テストエンジニアのコミュニティ活動のススメ

第5回コミュニティ活動における人間力

前回までで、ツールの活用などインフラにあたる部分、またチームビルディングや自己成長など組織形成に関わる部分を紹介させていただきました。それらはコミュニティ活動を行う上では、ある意味必須な事項だと思います。今回は、それらに比べると必ずしも必要ではないかもしれませんが、活動を継続していく上で大事でにしなければいけない事をテーマとして扱います。そう、それはコミュニティ活動における人間力です。

優しさ3割増し

第1回でもご紹介したとおり、TestLink日本語化部会はテスト技術者交流会(TEF)の1つの部会として活動しています。TEFの中では、コミュニティ活動での人間力を語る上で象徴的な言葉が浸透しています。優しさ3割増し――これはTEFのお世話役である電気通信大学の西さんが、TEFのメーリングリストに投稿した言葉です。コミュニティでは、相手の顔が見えない文章での意見交換が主になるので、コミュニケーションロスも大きくなってしまう。だから、コミュニティ活動では現実世界の3割増しの優しさが必要であるということが訴えられています。つまり、コミュニティ活動における人間力を端的に表した言葉が、⁠優しさ3割増し」と言えるでしょう。※注

コミュニティ活動を支える3つのS

それでは、この「優しさ3割増し」を実現するためにはどのような工夫をすれば良いでしょうか。ここで、私たちTestLink日本語化部会が実践していることを、3つのSとして以下にまとめてみます。

【第1のS】スピード

大事な議論を素早く行う。どんな組織でも、活発に活動するためには円滑なコミュニケーションが大事です。特に、メールを中心としたオンラインでのコミュニケーションが主となるコミュニティ活動では、放っておくとコミュニケーションが途絶えてしまいがちです。そこで大切なのが「即レス⁠⁠、つまり迅速なレスポンスです。出来る限り素早く回答するように意識することで、コミュニケーションを継続していくことができます。

また、これは発言を促進します。返信をしてくれる人がいると、嬉しくなって発言しようという気になりますよね。Twitterなどの一言つぶやきチャットが流行った理由のひとつに、発言もレスポンスもお気軽にできることが挙げられています。

メールを読んだ直後が絶好の活動時間です。このタイミングを逃がさないようにしましょう。質問にはすぐ答えてしまう。お願い事はすぐ対応してしまう。問題点は改善案を出してみる。⁠あとで」と思ってしまうとなかなか時間が取れなくなってしまいます。100%の対応ができなくて後回しにしてしまうより、10%でも良いから即時に対応するほうが実はとても効果的だったりします。

スピードよくレスポンスするように配慮すること、それがオンラインのコミュニティ活動での人間力といえるでしょう。これが第1のSであるスピードです。

【第2のS】スマイル

TestLink日本語化部会のメーリングリストで流れるメールには「ありがとうございます」という言葉から始まるものが多いです。はじめは意識してそうすることもありましたが、今では自然にそうなっているようです。常に貢献者への感謝を忘れないこと。また、指摘してくれたことへの感謝も忘れないこと。それらが自然と感謝のスマイルメールとして表れてきているのではないでしょうか。

それとは反対に、いわゆる「逆切れ」をしたり、相手の揚げ足を取って自己防衛したりすると、コミュニケーションが止まってしまいます。特に、活動がオンライン中心の場合は、それが活動の継続自体を困難にしてしまうでしょう。

たとえ、相手の顔が見えないメールなどのコミュニケーションであっても笑顔を忘れない。それが3つのSのその2、スマイルです。

【第3のS】スマート

コミュニティには、所属やバックグラウンドが異なったさまざまな方々が参加します。それが多様なアイディアや有益な議論の元になります。逆を言うと、気をつけないとさまざまな意見が散乱してまとまりがつかなくなる可能性があります。また、こだわりの多い技術者同士が集まるコミュニティでは、思わず議論が白熱して収集がつかなくなってしまうこともあるでしょう。

そこで大事なのが意見のまとめ役です。気づいた人がまとめ役にまわり、意見の収束を促す。今まででた意見を選択肢としてまとめ、意思決定しやすいようにする。このような努力がコミュニティのチームで行動する時には欠かせません。

議論が白熱しても最後は冷静になってスマートにまとめる。これもコミュニティ活動での大事な人間力だと言えます。

同じSでも……

一方で、コミュニティでは命取りになるSもあります。それはサイレンス(沈黙)です。3つのSを心がけることも、発言や行動があってのことです。⁠他の人が先に答えてしまったから……」⁠難しくて自分にはできない……」など、発言や行動に出たくてもできないこともあると思いますが、それを気にすることより伝えることのほうが大事です。なぜなら、あなたが伝えなければ、コミュニティのメンバーはあなたがコミュニティに関わろうとしていることがわからないからです。すべての人が沈黙してしまったらコミュニティ活動は成り立ちませんし、反応がなければ主力となって動いている方のモチベーションも下がってしまいますから。

「××さんと同じ意見」⁠これは自分にはできないので託したい」そんなコメントでも、伝えることを忘れない。これもオンラインのコミュニティでは特に重要なことです。

活動する時間を作り出す工夫

ここで多少話題が変わるかもしれませんが、時間についての話をしたいと思います。何故ならば、コミュニティ活動での人間力を発揮するためには、活動する時間が必要だから。それでもさまざまな理由でコミュニティに関わる時間が作れないことは誰にでもあります。ただ、そのままでは活動が止まってしまうので、時間を作る工夫が必要になります。また、忙しいメンバーにもうまく参加してもらえるための配慮も必要です。

それではここで、部会のメンバーの工夫を見てみましょう。

吉村さんの場合
たとえば、通勤時間の有効活用があります。まぁ、いつもノートパソコンなどのガジェットを持ち歩いているからですが、電車で座れたらカチャカチャとやっています。カバンが重くなるのが欠点ではありますが、とても集中できます。
東さんの場合
人によりけりかもしれませんが、気になることをタイミングで切り替えて、並行ぽくやっていく方法もあります。飽きたらサーバいじって……また仕様書に戻ってなどといったように、切り替えていきます。これによって、それぞれの作業に飽きて効率が落ち、無駄な時間を過ごすといったことを防ぐことができます。
坂さんの場合
帰宅後に活動するとだらだら夜更かししてしまい、次の日寝不足になりがちです。そこで、先に寝て睡眠時間を確保してから早起きして作業をする日を設けます。すでに休んでいるので作業効率も良くなりますし、朝の出勤までの時間が決まっているため手際よくやろうという意識が持てます。

また、この辺りの話題に関しては、Life Hacksとして『Life Hacks PRESS』などの専門誌も登場していますので、ご参考にしてみてはいかがでしょうか。

まとめ

もちろん会社組織で仕事をする際にも、人間力の大切さが叫ばれています。しかしコミュニティ活動は、やりがいなど、お金に代えられないものに支えられています。これを大事に守りながら、コミュニティ活動を進めていく必要があると思います。そのためには、参加者全員で「優しさ3割増し」に象徴される人間力を高め合いながら、楽しく活動していくことが重要になってくるでしょう。

第5回の内容は以上となります。ツールやチームなど環境が整った上で、さらに活動を持続するためには、人間力が必要となります。それでは、どのようにしていけば良いかということを私たちなりに考えてみました。次回は今までのまとめとして「自分にあったコミュニティとは」ということについて考えていく予定です。

※注)
「優しさ3割増し」という言葉は『ソフトウェア・テストPRESS Vol.4』に掲載されています。引用を快諾していただいた電気通信大学西講師に感謝いたします。

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