はじめに
第2回では「[ステップ]転職準備編」と題して、テスト技術者として転職する上でそもそもテスト技術者としての転職機会があるのかどうかといったことや、どのようにして転職先を探せば良いのかについて解説しました。
今回は、「[ジャンプ]転職行動編」として、転職先を絞り応募から面接へと行動を進めるときに、どうすれば有利に事を運べるかお話しします。
求人内容を見極めよう
転職サイトで求人情報を検索したり、エージェントなどを使って応募したい企業がいくつか見つかったとしましょう。その段階で必要なことは、自分自身のスキルとマッチしているかどうかの見極めです。現状のスキルよりも低いポジションへ転職しようという方はあまりいないでしょうから、ほとんどの方は現状のスキルか、それよりも1段上のポジションを目指すことでしょう。
本記事でも、この点を意識してお話しを進めていければと思います。
では、実際にテスト技術者の職を探した場合、ITSSやETSSでのスキルの段階であるエントリ、ミドル、ハイ(前回記事を参照してください)ごとに、どのような職が実際にあるかを見てみましょう。
「エントリ以下」の求人
まずテスト「技術者」以前、つまりエントリに達しないスキルレベルの求人だと、以下のような募集文面になります。
エントリ以前
- 【募集職種】:
- ソフトウェアテスト担当者
- 【職務内容】:
大手メーカやメーカ関連企業での最先端の場所で、今注目を集めるデジタル関連製品のソフトウェアテスト業務です。
具体的には、あらかじめ用意されたテスト項目に基づいて、担当する製品の実機を使ったテストを実施していただきます。
- 【求められる経験・スキル】:
ソフトウェア開発やテストの経験をお持ちの方は優遇します。ただし経験が無くとも、弊社独自のトレーニングプログラミングと先輩の丁寧な指導により、即現場でご活躍いただける体制を整えていますので安心してください。やる気と情熱がある方の応募をお待ちしています。
見ておわかりのように、特にスキルは問われておらず、実際は「オペレータ」的な作業となります。エントリ以前ですから、本記事ではこのスキルレベルについてこれ以上言及しません。
エントリレベルの求人
次にエントリレベルを見てましょう。
ここからが、「技術者」としてのスキルレベルとなり、実際に開発経験が2~3年以上ある方が候補となります。
エントリレベルでは、テストの経験そのものよりは、ソフトウェア開発者としてのベーススキル、つまり技術者としての素養や、テストに向いているかどうかといった、テスト技術者としての素質の有無が問われます。ですからエントリレベルでは、多少スキルが未熟だったとしても(ただし全然ないというのは問題外ですが)「やる気」が旺盛なら、ポテンシャルで採用されることは十分ありえます。
ちなみに、筆者が考えているテスト技術者の素質は以下の4つです。
- 体力に自信があること
- 忍耐強いこと
- 素直だが、ひねくれてもいること
- 好奇心旺盛なこと
エントリ
- 【募集職種】:
- ソフトウェアテスト技術者
- 【職務内容】:
- テスト計画書に基づき、担当するテストアイテムに対するテスト設計仕様の設計からテスト実装、実施、評価といった一連のテストプロセスを実施していただきます。
- 【求められる経験・スキル】:
- ソフトウェアの開発経験または第三者検証の経験
- テスト設計スキル(テスト手法や、各種テスト技法の知識と経験)
- テストプロセスやテストのマネジメント技術
- テスト自動化ツールやテスト管理ツールの利用経験
- JSTQB認定テスト技術者資格があれば尚良い
応募する前に確認しておきたいことは、どのテストレベルを担当する技術が求められているのか? ということです。
たとえば、コンポーネントテストや統合テストのように、実装をしっかり理解しなくてはならないホワイトボックスの割合が多いテストを行うのであれば、その企業の開発現場で用いられているプログラミング言語や開発環境、テストツールの知識や経験が求められるでしょう。
システムテストが主である場合は、テスト対象の製品やサービスに対する基礎知識やブラックボックステストでのテスト設計のスキル、テスト自動化ツールの利用経験などが問われることでしょう。
ですから、上記のようなことを意識して、職務経歴をまとめなくてはなりません。また、履歴書の応募の動機欄や特記欄を使って、テスト技術者に就くやる気をアピールすることも大切です。
ミドルレベルの求人
次に、ミドルレベルを見ていきましょう。
ミドル
- 【募集職種】:
- ソフトウェア品質保証(SQA)担当者
- 【職務内容】:
ソフトウェアの品質保証を、開発プロセスの評価やレビューへの参画、システムレベルでの第三者評価を通じて担っていただきます。
製品を最終的に出荷判定するための、開発プロセス全体の流れを評価・検証するために、品質保証計画の立案から遂行までが役割となります。
- 【求められる経験・スキル】:
ソフトウェア開発経験(大規模ソフトウェア開発、組込みソフトウェア)で3年以上の経験と実績を持つ方で、次の経験やスキルがある方を歓迎します。
- ソフトウェアテスト手法(例:直交表やオールペアなどの統計的手法)の十分な知識
- ソフトウェアテストの設計や実施経験
- テストや品質保証計画書の策定およびマネジメント経験
- プロセス改善(CMMIやSPICE)やテストプロセス改善(TMMやTPI)の経験
- ファシリテーションやコーチングスキル
- 資格:JSTQBや情報処理試験等の資格があることが望ましい
この例だと、SQA(Software Quality Assurance)の担当者ですから出荷判定を行うという責任ある立場になります。また、製品の品質だけではなく、プロセスの品質を見る立場でもありますから、しっかりとしたソフトウェア工学のベースの上に、開発現場での十分な経験と実績が求められます。
そしてミドルレベル以上になれば、チームマネジメントや組織間(時にはお客様)との交渉事を日常的にこなさなくてはなりませんから、マネジメントスキルをはじめとしたプロフェッショナルスキルが求められます。エントリレベルではポテンシャル採用もありえると書きましたが、ミドルレベル以上は「できるか/できないか」で求人側は見ていますので、「やる気」だけではどうにもならないのが現実です。
ちなみにETSSでのQAスペシャリストの位置づけは、ミドル以上となっています。これは「スペシャリスト」職なのだからエントリというものはないという考えだからです。スペシャリスト以外でのエントリやミドルレベルでの経験と実績があってはじめて、SEPG(Software Engineering Process Group)やQAのスペシャリストになれるのだと理解してください。
このように、多くのことがミドルレベルでは要求されますが、だからといって求められる経験やスキルすべてを持ってなければならないというわけではありません。求められているスキルや経験の中には、応募しようという方にとって得意・不得意があるでしょうから、しっかりと得意なポイントをアピールできる応募書類にすることを目指しましょう。
ミドル~ハイレベルの求人
ミドル以上のレベルだと、開発の現場以外にも調査・研究部門やコンサルテーション分野での募集がありますから、そういった例を挙げてみましょう。
ミドル~ハイ
- 【募集職種】:
- ソフトウェアテストに関する調査や研究、コンサルテーション
- 【職務内容】:
全社に対するソフトウェアテスト手法や技法の普及、テストプロセス改善を通したソフトウェア品質と開発効率向上のための施策立案から展開までを担っていただきます。
また、重要プロジェクトに対するテスト全般のコンサルテーションを行うこともあります。
- 【求められる経験・スキル】:
- ソフトウェア開発技術者として5年以上の経験と、3年以上のテスト全般の経験
- 設計、実装フェーズやプロジェクトマネジメントなど、テストフェーズ以外での経験
- テストプロセスの構築や、テストプロセス改善で主導的な役割を担ったり、テスト技法やツールに関する指導経験
- 開発プロセスを持つ組織にて、10名規模以上のプロジェクトマネジメント、開発プロセス改善やテストプロセス改善の経験
※ CMMIやPMBOK、TMMやTPI等の知識や経験
- ソフトウェア工学やソフトウェア品質全般の知識や実践
※ SWEBOKやSQuBOKの知識
- 語学:TOEIC600点以上が目安(英語での文献調査や海外での技術調査があるため)
- 資格:JSTQBや情報処理試験等の資格があることが望ましい
この例からも、幅広い知識と経験が求められることがわかるでしょう。どういった実務経験を積んだのか、「実際に会って話を聞いてみたい」と思わせることが、書類選考通過のポイントになってきます。
転職フェーズ別の注意点
筆者の場合、応募書類を元に書類選考をしている時点では、募集要件と関係ないところは、はっきりいってあまり見ません。逆に募集要件と関係ない経歴がだらだらと書いていると、時には「いらいら」します。「いらいら」した結果は言わずもがなでしょう。
経歴を書くことはもちろん必須なのですが、知りたいのはやはり「要件を満たしているかどうか」です。テスト技術者を募集する側の気持ちになって書類をまとめることを、テスト技術者としての転職を行う方はぜひ心がけてください。
ここまでの話は、実は面接でのポイントにも通じています。募集している企業が求めている人材像に、応募者がマッチしていると思わせることが大切だからです。
応募書類の上では、実際にアピールしたいことの10分の1も、スペース(字数)の制約で書けないはずですが、面接では十分にアピールすることができます。ですから、面接ではとくに言っておきたい経験やスキルを明確に絞って説明することで、その職種に自分が相応しいと理解してもらうことが重要なのです。
それとは逆に、生真面目に要件とは関係ない経歴も含めて長々と説明してしまうと、せっかくのアピールできる機会を自ら失ってしまうことになりかねません。面接前は提出した応募書類をしっかり頭に叩き込んだ上で、何を強調して説明するかという戦略を練るようにするとよいでしょう。
また面接する側はテスト技術者の素質として、ロジカルシンキングができるかどうかといった点もきっと見ているはずです。ですから面接の場では、ロジカルな説明ができていないと、テスト技術者としては向いていないと判断されますから、説明の道筋もあらかじめ整理しておくことをお勧めします。
今回は応募から面接までのポイントを説明しましたが、参考にになったでしょうか。
この連載は今回までとなりますが、この記事がテスト技術者としての未来を開くことに少しでも役に立つようなら、筆者としてはこれほどの喜びはありません。