しておかないと、見積もりの段階での相違が発生します。
売上目標、店舗の損益分岐点、広告費の把握
ネットショップ構築のヒアリングにあたって、見過ごされがちなポイントが売上目標、店舗の損益分岐点です。
実際の市場規模の調査や、メインキーワードの月刊検索回数から想定されるインターネット上での市場規模を把握し、3ヶ月目、6ヶ月目、1年目、3年目くらいまでの、現実的な売り上げ目標を設定する必要があります。
あわせて、店舗の損益分岐点をあらかじめ把握しておくことも重要です。
「損益分岐点」とは、店舗に利益が発生するための売上高のことです。
人件費や不動産賃借料などの固定費と、商品の仕入原価や外注費などの変動費を加えた経費の合計金額が「損益分岐点」となり、この点を売上が超えることで利益が発生します。
ネットショップ運営において「損益分岐点」を超えることが一つの目標となります。
この損益分岐点を把握せずに、やみくもに「月商1000万円を目指します」と設定して、売上ばかりを突き詰めていくと、月商1000万円を達成しても利益が出ずに赤字になってしまう可能性もあります。
売上目標や損益分岐点などは、コストの見えにくいネットショップにおいて、認識されていないことの多い点ですので、あらかじめ明確化させておく必要があります。
また、売上を上げていくために「広告費」は不可欠です。
Yahoo!カテゴリへの登録、Overture や Google AdWords への広告出稿、その他の広告活動を行ううえで「広告費」が必要となります。
ネットショップが一般的になった現在において、広告費を使用せずに売上を伸ばしていくのは大変難しくなっています。
最初はどれくらい広告費を投入すれば良いか、という判断材料も少ないので、まずは基本的なSEO、Yahoo!カテゴリ登録を行い、OvertureやGoogle AdWordsなどのPPC広告を小額から出稿して費用対効果を見極めていくと良いでしょう。
今回は、通常のウェブサイト制作時のヒアリングでは見過ごされがちな、ネットショップ構築特有のヒアリングのポイントをまとめてみました。
商品登録時の作業量については、ネットショップ構築にあたっての見積もり提出と、作業内容をしっかりと説明してお互いに納得するためにもきちんと把握しておかなければなりません。
また、売上目標や損益分岐点などは、長期的に店舗運営を進めて成長していくために、共通意識として認識しておくと良いでしょう。
ネットショップに限ったことではありませんが、一番重要なのは「コンセプト」です。
「店舗の商品やサービスを通じて、お客様にどのような価値を提供するか」ということがはっきりしていて、全員で共有し、それに基づいて運営できれば、最適な企画を考え、行動することができます。
まずは、ネットショップのコンセプトから見直し、全員で共有するところから、始めてみてください。