昨日の前編に続き、今年2010年のソーシャルWebがどうなっていくのか、を考えていきます。
ソーシャルメディアの形成と広告
ネットとそこに次々と登場するコンテンツは昨年も話題となり、ネットのメディア力は年々大きなものとなっています。マスメディアの広告力は落ち、主戦場はネットに移行しています。そして、昨年はネットにおいても変革が起きた年だったと言えます。つまり、ポータルサイトからソーシャルサイトへ、という流れです。
多くのサービスの入り口となるポータルサイトのほとんどは、自分が興味を持っているコンテンツを中心に情報が表示されるようにカスタマイズできるようになっています。これは何を意味しているかというと、表示される広告を知らないうちにフィルタリングしていることになります。自分が興味のある広告が表示される機会が増えるため、もちろんCTRやCVRが向上します。
しかし、例えばSNSでは、扱われるコンテンツのほとんどに「誰が発信した情報か」という属性が付加された状態となります。ニュースという情報ソースだけでは属人性はゼロですが、それに対して言及した日記やコメントによって、ユーザが結びつきます。これにより、表示する広告を「コンテンツ」と「ユーザの興味」の2軸で選択できるようになります。そこには自分の興味と友達の興味の2種類が反映されるでしょう。これらの要因によって、SNS上での広告の価値はかなり向上したと言えます。結果として、昨年はSNSのメディア力が特に高く評価された年と言えるでしょう。
そして今年は、さらに新しい試みが行われると考えられます。キーワードは「さらなる属人化」と「リコメンド」です。
「どこに出すか」ではなく「誰に言ってもらうか」
今までの広告は「どこ(=どのページ)に出すか」という点が中心でした。よりユーザが訪れる場所、つまりPVとUUが高い場所こそが広告配置場所として良いとされ、実際に効果を出してきました。テレビで言えば視聴率の良い番組、Webで言えば人気が高いページ、ということになります。もちろんこれは今後も継続します。
しかし多くのユーザは、「Webページ」や「CM」というものよりも、「あの人が言うこと」の方をより気にします。昨年Twitterが多くのユーザの心を掴むことができたのは、この点をうまく突いたことによるものだと考えられます。ユーザは、気になる人のつぶやきを自由にFollowすることができます。昨年の後半は、特に芸能人を初めとしたいわゆる有名人がTwitterを使い始めたタイミングであり、もちろん多くのユーザがその人のつぶやきをFollowしています。年末には、鳩山首相がTwitterを始める予定であることが表明され、これでさらに多くの人々がTwitterを認知することになるはずです。
そして、例えば「家電芸人」といった有名人が昨年現れ、実際に家電量販店に行って商品の良さを解説する、といった光景をよく目にしたと思います。家電だけでなくても、書籍や飲食店など、特定の有名人が何か特定の分野で詳しいということが多くの人に認知されることで、結果として取り上げられた商品が売れる、という傾向が少なからずあったはずです。
広告効果という点で、今年はTwitterに代表されるマイクロブログが注目を集める年となるでしょう。つまり、マイクロブログで有名人に商品などについて言及してもらう広告主が増えます。その結果、計算された高いCTRやCVRとなり、さらに多くの広告主がこの市場に参加する、といった流れが起きるでしょう。最初はこの流れを広く認知させるために、芸能人などが起用されるでしょう。しかし、その後は特にマスメディアに露出される有名人ではなく、例えば「TwitterでのFollow人数が非常に多い人」が有名人として利用されるようになると考えられます。
マイクロブログは、昨年のソーシャルWebをメディア戦略としても技術面としても牽引するサービスでした。これが商業的に使われる年として、ソーシャルWebの成熟のためにも、今年は非常に重要です。
上記で紹介した流れが実現されるためには、多くの人々に対象の有名人をFollowしてもらうことが前提条件となります。今までテレビでは「企業のホームページのURL」から「検索キーワード」が視聴者に提示されてきましたが、今後は「この人のTwitterアカウントはこちら」という表示をよく目にすることになるかもしれません。
広告のリコメンド
SNSのバイラル性は、昨年ソーシャルアプリケーションの異常とも言える短期間でのユーザ数獲得によって、再確認されました。特に宣伝をしなくても、人の心を掴む要素を持つものであれば、急速に広まっていくことが実証されたことになります。その原動力は、「身近な○○さんが使っているなら、僕もやってみよう」という、まさにソーシャルというべき力です。
これはそのまま広告に関しても当てはまるはずです。「この製品とてもいいよ」と単にページ上で紹介されても、または知らない人から言われたとしても、興味はわかないでしょう。しかし、友達や知り合いから言われた場合は、その製品に対する印象はがらりと変わります。知らない人のレビューを見るよりも、知り合いのレビューを見る方が、その人の興味や知識といった前提となる情報を加味した上でレビューの評価をすることが可能となります。これは非常に重要です。
今年はソーシャルグラフを広告に対して如何に活用していくかを模索し、いくつかの回答を得ることができる年ではないかと予想できます。ユーザが興味のある広告を明示的に友達にリコメンドし、友達はそのユーザからのリコメンドと共に広告を目にすることになるでしょう。また、ユーザが広告をクリックあるいは購入に至ったことが友達に伝えられ、その友達の興味を引き購入につなげていく、といった試みも行われていくでしょう。
これらはソーシャルWebの中でも「ソーシャルアド」と呼ばれる分野となります。これは、すでにFacebookにて実験的に行われています。その際には、プライバシーの問題が発生して論議となりましたが、Facebook Pagesを中心としたソーシャルアドへの取り組みはうまく回り出しています。多くのSNSにおいて、Facebookでの施策を参考にしながら、ソーシャルWebでの広告の扱いが今年は数多く提案されるでしょう。
標準仕様の進化
昨年までのソーシャルWebに関する標準仕様は、主にソーシャルアプリケーションに関する仕様策定が中心でした。今年は、さらに多くの標準仕様の策定が進み、ソーシャルWebを強化するための土台が急速に整備されていく年となるでしょう。特に、アクティビティに関する仕様の策定が中心となると予想できます。
Open Stackのバージョンアップ
Web全体をソーシャルアプリケーションのためのプラットフォームとして機能させるために、一昨年にOpen Stackと呼ばれる仕様群が定義され、昨年は実際にそれらを適用した事例が現れました。Open Stackは、Open ID、XRDS-Simple、OAuth、Portable Contacts、OpenSocialの総称です。特に、OAuthとOpenSocialはよく話題になり、数多く耳にしたと思います。
今年は、個別に仕様のバージョンアップが行われ、さらに組み合わせた場合に適用しやすいように仕様の調整が行われます。これらは昨年も行われてきましたが、まだ模索段階であり、実サービスに適用されることはまれでした。例えば、すでにOpenID RPであるサービスがOAuthに対応したいと考えた場合は、OpenID OAuth Extensionがすでに策定されています。これの適用事例が登場するのも今年からでしょう。それは、OAuthへの本格的なサポートが今年から増えるという予測の元に考えられることです。OAuth自体も、OAuth WRAPという新しい仕様策定が始まっており、多くの環境にてOAuthが適用できるように各種プロファイルが規定されていくことになるでしょう。
また、OpenSocialは1.0の公開に向けて仕様策定が現在進んでいます。その内容の多くは、今まで不明確だった点の補正なのですが、やはり1.0という番号は特別な意味を持つことでしょう。またOpenSocialは、エンタープライズ領域においても適用され始めるのが今年と言えます。IBMやSalesforce、SAPなどによって、OpenSocialは新しいステージを迎えることになるでしょう。
さらに、Open Stackのほとんどは、PCを中心に考えられたものばかりです。携帯電話やスマートフォンなど、PCではないデバイスへの対応が進むのも今年であるということができるでしょう。
アクティビティに関する標準仕様の登場
ソーシャルアプリケーションやマイクロブログ、スマートフォンなどの登場によって、多種多様なアクティビティが生み出されるようになりました。SNSには、アグリゲーターとして、数多くの情報ソースからアクティビティが集められてきます。ユーザはSNSにログインするだけで、知り合いが何を考え、何をしているのか、集められたアクティビティを閲覧することで把握でき、常に新しい発見をし続けることができるようになりました。
しかし、残念ながら昨年までのアクティビティの収集は、かなり原始的なものであり、健全な状態とはとても言えないものでした。その理由として、以下があげられます。
- アクティビティの投稿に関して、OpenSocialのActivities APIを利用するか、RSSやAtom Feedをポーリングするしか手順がない
- アクティビティの取得に関して、OpenSocialのActivities APIくらいしか仕様が存在しない
- 収集されたアクティビティに対するアクションについて、今まで何も考慮がない
特に3つ目については致命的です。アグリゲーターとして機能したとしても、ユーザ間のコミュニケーションはそこで終わりではありません。アクティビティに対してコメントを付けたくなることもあるでしょう。その場合、アグリゲーター上でコメントが付いたとしても、それだけでは足りません。そのコメントが情報ソース側にも送られて欲しいと考えます。アクティビティやそれに対するコメントについて、投稿、取得、返信などが複数のサービス間で非同期に連携している環境が必要です。それはブログのトラックバックに似ていますが、アクティビティやコメントについては、その発信者というソーシャル性が重要となります。
これらを実現するために、Open Web Foundationにて以下の仕様策定が進んでいます。
これらはドラフト版として既に提案されている仕様となりますが、今年はこれらの仕様を実装したサービスが次々と登場し、アクティビティとコメントがリアルタイム(ポーリングによる定期的な情報交換ではないということ)に交換される環境が構築されることでしょう。
これらの仕様策定には、Facebook、Google、Microsoftという非常に興味深い企業が関わっています。これらの名前からもわかる通り、アクティビティに関する動きは非常にオープンで標準を意識したものとなっています。これらの標準仕様によって、ユーザ間のコミュニケーションがさらに促進されるようになることが見えています。今年は、これらの仕様を実証するための試みが非常に盛んに行われる年である、ということができるでしょう。
2010年のソーシャルWebは…
昨年の動向と今年の予測について、ソーシャルWebをキーワードに紹介してきました。ソーシャルというキーワードは、今年は非常に重要な意味を持ちます。匿名性が特徴だった初期のインターネットはやっと終わりとなり、情報の身元がソーシャルグラフにより明確になった健全で非常に安全なコミュニケーションの場に進化する年になるのではないかと期待しています。さらに、このソーシャル性によって、よりインターネットが皆さんの生活になくてはならないツールになると確信しています。
すでにSNSやソーシャルアプリケーション、Twitterといったマイクロブログという形で、皆さんはソーシャルWebを体感しています。これをベースにして、今年登場するソーシャルWebの動きをぜひウォッチし続けてみてください。きっと時代の証人となることができるはずです。