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第6回(最終回) CGMはどう変化するか?

これまで、スマートフォンのCGMに関して、

とご紹介してきましたが、本稿では今後のCGMを取り巻く環境の変化と、変化への備えに付いてをテーマにしたいと思います。

この2、3年で起きた環境の変化

スマートフォンの普及に伴い、この2、3年でCGMを取り巻く環境は大きく変わりました。

サービス利用場所の変化、細切れ時間の増加、ユーザリテラシーの向上、プラットフォームの課金システムの確立、現在地情報の利用、Facebook・Twitterの拡大、メールからLINEへの移行、ゲームの収益化と投資資金の循環、TVCMの加速などがあります。

こういった変化を3年前に予想できたかといえば、予想できることもあったし予想しきれなかったことも数多くあったのではないかと思います。

どのような変化が起きるのか

では、今後CGMを取り巻く状況はどう変化するのでしょうか?

  • プラットフォーマーの台頭
  • 集客構造の変化
  • キュレーション
  • パーソナライズ
  • 薄い情報の爆発
  • 新しい広告
  • プライバシーの共通意識
  • ユーザ環境の変化
  • ウェアラブルの普及

上記のように数多くの予想ができるため「どこに変化が起きるのか」は予想できても、⁠どの方向に、どのくらい変化するのか」を予想するのは非常に難しい問題です。運営者としてすべきことは、どこに変化が起きるのかを把握しつつ、変化の方向性にはどんなパターンがあるのかをある程度把握し、変化のタイミングで適切に舵を切ることでしょう。

以下の章では、いくつかの変化が起きる部分を指摘し、どういった備えをすべきかを整理していきます。

プラットフォーマーの台頭

ある分野のCGMに事業としての「うま味」がありそうであればあるほど、そこにGoogleやFacebookと言った「プラットフォーマー」が進出してくるリスクが大きいと言って良いでしょう。とくに最近のLINE、Yahoo! JAPAN、Facebookなどのプラットフォーマーは主力事業以外の収益源を探す動きを加速させています。

プラットフォーマーは膨大なユーザー数を抱えているため、CGM特有の「最初にどうやってコンテンツ量を集めるか」という問題をクリアして競合に差を付けやすいためです。パワーは強大であるため、後発であっても一気に巻き返される脅威を感じざるを得ません。

たとえばフリル、パシャオク、メルカリなどが先発していたCtoCコマースアプリにも、LINEモールとしてLINEが参戦。LINEモールの直接の影響ではないにせよ、この領域ではすでにパシャオク、bolo、マムズフリマ、などのアプリが閉鎖を発表しています。

LINEのアプリ「LINEモール」
LINEのアプリ「LINEモール」
先発のフリル
先発のフリル

脅威となるプラットフォーマーとしては、以下のようなものがあげられます

  • Facebook
  • Google
  • LINE
  • Apple
  • 携帯キャリア(docomo、ソフトバンク、au)

筆者の運営するグルメCGMのRettyも、常にFacebookやLINEなどのプラットフォーマーによる脅威があると思っています。Facebookは飲食店へのチェックイン情報や星の評価を集めるテストを繰り返していましたし、スマートフォンアプリでは飲食店を検索する機能が浅い階層に設置されたこともありました。

LINEも「LINE@」をリリースして飲食店とユーザの接点を作ろうという動きを見せていたり、GoogleはGoogle+で飲食店の口コミ情報を重点的に集めていたり、とプラットフォーマーの動きには目が離せません。

プラットフォーマーが脅威な理由

  • 初期ユーザの誘導ができる、継続的に誘導しやすい
  • ブランドに安心感がある
  • プラットフォーマーならではの機能を提供できる
  • 競合サービスを閉め出せる

など、CGM運営者にとっては非常に頭の痛い要素が揃っています。

プラットフォーマーは初期のユーザ獲得が容易な反面、特定ジャンルに深く精通したコアユーザを獲得しづらいという弱点もあります。これに対抗するためには、よりコアな発信ユーザを囲い込み、コンテンツで差別化するべきでしょう。

薄い情報の爆発

スマートフォンの普及で、CGMに投稿されるコンテンツには大きな変化が起きています。

その1つが「薄い情報の爆発」で、それにより旧来型の充実した情報が強みのCGMが衰退し、新型のCGMが台頭する可能性があると筆者は考えています。

旧来型のCGM

特徴:特定ジャンルに関する網羅的な情報

情報:口コミ、レシピ(方法⁠⁠、お店・商品のスペック情報、詳細で多角的な写真、専門コミュニティの作成&運営

投稿するデバイス:PCが中心

例:食べログ、みんなのウェディング、クックパッド

網羅的な情報が揃っている食べログのお店ページ
網羅的な情報が揃っている食べログのお店ページ
新型のCGM

特徴:薄い情報、ユーザの投稿ハードルの低い情報

情報:薄い(短い)口コミ、エモーショナルな写真、チェックイン、いいね、持っている

投稿するデバイス:スマホが中心

例:Twitter、Faebook、Forsquare、Instagram、summaly、answer、snapdish

薄い情報が大量にあるFacebookのお店ページ
薄い情報が大量にあるFacebookのお店ページ

旧来型のCGMは、特定ジャンルに関する網羅的な情報が「売り」でした。ある程度専門性と量を求められるため、必然的に発信できるユーザは限られました。

たとえば、グルメサイトの食べログではレビューは250文字以上が必須で、それに加えて様々な角度からの採点を求められます。またお店の評価につながる「星の数」に影響を与えられるのは他のユーザからの評価が高いヘビーユーザのみです。

反して、新型のCGMでは、薄い情報が中心のため、専門性のないユーザでも気軽に投稿(発信)をすることができます。チェックイン、写真、いいね! などは、どんなに専門性のないユーザでも条件に当てはまれば発信できる薄い情報です。

スマートフォンの普及とともに、こういった専門性は薄いが発信される量はとても多い「薄い情報の爆発」が起き始めていると言えるでしょう。

新旧CGMが交代する条件

たとえば、ForsquareやFacebookのチェックインは食べログのレビューよりもハードルが低く、食べログの投稿数とForsquareのチェックインには圧倒的な差があるケースがほとんどです。

食べログでは130件の口コミだが、Forsquareでは6倍以上の816件のチェックイン
食べログでは130件の口コミだが、Forsquareでは6倍以上の816件のチェックイン
食べログでは130件の口コミだが、Forsquareでは6倍以上の816件のチェックイン

こうした「薄い情報の爆発」が起きることで、旧来型CGMが持つ網羅的な情報を超えた価値を提供することができたとき、旧来型のCGMが衰退し、新型のCGMが台頭する可能性があるのです。

キュレーションメディアの台頭

すでに始まっている動きですが、多くの情報をわかりやすくまとめるキュレーションメディアがこれまで以上に台頭する可能性もあります。画面の小さいスマートフォンでは、ユーザが把握できる情報が限られ、検索などで複雑な操作もしずらいため、効率的にまとめられたコンテンツには非常に価値があります。そういった流れとSNSの流行などが合わさり、現在キュレーションメデイアが流行しています。

たとえば、Naverまとめでは「レシピまとめ」という形で、クックパッドのレシピをまとめたコンテンツがあります。クックパッドには無いニッチなまとめや有料ユーザしか見れないレシピのランキングがみれるため、Naverまとめ上でも特に人気のコンテンツのようです。

中身はクックパッドのNaverまとめの「まとめ」
中身はクックパッドのNaverまとめの「まとめ」
食べログも「まとめ」られている
食べログも「まとめ」られている

CGM上に大量にあるコンテンツをまとめて自分に見やすいキャッチーな情報に加工してくれる点で、ユーザにとっては一定のメリットがある存在である反面、CGMの運営側としては、コンテンツを勝手に使ういわゆるフリーライダーとしてのキュレーションメディアが増えることで、広告収益の低下やユーザ課金ポイントが奪われるなどの問題が想定されます。

運営側としては、コンテンツを制限する、キュレーションメディア側と提携する、権利主張するなどの対策は打てるものの、インターネットの性質上それらが解決策としては現実的でない場合も多いでしょう。

外部キュレーションメディアに対抗するためには、それらを超えるさらなる利便性の追求が必要です。具体的には、自動でキュレーションされる機能、CGM内のユーザに、キュレーターとしての役割も担ってもらう、パーソナライズの追求でキュレーション情報以上の付加価値を提供するなどの対抗策が考えられます。

新しい広告・ビジネスモデル

一般的にスマートフォン広告はPC広告に比べて単価が低いため、従来のCGMやWebメディアで多かった「純広告」が難しくなってきています。また、昨今では紙媒体も含めた新旧メディアが乱立しているため、ユーザにメリットの薄い「記事広告」も敬遠されがちです。

そこで、各メディアでは現在、スマートフォンの特性を活かした新しい広告やビジネスモデルを模索しています。

ユーザ参加型広告

薄い情報の爆発により、発信ユーザが増大した結果、ユーザ参加型の広告も普及しそうです。

ぼけての例
「写真にぼける」がコンセプトのぼけては、ユーザが写真に一言で「ボケ」を投稿します。おもしろい「ボケ」であればあるほど、ぼけて上で広がり他のSNS上にも拡散されるのが特徴です。ぼけてでは広告主が「お題」を提供することで、ユーザがそれに「ボケ」るユーザ参加型広告を実現しています。
ぼけて
ぼけて

商品やお店のレビューサイトの場合、お金を払って投稿をしてもらうのはいわゆる「ステマ問題」につながるリスクがありました。

ですがスマートフォンの得意な「チェックイン」や、⁠ボケ」のような、直接評価につながらない投稿であれば広告として機能するため、ユーザ参加型広告が今後CGMのビジネスモデルの1つになる可能性はあるでしょう。

コンテンツマーケット

薄い情報が増える予想と反するように聞こえるかもしれませんが、発信者が増えることで「良質な情報」の絶対量が増える効果もあるでしょう。より良質な情報はユーザ間で「販売」できるようにすることで、コンテンツマーケットをビジネスとしていくことも考えられます。

たとえば、クックパッドのようなレシピサイトであれば、固定ファンの多い発信者ユーザが「秘伝のレシピ」を有料で販売することができるようになるかも知れません。CGM運営者は売上の○○%をもらうというようなビジネスモデルです。

メルカリなどのCtoCコマースアプリ以外の、クックパッド・Instagramなどでユーザによるコンテンツ販売が行われるようになるかもしれません。

ビッグデータ

スマートフォンの普及と、さらに注目をあつめるウェアラブルデバイスの普及により、メディア運営者が得られるユーザの情報は莫大な量になります。いわゆるビッグデータと呼ばれるもので、ユーザがいつ、どこで、どんな情報を、どのくらいの時間見て、何に興味があるか、と言う情報がその一例です。

CGMのビッグデータは、とくに購買などに紐付きやすい特定ジャンルのデータになるため、企業にとっては非常に価値があるものです。プライバシー問題と、ビッグデータの有効活用方法の確立などの問題がクリアになれば、今後CGMのビジネスモデルの中核になってくることも充分考えられるでしょう。

フィルタリングでのユーザ課金

たとえば、食べログでは、星の点数順にお店が検索できる「ランキング機能」が使えるプレミアム会員を月300円の有料としています。従来のようにPCで検索する分には、Webブラウザのウィンドウをいくつも立ち上げて比較すれば良かったです。しかしスマートフォンの小さな画面でそれをやるには非常にストレスがたまります。そこでこの機能を有料とすることで、ユーザ課金を大きな事業の柱というところまで成長させました。クックパッドのプレミアム会員にも同様の機能が提供されており、大きな収益をあげています。

膨大なデータがあるCGMだからこそ、それを見やすくフィルタリングする機能の有料化には大きな可能性があると言えます。

終わりに

本連載では6回にわたって、スマートフォンのCGMを成功させるためのノウハウや事例を紹介して参りました。

企画・UIUXというプログラムやデザインに比べてノウハウの少ない領域のため、少しでもお役に立てる内容が発信できればと思い執筆の機会をいただいたのですが、改めて書いてみると想像以上に複雑で難しい課題であると感じました。

PCからスマートフォンにシフトする世界的な流れの中で、CGMには非常に大きなチャンスがあると思います。このチャンスの中で読者の皆さまが素晴らしいサービスを作るうえで、本連載に1つでも参考になる点が見つかればこの上ない喜びです。

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