を拝見し, 縁を感じて対談をお願いしました。
また, 同時期にアンチエイジングをテーマにしたサイトを運用されている校條さんともWebサービスとリアルコミュニティの有機的なビジネススキームについて意見交換する機会があって, 今回鼎談が実現しました。
最近, なぜかちょうど私の身の回りでも、Webの世界での医療のコミュニティの話はよく出てくるんです。私自身はまったく専門外なので、本鼎談を通じて、専門的な方がどういうニーズを持っているか、それを引き出して、読者の方々にこういうニーズやコミュニケーションがあるということをお話できたらと思います。
阿保:
なるほど、わかりました。
医療現場でのWeb活用
前田:
もともとWebの世界というのは、情報を通じて人と人とがつながる世界で、我々よくセレンディピティという言葉を使うんですが、思ってもみなかった出会いによって人生が豊かになったりするものだと思っています。先生のプロフィールを拝見しますと、いろいろとそういう出会いが多いのではという印象を受けますが。まず最初に、先生がWebと出会ったきっかけは何だったのでしょうか。
阿保:
では、クリニック立ち上げの経緯からお話しましょうか。2000年の10月に今の医療機関を立ち上げたのですが、当時は金融機関も融資を出し渋っていた時期でしたし、開業することに対するリスクはありましたね。開業場所にあたっては、とりあえず都心しか考えていませんでした。町医者と言いますか、患者さんの目線で治療を行いたいという思いは医者として純粋に持ってはいたのですが、レベルを落とした治療はしたくないということと、また、ある程度人が集中し得るような環境を作りたかったこともありまして、都心しかありえないな、と。
ホームページ(HP)立ち上げのきっかけは、当時は宣伝にそれほど多くのお金をかけられるわけではなかったので、こちらから話したい・伝えたい、いろいろな情報を世に提示する術として、Webを非常に有用だと感じていたからなんですね。ただ、猛反対を受けました(笑) 。あまり意味がない、徒労に終わるんじゃないか、とか。誰も医療情報をインターネットからは抽出しないだろう、などかなり複数の医療コンサルタントの方々から言われたんです。
ただ、人に聞きにくい悩みとか、体の調子や本質にかかわるいろんなことに対する解を何から探すのかと考えたときに、書店で探すという方法もあるでしょうが、先ほど前田さんもおっしゃっていたように、Webというのは人と情報をつなぐというか、その人自身で自由に動けるというか…医療は絶対にWebを必要とするだろうという思いで、HP制作に踏み切ったんです。
当時は制作会社もほとんどなかったものですから、かなりオリジナルメイクで拙いHPで。それがWebとの出会いですね。HPを医療情報を展開するためのツールとして使い出したというところからですね。今はポータル化したいということで、いろいろなコンテンツを複数作っているところです。
前田:
Webで検索してやって来た患者さんには、何か特徴があったりしますか?
阿保:
我々の医療機関は、クリニックというあまり規模の大きくないものなのです。私の専門分野が外科で、また、開業当時からアンチエイジングに非常に興味があったので、あの空間的な限界の中で提示できるものは手術、かつ日帰り手術(デイサージ)とアンチエイジングだろうということで、その2つをキーとして展開できるようなメッセージをHP上に出してるんですね。
HPを見て来てくださる方は、このデイサージなり、アンチエイジングなりを非常に意識されていて情報を集める力のある方々が多いですね。どちらかというとこちらもあまり説明をせずに治療できるような。
前田:
事前に徹底的に調べて来るわけですね。
阿保:
はい。なのでそういう意味では非常に早く治療が進みます。我々の医療機関というのは、一般の開業クリニックが立ち上がるような形では全然なかったんですよね、HP情報しかない形で始めましたから。ですから、開業当初ある程度支えてくれたのは、奇しくも少数のクチコミと、あとはそのHPを見て、こちらが主力で出そうと思っていた医療行為を納得し、希望されてくる方々と。そういう二極化した患者さんの層が発生したんですね。
今では開業からもう7年も経っていますので、さすがに近隣の方々もいらっしゃってそこからクチコミが発生したりもしますが、今でもなおかつHPで情報を入手してこられる方が中心ですね。
校條:
その、Webで知って来られる方々というのは、最初のころと今とでは地域的に違いはありますか?
阿保:
最初のころは関東圏の方が中心でしたね。でもその後、広がってきています。やはりこちらとしてもある程度質を求められるような医療技術なり医療行為を提供しようということを模索してきましたから。
一方ではもちろん地域医療機関ですから、これも軽視できない。この2つは相反すると言いますか、なかなか共存しにくいベクトルなんです。地域医療にも目を向けつつ、他ではあまりできないような先端の治療を、質の確保をしながら続けるということは、なかなか共存が難しいところがありますが、開業当時からどちらも重要だという気持ちでやってきています。
前田:
“質” という言葉が今出てきましたが、ではたとえば私が今、D-ClinicのWebサイトを作ろうと考えたときに、医療に関して詳しくない人間がこの会話の中からその質を伝えるにはどうしたら良いんでしょうか?
北青山D-Clinic院長 阿保義久氏。「Webで調べられる状況の中で質感を提示 するには訴求力のあるメッセージが必要」
阿保:
開業当時に比べれば、訪れる患者さんたちはWeb上でもう非常に調べられて来ます。その中で質感を提示するには、ただ単に美辞麗句を飾り立てるだけでは全然話にならなくて、ある程度訴求力のあるメッセージが必要になると考えているんですよね。
印象としては、日本人は…という言い方はおかしいのかもしれませんけれども、いたずらに大げさな表現を使うよりも、シンプルでスマートに、ある程度詳しく情報を提示したほうが、効果があるような印象を受けます。これだけ書ききったら読まないんじゃないかというぐらいに。もちろん、十二分な心理に近い話、アブストラクトは必要だと思いますが、書ききったほうが、患者さんは信用して来てくださるような気がしますね。
校條:
従来の町のクリニックと違って、予防を重視されているアンチエイジングという横断的なテーマを扱っていらっしゃるとすると、患者さんと関わるプロセスというのがまだよく捉えられないのですが。たとえば、相談・検診・治療と三段階で区分したときにですね、相談あるいは対話という部分が、一般の治療以降からやっている先生よりはウェイトが大きいんじゃないかと思うんですが、それはいかがですか?
阿保:
そうですね、ちょっと時間はかかりますね。先ほどその相反するベクトルとしてお話したのは、地域医療として君臨するには、お腹が痛くなっただとか、そういう基本的な医療行為ももちろん提供するというスタンスも持っていないといけないんですが、一方で、その質という点で、深く話を聞き込んだり、医療をサービスと捉えるならば非常にサービスフルな対応をするという点では時間も取られます。実際の医療現場ではなかなか実現できないことを両立させるとなった場合に、確かに私個人でやるとしたら自己分裂してしまうということもありますし、物理的にも無理だったりする。
校條:
なるほど。1日に何人ぐらいの患者さんを診られますか…そもそも相談段階で患者さんと呼ぶのかはわからないですが(笑)
阿保:
そうですね(笑) 、50~60人ぐらいだと思いますね。
校條:
それだとやっぱり大変ですね。
阿保:
一番時間をとられるのはやはり手術ですね。かといって一般の保険診療の患者さん達には時間がかからないかというと、そんなことはなく。一応、予約診療で、ある程度電話の時点で、この症状なら大体これくらいの時間がかかるだろう、とふるいをかけてやっているわけですが。患者さんと話をしているうちに、実はこういう悩みもあって…と、どんどんと(笑) 。だからそのへんはなかなか計算できないですよね、そこは皆さんのご理解とご協力をいただかないと難しいところがあって。
さっきの話とも関係しますが、私も今こうしてWebを利用して、その医療の現場なり現実なりを皆さんに理解していただけるような環境になれば非常にありがたいなと思います。
校條:
なるほど。もう1つよろしいですか? 患者さんとのやりとりの中で、患部を診るというよりは人間を診る、あるいは生活を診るという視点が先生にはおありだと思うのですが、それをさっきの話のように、あっちとびこっちとびの話に付き合っていたらえらいことになる、そこを単純に切っちゃうのではなくて、ある種の方法論というか、ただ時間をかければ良いんじゃない、ポイントを押さえるんだ、というような何か秘訣があるんじゃないかと。
阿保:
ありがとうございます。秘訣と言ったら語弊があるかもしれないですが、要はできるだけ早いタイミングで患者さんと信頼関係が築けるかということだと思います。結果としては診療時間が数分間だったとしても、数分間診療などと言われない・感じさせないような環境を作る、というのは、テクニックといえばテクニックなのかもしれませんね。