新春特別企画

2020年、IoT実践のための「エンジニアの鍛え方」

IoTの2019年を振り返ると、IoT実践の拡がりを感じた1年となりました。IoT活用は、製造業や社会インフラ、物流・小売業、さらには地域社会や農業・畜産・漁業などの1次産業にも拡がっています。さらに、コンシューマー製品、シェアリングエコノミーなどの新たな製品・サービスにも IoT の活用が拡がっています。

昨年はソラコムからは、松下が「IoTを変革の原動力に~その時、技術者が持つべき心構えとは」を寄稿し、⁠好奇心がスタート地点」という心構えは本年も変わりません。2020年の本記事では、実際に数々のお客様のIoTプロジェクトに参加し、IoTプロジェクト成功にむけて全方位で支援するソラコムのソリューションアーキテクト4名に聞いた「2020年のIoT実践にむけた鍛え方」をお届けします。

お話を伺った皆さん。左から、大瀧氏、横田氏、松本氏(今井氏はリモート参加のため写真なし)
お話を伺った皆さん。左から、大瀧氏、横田氏、松本氏(今井氏はリモート参加のため写真なし)

現実社会のデータを扱うIoTプロジェクトのおもしろさ

――「はじめてのIoTプロジェクト」について教えてください。はじめてモノと対峙した時はどう感じましたか?

大瀧:私の「はじめてのIoT」プロジェクトは、屋外での温度湿度のリアルタイム計測でした。私はクラウドの経験が長かったので、センサーなどの計測器で遠隔からリアルデータ取得できることがすごく楽しくて。一方で冬に気温が氷点下になり、使っていた通信ゲートウェイがあっさり壊れ、精密機器を現場に設置する難しさも味わいました。

今井:私はもともとHadoopやSparkを用いたビッグデータ解析が専門で以前はソーシャルゲームやインターネット広告のデータを解析していました。あるとき自動車メーカー向けのプロジェクトで、機械学習を用いた予兆検知を実現するため車載機器データを扱いました。その際、今まで扱っていたウェブのデータとは全く異なる現実社会のリアルデータを扱えることにおもしろさを感じました。

IoTをどう始める?専門性の鍛え方は?

――IoTはハードウェアが含まれるので、インフラやソフトウェアもエンジニアはハードルが高く感じるとも聞きます。どうIoTを始めたら良いでしょうか?

今井:ソラコムCEOの玉川は「IoTは総合格闘技だ!」と言っています。でも始めるときにそこまで構える必要はありません。ソフトウェアやクラウドのテクノロジーやアーキテクチャはIoTでも利用します。IoTでもコンテナを使うし、Apach Sparkも使う、Node.jsやPythonだって使います。共通点も多くあります。

大瀧:クラウドを学び始めたときは、オンプレミスでのこの技術はクラウドのこれ、と置き換えていけば学ぶことができました。IoTは少し違って、ひとつのことをより深く学び応用力をつけるというよりは、新しい分野の技術を学んで対応できる範囲を拡げていくという印象があります。

横田:ハードウェアメーカーにいるエンジニアにとってもIoTはチャンスです。ハードウェアメーカーにいると、ハードウェアについて深い知識を得ることができます。クラウドやソフトウェアはオープンな学習機会も多いので、自分でそれらを学ぶことで活躍の範囲を拡げることができます。

――IoTに関わるエンジニアとして専門性を磨くにはどのように鍛錬したら良いのでしょうか?

今井:ひとつ言えることは、成長するエンジニアが強いってことです。今知らなくても勉強してやってみる、新しい技術を吸収する、そういう技術的好奇心がすごく大事です。

松本:IoTプロジェクトって、今まで何気なく使っていた技術を深堀りすることが多いんですよね。私は最近「シリアル通信」を調べる機会がありました。IoTで出てくる技術要素は新しいものだけではありません。お客様への提案時は、こういった技術要素の裏側まで学んでいきます。

横田:学び方としては、アウトプットも大切です。BLOGに書くとか、勉強会でLTに参加するのも良いですね。

――IoTに関わるエンジニアの目指す理想像はどんなものでしょう?

今井:ソラコムでは「フルスケールエンジニア」という言葉を使っています。フルスタックみたいに業務に必要なレイヤーを縦にすべて把握するのではなく、デバイス・ネットワーク・クラウドなど横に専門分野を拡げるイメージです。

横田:ソラコムの行動原則のひとつに「カスタマーセントリック」という項目があります。私は「フルスケール」「カスタマーセントリック」はつながっている気がしています。

大瀧:そうそう、⁠やりたいことがあって、そこに必要な技術要素がある。目的達成のためであれば、役割の垣根を超えていく。」ことがフルスケールの真髄です。⁠フルスケールエンジニア」とはなるものではなく、そうありたいという気持ちと言いますか。

今井:いいね、気概。フルスケールエンジニアといっても、Layer1の物理層からLayer7のアプリケーション層まで詳しくなることは難しいし、ただ端から勉強していってもテンションもあがらないですよね。さっきの話のように、必要なことややりたいことがあって、それにあわせて自分の知識や経験を広げていくのが良いと思います。

大瀧:引き出しの数をいっぱい持っていることがIoTプロジェクトでは歓迎されますね。既存のITプロジェクトでも現場の業務知識を持つプロジェクトマネージャーが重宝されますが、IoTプロジェクトにおいても様々な分野・レイヤーの専門知識を持っているエンジニアが、技術的な課題をうまくまとめてくれたりします。

今井:一度成し遂げたいと思ったら、進んで技術的な熱狂に巻き込まれたい、そんなポジティブな気持ちを持った人がIoTを極められるのかな。

2015年開催のDeveloper NightのLT優勝者にプレゼントされたTシャツ
2015年開催のDeveloper NightのLT優勝者にプレゼントされたTシャツ

2020年、IoTプロジェクト成功の鍵は?

――IoTのベストプラクティスみたいなものはあるんでしょうか?

大瀧:当社のエバンジェリストは「PoCに時間をかけない」とよく言っています。時間とコストがかかると、次のアクションが取りづらくなってしまうことがあります。

松本:「クラウドを使うこと」です。IoTプロジェクトは仮説に基づいて挑戦することが多くあります。失敗するなら小さく・素早く、失敗したら軌道修正するという、試行錯誤を繰り返します。こういった進め方とクラウドは、テクニカル的にもビジネス的にも相性が良いです。

今井:「ハードウェアが得意な人とソフトウェアが得意な人がひとつのチームになり、うまく役割分担してサービスを作っていくこと」です。これまでは、ハードウェアとソフトウェアの仕事は大きく分断されていて、一緒に「サービスを作っていく」機会は多くありませんでした。ソフトウェアの世界では、PoCや開発をクイックに進めるノウハウが確立されてきていて、⁠いちから作らずに利用することができる」便利なサービスが存在します。それらをガンガン活かして作っていくやり方が主流になってきています。

――それをどのようにハードウェアにまで広げていくのでしょうか?

今井:「作らずに利用することができる」サービスとしてSORACOMプラットフォームの例を挙げると、SORACOM Beamはデバイス側から見たらソケットサーバー、クラウドから見たらHTTPSクライアントとしてデータを仲介してくれるインターフェイスと捉えることができます。まずはここを境界にハードウェアが得意な人とソフトウェアが得意な人でチームを作って、サービスを作り始めることができます。進めていく中で、お互いのノウハウやハマりどころがわかってきて、互いのちょうどよい協業のしかたが見えてきます。

横田:ハードウェア側から見た気づきもあります。SORACOM Harvestをインターフェイスとして利用してデバイスからソケット通信でバイナリを投げ込むと、SORACOM Lagoonでダッシュボードがわずか数十分で作成可能です。これはハードウェアの会社にとっては、魔法のようなスピードに見えます。同時にこれまでデバイス側に持たせていた役割やロジックの多くをクラウドにオフロードすることで、開発のスピードを上げられることに気づきます。互いの常識やしきたりを学びつつ、最新のやり方を取り入れて、役割分担を進化させることが成功の鍵だと思います。

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SORACOM BeamはIoT デバイスにかかる暗号化等の高負荷処理や接続先の設定を、SORACOMにオフロードできるサービス。SORACOM Harvestは、SORACOMの通信経由のデータをインフラ・ストレージの準備なくデータ蓄積するサービス。SORACOM Lagoonは、SORACOM Harvestで蓄積したデータをDrag&Dropでダッシュボード作成・共有するサービス。
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――2020年のIoTはどう変わっていきますか?

今井:ウェブ系のプラットフォームを提供している会社が、ハードウェアを使ったビジネスを提供するケースも耳にすることが増えています。ソラコムのお客様でもクックパッドさんやポケットチェンジさんはウェブ開発の強みを活かしてIoTを含むサービスを提供しています。ウェブ系の仕事をしているエンジニアは、転職しなくてもIoTに関われるチャンスが自然と増えると思います。

この流れは、IoTをめぐるビジネスを加速させる気がします。スタートアップやウェブ企業のようにアイディアと開発力があるチームにとっては製品やサービスを届ける「スピード」が、サービス開発に時間をかける大手企業のチームにとっては、アイディアを形にしより良いサービスに変えていく「スピード」といった形で、IoTという技術実装だけではなくビジネス全体でよりよい方法を考えるシーンが増えそうです。

2020年のIoTは「スピード」がキーワードです。

IoTの「より深い世界」を知りたい方は…

技術評論社の『IoTエンジニア養成読本』『IoTエンジニア養成読本 設計編』もソラコムで一部執筆しています。本記事でIoTにご関心お持ちいただけましたらぜひご覧ください。

IoTプラットフォームSORACOMは、法人も個人でもアカウントを作ればすぐに使うことができます。セルラー・LPWAの通信コネクティビティとIoTシステム構築をスピーディに実現する15のサービス、1台からプロトタイプデバイスを提供しています。詳しくはウェブサイト開発者サイトをご覧ください。さらにSORACOM学びたい方は2月開催の「SORACOM Technology Camp」にぜひご参加ください。

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