WSEA(Web Site Expert Academia)

第14回コミュニケーションとWeb サービスの価値作り(その1)

毎回さまざまな分野の方をゲストに迎え、⁠関心空間』代表取締役前田邦宏氏と⁠つながり⁠について対談を繰り広げる『Web Site Expert Academia⁠⁠。

今回は、東京大学大学院情報学環教授 佐倉統氏をゲストに、前々回の検索エンジンの話から、次世代のコミュニケーション、グローカルとWebサービスの価値づくりの話へと展開しました。

右:東京大学大学院情報学環教授 佐倉統氏。
左:関心空間代表取締役 前田邦宏氏。

右:東京大学大学院情報学環教授 佐倉統氏。左:関心空間代表取締役 前田邦宏氏。

情報、目的、検索エンジン

前田:

以前、リビングサイエンスラボ※注1のプレス発表のときに僕がお伺いして、それがきっかけで東大情報学環の授業に参加させていただいたのですが、あのときゲストに招かれていた方々の授業内容の一貫したテーマは何だったんでしょうか?

佐倉:

講義題目は「進化生態情報学」と言って、情報の流れを生物の進化の観点で見るというものです。たとえば、Webも情報が流れている1つの生態系みたいなものかもしれない。そういうふうに見ることで、何か収穫が得られるんじゃないかという授業だったんですよね。

前田:

実際ああいう授業をされて、生徒さんはどういう受け取り方をしましたか?

佐倉:

前田さんの話も含めて全般的に言うと、1つは学生自体がかなり不安な状態に置かれていて。たとえば哲学なら哲学、物理学なら物理学の大学院にいれば「これをやれば良い」という安心感があると思うんですよね。けれども情報学環というと、何をやったら良いのかわからない学生もいるわけですよ。社会人や修士課程を経たりしてある程度経験を積んできた学生は、物足りなさを感じてそこから枝葉を広げることができるけど、学部の出たてでまだ自分が固まっていない学生は、⁠なんとなくおもしろそうだな⁠と思って学環に来ると、申し訳ないけど、何をやったら良いのかわからないという感じになっちゃうんですね。そういうときに前田さんの話を聞いて「自分の立ち位置はここで良いんだ」と勇気付けられたみたいですよ(笑⁠⁠。

前田:

まあ、それは僕にもフィードバックされています(笑⁠⁠。ヒエラルキーを上っていく進化ということではなくて、横にナナメにあるつながりというものを、どうしても分類できない。それがあるカテゴリになるまで自分の価値が認められない、社会的価値が引き出せない、と学生さんたちが不安になっている。⁠これだけは自分が正しい⁠と確証を得ていても、社会化が可能なものなのかという点に不安を覚えたり。

ただ、いつも新しいものはそういうところにあるんですよね。だから、つながりというのはそれ自体がモノではなく、モノとモノをつなぐということであり。前々回(本誌#12)水島先生は西垣先生※注2の話※注3を引用して、世の中にはモノと情報とエネルギーしかないんだから、それをつなぐのは一体何なんだろうっていう話が出て※注4これは何だと思います?

佐倉:

僕のイメージだと、モノとエネルギーと情報だと…エネルギーはちょっとわからないですが、モノと情報は対等なものではなくて、モノとモノがつながるときの媒介というか、つながった結果出てくるのが情報だという気がしています。

とくに僕はもともと生き物の研究をしていたからかもしれませんが、生き物の相互作用というのは同じ種の個体同士でもそうですし、違う種同士でもー⁠ーたとえば動物が木の実を食べるとき、一見モノがやりとりされているように見えますが、その前に⁠この木の実は熟れていて食べられる⁠ということを察知し情報処理して、OKだという判断を下してから食べるわけですよね。だから、モノのやりとりというのは、まず先に情報のやりとりがあって、中で情報が動くことで、モノが動く。あるいはモノが動いた結果、エネルギーが生じる。そしてその中からまた情報が出てきてそれは次の移動につながっていく、という…そういったイメージを持っています。

前田:

そのあたりを最近すごく整理したくて。ネット上のコミュニケーションというのは、媒介物がなく、すごくダイレクトに言葉だけでやり取りをしていて…なんというか良いブレが発生しにくいんですよね。

佐倉:

わかりますね。

閉じられつつあるWeb

前田:

『関心空間』を始めてみてわかったのは、我々が作った⁠キーワード⁠という媒介物を通してコミュニケーションをするということは、人にすごく優しいことだなと。普通、オンラインで、ゼロから何かについて議論するというところから始めると、膨大な労力・コストがかかる。いろいろ角が立つところもあったりして。そういうのとちょっと違う温度のコミュニケーションが成立しているというのは、見ていても気持ちが良いですね。

佐倉:

コミュニケーションというのは、普通は何かのためにしていることであって、もちろんコミュニケーション自体を目的とすることもありますが、それだって気晴らしをするとか何とかいう目的があるわけですよね。だけど今前田さんがおっしゃっていたことというのは、インターネットの中の情報のやりとり自体が目的化していて、その結果で何かが生じるということがほとんどない、と。これはどうなのかなぁと思ったわけですよね。

これはインターネットの世界だけじゃなくて、たとえばTVでもそうなのかなと思うんですよね。僕はNHKの『サイエンス・ゼロ』という番組にコメンテータとして、前番組だった『サイエンス・アイ』も含めると、もう10年くらい出ているんですが、一番最初の印象が今でも忘れられません。30秒くらいちょこっと喋っただけで、それまで何の反応もなかった僕の本に対する反応がすごく出て、なんじゃこりゃと思いまして(笑⁠⁠。TVというメディアをもう少し真面目に考えなきゃいけないなと思ったことが今やっていることのきっかけになったんですよね。

それからおもしろいのは、TVに出ていたこと自体をものすごく皆言うんですよ。⁠この前出ていましたね、見ましたよ」って。そこで僕が話していたことじゃなくてTVに出てたこと自体を(笑⁠⁠。

前田:

(笑)

佐倉:

返事のしようがないですよね。もともとTVに限らず映像メディアというものは、何かがあって、そこへ行って、ふだん見れない様子を伝える、というのがもともとのメディアの形だったのに、TVに出ること自体が目的になっちゃって。いつの間にか主従が逆転して情報のほうが目的になってしまっている気がしないでもないですよね。インターネットというのは、TVが作ったそういう傾向を、誰でも参加できる、情報発信できるということに開いたものなのかと思うのですが。

前田:

それはまた前々回の話と少しつながるのですが。前々回水島さんが⁠もうその時代はあっという間に終わってしまった。Webは中心のない開かれた世界だから我々は集まったんだけれども、GoogleとかYahoo!のような従来型のメディアに近いくらい強烈な存在が出てきて、検索エンジンに引っかからないと世の中にないものだという傾向になっている⁠と。彼らにインデックスされるということは、彼らのものになってしまうような錯覚があって。そしてその順位を上げようとSEOとかSEMにどんどん凝り始めていって、さっきおっしゃったようなTVと同じような現象がWebでも起こっているんですよね。

それに対して批判すると、ますますそこから疎外されてしまうということも起こってしまう。自分もやりにくいし、そもそもそんなこと気が付かないで対象外にされている人たちがいる。そういうのってどうなんだろうという話になったんです。

佐倉:

どうなんでしょうね。最近TVCMでも⁠ここから先は検索してください⁠みたいなものが多くて、やばい、TVはGoogleに変わるのかと(笑⁠⁠。

前田:

あれ、みんなGoogleとYahoo!の宣伝になってますよね。

佐倉:

ええ。あと、アメリカやイギリスでは図書館の本も全部デジタル化してGoogle化しようという話がありますよね。だから結局それも同じかもしれませんね。本来、本があるということを検索するエンジンだったのが、検索エンジンに中身を載せることを目的にして、本という媒体の情報が変化しているということですよね。本というメディアには、デジタル情報には載らない情報がいっぱいあるわけですよね。その本を持ったときの匂いや重さや…そういった情報が全部捨象されてしまって、検索エンジンに引っかかるところだけが、世界が見たい情報になってしまう。これって何なんでしょうね?

僕のような、検索エンジンが出てくる前の、図書館に行って本で調べるという時代を知っている世代から見ると、ものすごく情報が捨象されてしまって、確かに便利なんだけれども一部の情報だけが検索されているという身体感覚があるんです。けれども、最初から検索エンジンを知っている世代はその感覚が全然ない。宿題を出して来週まで調べてこいって言うと「わかりませんでした」と平気で言ってくる学生もいます。Googleで調べてYahoo!で調べてわかりませんでしたと。⁠じゃあ図書館行ったの?」って聞くと行ってない(笑⁠⁠。そういう感じなんですよね。

前田:

我々も口ではそう言っていながら、Yahoo!とGoogleで検索して見つからなかったら少し諦めているところがある(笑⁠⁠。という気付きを前々回の対談で得まして。

佐倉:

それは大いにありますね(笑⁠⁠。

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