―SNS上ではさまざまな反響が寄せられている『インスタグラム 商品写真の撮り方ガイド』。6月8日に出版されてから少し日が経ちましたが、現物を手にしてみて改めて感想はいかがですか?
6151 思っていたよりも反響が大きくて、それに浮かれて、ここまでの道のりが大変だったことは忘れました。インスタグラムで「買ったよー!」と、私のアカウントをタグ付けしてストーリーや投稿にアップしてくれて、しかもすべて「ためになった」「こんなにネタバラシして大丈夫なの?」など、肯定的な内容で上げてくれるんです。本当に嬉しいですね。
6151(ロクイチゴイチ)
インスタグラムをきっかけにフリーランスに転身したフォトグラファー。風景からブツ撮りまで幅広く手掛け、国内外で企業とのタイアップ撮影や雑誌やウェブで執筆活動をする傍ら、全国でフォトワークショップを開催するなど「写真の楽しさ」を広く伝える活動にも取り組む。
中野 私も同じで、「ためになる」とよく言われます。実家の父も褒めてくれました(笑)。写真のテクニックを言語化したことを評価してくれる声が多いですね。
中野晴代(なかのはるよ)
グラフィックデザイナー兼フォトグラファー。インスタグラムで6.6万フォロワーを持ち、フードやインテリアの写真を発信している。中学1年生と小学4年生の男児を持つ2児の母。著書に『TABLE DIARY- 今日、なに食べる?』(ワニブックス)、『お菓子と花の素材集 Sweets & Flowers』(翔泳社)がある。
もろんのん 「再現性がある。ちゃんと順序立てて言語化されているので、誰でもチャレンジできそう」という声は多いです。「神本」って言ってくださる方もいました……!
もろんのん
1993年、埼玉県川越市生まれ。明るくポップな可愛らしい世界観を切り取るトラベルフォトライター。インスタグラムで約8万フォロワー。写真が売買できるアプリ「スナップマート」のクリエイティブディレクター。SNSや写真の活用や楽しさを、全国を巡って企業や生活者に伝える。
6151 私たちが「この人センスいいな、すごいなー」と思う人がこの本を褒めてくれてたりして、それがまた嬉しいんですよ。
中野 ファッションデザイナーの方だったり、モデルの方だったり、トレンドに敏感な方たちが反応してくれて、しかも「いい!」って言ってくれているんです。そういう人たちは自分の目線ではなく、世の中に何が受け入れられるかという視点で見ているので、目が肥えているというか。その方々が褒めてくれるのはやっぱり嬉しいです。
6151 正直、そこから反応があるとは思わなかったんですよ。まさかこんな風になるとは。あと、否定的な意見もないんですよね。
もろんのん やっぱりまだまだ「インスタグラマー」というと軽視されたり受け入れてもらえなかったりすることもあるので、それがないのはありがたいです。もちろんこれまでの広告写真が悪いわけではなくて、そういった写真が必要になることも多いと思います。商品のディテールを確認したい時には、白バックでストロボを炊いて、質感がはっきりわかる写真が必要です。目的によって、私たちが撮影してこの本で紹介しているような写真とうまく使い分けるのが理想なんですよね。
中野 これまでの広告写真とは違う撮り方がコンセプトの本ですし、実際にその違いを書いているので、もしかしたら従来の撮影をしているカメラマンにとっては面白くない本かもしれません。でもこの本はそれを否定しているわけではなくて、あくまで「違った」撮り方を提案して、インスタグラムでは自然光を使った写真の方が受け入れられやすいということなんですよね。
例えば食べ物を撮る時は、青などの寒色系の色は食欲を削ぐとして、背景に使うことはタブー視されていました。でも私は水色が好きだし、合わせてみるとスタイリッシュになって見た人に受け入れてもらえたんです。それが少しずつ積み重なって、その集大成がこの本なのかなと思います。
ただ紙面にうまくまとめてくれたのは編集の方なので、それはみんなで作れた良さだったかなと思います。今までの撮影では私もなんとなく撮っていることが多くて、それを書籍にするのはあまりイメージが湧かなかったんですけど、取材をしてもらっていろいろ引き出してもらえたおかげで、自分で自分の写真を振り返ることができました。整理ができたというか、自分の癖がわかったというか。
6151 それは私もすごくわかります! 聞かれて、言われて、改めて読んでみて、「そうだったんだ」と自分で思います。おかげで「どうやって撮っているの?」と聞かれた時に、自分の写真を説明できるようになりました。今までは感覚のままに撮っていたけど、思考が整理されたおかげで自信を持って納品したり発表したりできるようになったので、自分がバージョンアップした感覚すらあります。読者の方にもその感覚を味わってもらえると嬉しいです。
―自分の思考や撮影の癖が見えてくると、これからそれ以外の撮影も試したくなるのでは?
6151 今までの撮り方がわかったので、次のステップアップが必要だなと強く思いました。
中野 私も同じです。特にもろんのんさんの写真を見て、「私もモデルさんを入れて商品を撮りたいな」と思いました。
6151 この本の素晴らしいところは、3人の著者がいるところだと思います。自分の写真以外にも引っかかりがたくさんあって、いろんな撮り方や考え方が載っていますし、それを見て私も「そうなんだ!」と思うページがたくさんありました。そういう意味で、もろんのんさんは私とも中野さんとも違うテイストの写真を撮っているので、すごく勉強になりました。
中野 私は6151さんのライトルームの操作手順がとても気になったので、プリセットをすぐに調べました! そういう風になぞって真似できる作りになっているのが、この本のすごさのひとつかなと。
―「特にここを読んでほしい!」という部分はありますか?
中野 全部読んでほしい! けど、あえて選ぶとしたらやっぱり1章かなぁ。
6151 決して新しい発想ではないと思うんですけど、1章の内容が一番磨かれてるかなぁ。特に中野さんのパート「主題と副題のコツ①色」で「色は3色以内に抑える」という記述があり、これは私も同じように意識していたので「よし!」と思いました。ただその後の「3色以上になる時は囲む」のは「なんだと!?」と思いました(笑)。そしてよく読んで「なるほど」と。
もろんのん 私は4章、6151さんが撮影したパソコンの写真です。バリエーション写真で「形や向きを揃える」とあったのが意外でした。私がテーブルフォトを撮る時は、主題も副題もバラバラに置いて撮ることがベースだと思っていたので、きちっと並べる置き方もあるというのは発見でした。
6151 自分だけではなくて、3人の思考が合わさって作られたので、より確立された本になったと思います。
中野 1章の部分でいうと、私はパッケージデザインを見て撮るか撮らないかを決めてしまう方だったので、お2人の部分を読むと「私、上っ面だけだったな……」と反省しました(笑)。もっとちゃんとブランドの歴史や使う人の背景を考えようと思いました。
6151 私は逆に中野さんの「デザインの魅力から入る」ことはとても共感しましたよ! やっぱり見た目が良くないと、きれいに撮れないので。
中野 正直、見た目でテンションが上がらないと撮影する気になれないんですよね。
6151 わかる!笑 一番最初の感情なので、それは大事なんですよ。
―編集の立場からすると、中野さんの「見た目から入る」という言葉があったおかげで、1章のSTEP1を「機能的な魅力」と「デザイン的な魅力」に分けることができました。この書籍で最初のマインドセットをする上で、かなり重要な言葉でした。
6151 中野さんももろんのんさんも同じですけど、私は他の2人のパートを見ていて答え合わせをしているというか、「間違ってなかったんだな」と答え合わせをしているような気分でした。プラス、自分に足りないものを2人が補ってくれているので、足りなかったパズルのピースをお互いに埋めあっているような感覚ですね。この本を読んでいると、自分に何が足りなかったのかを教えられている気になります。
中野 本当にその通りで、1人じゃないのがこの本の強みです。それぞれのノウハウがバランスよく盛り込まれていると思います。それに3人だからこそ、私たちも自信を持って人に勧めたくなるんですよね。いろんなことをかなりざっくばらんに話したんですけど、本の流れとして自然になるようにまとまっていると思います。取材も緊張せずにできましたし、自分で原稿を書くのではなく、聞いてもらったことで引き出された面もあります。
6151 取材で質問されても、開口一番「わかんないー……」がけっこうありました(笑)。
ー取材音声を聴き直すと面白いですよ(笑)。
中野 でもほんとにわかってないんですよ! 感覚的な部分が大きくて、省いたり追加したりするのも「見た目でなんとなく」なんです。実際に商品を置いて、ファインダーで覗いてみないとわからない。
撮影時の精神状態も影響するんですよね。もっと言えば、撮影する商品やまわりに置く小物のセレクト、実際の撮影、撮影後のレタッチまで、最初から最後までの工程を考えるとけっこう時間がかかっていて、小物をセレクトした時とレタッチする時とでは気持ちが違うこともあります。撮影した写真を翌日に見ると「あんまりよくないな……?」と思うことはけっこうあります。
写真全般で同じかもしれませんが、撮影する時にはモチベーションがとても大事です。パッケージが可愛くてセレクトした場合はその時点で楽しい気分になっているからいいんですけど、そうではない場合もあるんですよね。
6151 だから私は撮影とレタッチは同じ日にやらないようにしています。客観的に見えるように心を整えてからレタッチに入ります。
中野 忙しい中で焦ってレタッチすると、余裕がある時とは違った仕上がりになるんですよね。リラックスしてちゃんとできる時にやりたい。もちろん基本的には写真が好きで撮るのが楽しいからこういう仕事をしているんですけど、どうしても苦しい時ややりたくない時、他にもやらなければいけないことがたくさんある時など、どうしても気分が乗らない時はありますよね。
6151 そういう時にブランドの歴史を遡って、どんな人がこの商品を愛しているのか、このブランドは消費者にどういう気持ちになってほしいのか。そういったことを考えると、どんな風に撮るか方向性が決まることがあります。そういった背景を知ることで、物語を想像したり、商品自体を愛せるようになるんです。テンションが上がらない時にどうするかはかなり考えますね。
もろんのん 私は副題を多くしたり、背景をオシャレにしたりして、雰囲気を作ります。やっぱり商品によっては、スーパーで並んでいる時にインパクトを残せるデザインに仕上げているものもあって、そういう強烈なデザインは写真には不向きだったりするので。でもメーカーさんがそのデザインにしているのは理由があるので、それは尊重する必要があると思います。
―この本を作っている中でも苦しみがあったのでは?
もろんのん 取材は本当に苦しかったです(笑)。感性で撮ることが多いので「何を意識しているんですか?」と聞かれると本当に答えが詰まるというか……。
中野 私も!
6151 みんな同じ!笑
もろんのん 話をしている時は「これは後付けの説明かもしれないな」と不安に思っていました。構図の形や名前は知っているけど、「今日は日の丸構図で撮ってみよう」とは意識していなくて、被写体やその場の状況を見て感覚的に構図を整えた結果、日の丸構図になっている、ということが多いんです。紙面になってからも「これでいいのかな……」と思っていましたね。
6151 表現として言い切らなければいけない不安もありました。「これ正解なのか?」って。自分が「ブツ撮りはこう撮りましょう」と言い切ることで、ほかの手段を否定することになっていないか、という不安です。私はセミナーで参加者の方に「6151さんのおっしゃることではなく、私はこう思うんですけど、それはどう思いますか?」って聞かれたことがあって。サイド光でも逆光でも決して間違いではないし、自分の好きな方を選べばいいんですけど、自分の方法を言い切ることでそれを受けた人が「間違ってるのかな」と思ってしまうことがあるんですよね。
中野 私も「商品写真はサイド光で」と言い切りましたけど、逆光で撮るのが好きな人も多いです。実際にもろんのんさんは「逆光で撮る」と言っていましたし。「3色以内に抑える」って書いたけど、知り合いのインスタグラムを見るととてもカラフルな仕上がりになっていたり(笑)。結局好みの問題なので、正解というより自分が好きなことの紹介ですよね。
もろんのん 私もスナップマートのセミナーでは毎回「これでいいのかな」と不安になるんですけど、「もろんのんさんの撮り方を知りたいから参加してるので、自信を持ってほしいです」と言われて楽になりました。それからはそれぞれのスタンスで楽しんでもらって、参考になる部分は取り入れてもらえれば、くらいの心持ちです。
―編集としては、やはり表紙作成の悲喜こもごもは触れないわけにはいかないのですが……。
6151 激論でしたね(笑)
―まずみなさんに見せる前に、デザイナーと私の間だけで作った案がありました。ただ中身の方向性も決まってないまま作ってクオリティが低すぎたので、さすがにボツにしました。その後、初稿がある程度できた段階で版元も交えて作り直し、みなさんにお見せした案がこちらです。
中野 ちょっとね……(苦笑?)。
―「この中のどれがいいですか?」と問いかけたつもりだったのに、みなさんから返ってきた反応は「どれもシェアしたくならない」でした(苦笑?)。
もろんのん 最初に見た時は正直、「この本を私たちが作りました」って言いたくないなと思ってしまいました……(苦笑)。
6151 私は意外とブルートーンの表紙とか好きだったんですけどね。
―それを受けて再度作り直したのがこちらです。ここからだいぶ雰囲気が変わってきましたね。
もろんのん でもそうなると、今度は写真のセレクトと並びが気になってきちゃったんですよね。
6151 編集さんは「このままでいきたい」とおっしゃったんですけど、私はこの右上の写真、「どんだけオシャレに撮ったとしても餅やぞ! それでええんか??」って思ってました(笑)。
―表紙はどうしても出版社の担当の方、営業の方など、多くの意見が飛び交います。写真を「このままでいきたい」と言ったのも、暖色系の写真の方が書店で手に取ってもらえる確率が高いからでした。とはいえSNSで受け入れられるかどうかという感覚はみなさんの方が圧倒的に優れていますし、それはインスタグラムのフォロワー数が物語っています。その集約と落とし所を見つけるのは大変でしたね……。
中野 最終的にはそれぞれが希望の写真をいくつか出して組み合わせてもらい、「どの案になってもいい」というところまで追い込んで、6151さんのツイッターでアンケートを実施しました。
6151 この案はそれぞれ売りや特徴が違って良かったですよね。本当にどれになってもいいなと思ってました。アンケートを実施した時も、投票してくれた人が「私はこんな理由でこの表紙がいいです」と言ってくれて、その意見もまた肯定的で。「そんな見方もあるんだなー」と思いました。
もろんのん そして最後はこの表紙に決まりました。
6151 紆余曲折ありましたけど、最終的にみんなが納得できたし、アンケートを実施したことで読者の参加意識も高められたと思うので、結果オーライですよね。
―何よりよかったのは、「これは良くないと思う。この方がいい」と遠慮なく言える関係と空気感があったことです。表紙は売り上げに直結するので出版社の意向が強く反映されることが多く、著者の意見は置いてけぼりになることも少なくありません。逆に、著者がすべてを編集任せにしてしまうこともあります。楽といえば楽ですけど、やっぱりみんなが意見を言い合った方がいいものになると思いますし、それを受け入れてくれた出版社側の柔軟な対応も感謝したいです。それが発売約10日での重版につながったのかなと。僕自身、こういう空気で制作できたのは久しぶりだったので楽しかったです。
―この本を作って、これから先の撮影も変わってきそうですか?
中野 最近はそもそも日用品にオシャレなデザインのものが増えたんですよね。
6151 そういうデザインの商品を見ると中身確認しないで買うこともあります(笑)。もはや職業病。
もろんのん 何か買い物をする時に「このデザイン、写真に撮ったらかわいいかも!」って常に思っちゃいますよね(笑)。
中野 最近はスマホのカメラも進化して、写真を撮る人が増えたおかげで、メーカーも「商品に撮られること」を意識したデザインになってきた気がします。特にここ1、2年でその変化は感じます。
6151 「インスタ映え」という言葉は揶揄のように使われる場面も多いですけど、でもインスタグラムが一般の人に写真を身近なものに感じさせたのは間違いないと思います。私はインスタグラムが流行する前からアカウントを持っていましたが、最初の頃はカメラを持って構えているだけで訝しがられてましたから。
もろんのん 当時、カメラを持っている女子は「サブカル女」って叩かれるような時代でしたしね。
中野 私も前はカフェでこそこそ撮ってました!笑
6151 でもインスタグラムが浸透して、写真を撮ることが自然になっていって、私たちもそんなに身構えずにシャッターを切ることができるようになりました。
中野 ただ、オシャレなものが増えてカメラで撮ることが普通になってくると、撮り方もマニュアル化されて誰でもオシャレに撮れるようになりますし、実際にそうなってきていると思います。そこから自分らしさを出すのはまた難しくなってきますよね。喜ばしいことであるのは大前提なんですけど、そこから何か特徴を出すのは難しくなるかもしれないです。
6151 そこでこの本が役に立ってくれれば嬉しいし、私たちはそれに負けないようにまたアップデートしていかないといけないなと思います。きっとまた別の苦しみがあるんだろうなぁと思いながら(笑)。
―本日は、ためになることや、楽しいお話など、ありがとうございました。
本番の商品写真を6151さんが撮影&作成してくれました!