新年あけましておめでとうございます。
本年も新春特別企画をお届けすることができ、大変喜ばしく思っております。
昨年はLibreOffice(以下LibO) 、Apache OpenOffice(以下AOO)ともに一言でまとめると組織固めの年でした。一昨年と比較してダイナミックな動きは少なくなっているものの、両者が確実に進歩していることを実感することができました。
また、本年はMicrosof Office 2013のリリースが3月までに予定されているばかりか、LibO/AOOともに4.0というメジャーバージョンアップを迎えることになっており、とてもエキサイティングな1年になりそうです。
なお、事前に昨年の新春特別企画 をお読みいただけると、より理解が深まるはずです。
2012年のLibreOffice
リリース
昨年のLibOのリリースを表にまとめます。あくまでリリース版だけであり、ベータ版やRelease Candidate(リリース候補版)は除いています。
リリース日 バージョン
1月16日 3.4.5
2月14日 3.5.0
3月15日 3.5.1
3月22日 3.4.6
4月5日 3.5.2
5月2日 3.5.3
5月30日 3.5.4
7月11日 3.5.5
8月8日 3.6.0
8月15日 3.5.6
8月29日 3.6.1
10月4日 3.6.2
10月18日 3.5.7
11月1日 3.6.3
12月5日 3.6.4
今となっては3.4系列も3.5系列も新バージョンのリリース予定はなく、LibOの進歩の早さと安定したリリースに驚くばかりです。
The Document Foundationが財団に
LibreOfficeの母体であるThe Document Foundation(以下TDL)が2月17日に、名実ともにFoundation(財団法人)となりました 。これがLibreOfficeの組織固めの意味するところです。
ライセンスの変更とAOOの機能の取り込み
5月末頃までに、LibOにパッチを提供した人全員にGNU Lesser General Public License 3.0(LGPLv3)とMozilla Public License(MPL)のデュアルライセンスを明言するよう徹底されました。その後6月6日から断続的にソースコードのヘッダーをApache License 2.0(AL2)に書き換える 作業が行われています。もちろん行われたのは一部のソースコードに対してです。AOOと同じソースコードであれば書き換えて問題ありませんし、LibOのライセンスであるLGPLv3とAL2は矛盾もしないので、その意味でも問題ありません。ではLibO向けにパッチを提出した人はどうなるかというと、MPLの条項3.7 に「拡大開発」というのがあり、これはMPLで提出されたパッチはそれと矛盾しないライセンス(AL2も含まれる)に同梱して配布してもかまわない、と読み取れます[1] 。
確かにAL2になるとAOOのソースコードが取り込めるようになるため、LibOにも多大なメリットがあります。そして11月6日、AOO 3.4の新機能 が取り込まれました。AOOのブログ でも紹介されています。
AOOの機能を取り込み、独自の機能を実装するのがLibOの魅力の一つになるのかもしれません。
公的機関の資金提供によるOOXMLのサポート強化
一昨年の12月のことですが、ドイツのOpen Source Business Allience(OSBA)という団体のOffice Interoperabilityワーキンググループ が、フリーのオフィススイート(具体的にはLibOとAOO)にあるOOXMLの相互運用性に関する問題5点を仕様書(Specification)としてまとめました(英語のPDF ) 。これにドイツのフライブルグやミュンヘンなどEUの自治体や公的機関などが14万ユーロの資金提供を行い、SUSEとLanedo[2] が実装を行いました。9月末で作業が完了し、LibO 4.0には取り込まれています。
仕様書を読むとライセンスはAL2にすることが明言されているため、AOOでも取り込めるはずですが、確認した限りでは今のところ取り込まれた形跡はありませんでした。
これは「困っているところがお金を出して必要な機能を開発してもらい、それを公開する」という点でオープンソースソフトウェアの開発モデルとしては理想的といえます。The Hの紹介記事 とApacheConで行われたプレゼンの資料 を提示しておきますので、興味のある方はご覧ください。
LibreOfficeカンファレンス
「LibreOffice Conference 2012 Berlin」が2012年10月17日から10月19日まで行われました。参加レポート がありますので、ご一読ください。はがきサイズのサポートや翻訳など、日本のコミュニティに関する発表もあります。
2012年のApache OpenOffice
AOO 3.4.0/3.4.1
当初の予定からは遅れましたが[3] 、5月8日にAOO 3.4.0 が、8月23日に3.4.1 がリリースされました。その後古いOOoへのアップデート通知が行われるようになり、多数の人が乗り換えたと思われます。翻訳については3.4.1で行われ 、ユーザーインタフェース、ヘルプともに翻訳率100%となっています[4] 。
Incubator Projectを卒業し、Top Level Project(TLP)へ
プロジェクト自体もIncubator Projectを卒業し、Top Level Projectとなりました 。ユーザーにとってはWebサイトのURLが変更し、メーリングリストのメールアドレスが変更になるくらいで大きな違いはないとのことですが、これでアプリケーションの名前もApache OpenOfficeになったのは大きな進歩でしょう[5] 。
[5] 筆者はApacheのプロジェクトに関して明るくないのでよくわかりませんが、どうもプロジェクトもプロダクトも正式名称は『Apache OpenOffice (Incubating)』だったようです。
インフラの移設
Oracleからのインフラの移設は一昨年中にはほぼ終わっていましたが、いよいよ3月にはOracleが運用していたサーバーがすべてシャットダウンされました。具体的には、これまでopenoffice.orgドメインのメール転送サービスがあったのですが[6] 、これが使えなくなりました 。ほかには、プロダクト と拡張機能 とテンプレート に関してはSourceForgeがホスティングすることになりました。これはApache Software Fondation(ASF)には大規模にバイナリを配布するサーバーがないこと、拡張機能とテンプレートに関してはライセンスがまちまちでASFでは配布できないことが理由だと思われます。
Lotus SymphonyとAOO
IBMは1月18日にLotus Symphony 3.0.1をリリースしました。ほぼ同じタイミングでSymphonyの「フォーク」をやめ、Apache OpenOfficeに注力すること[7] 、Apache OpenOffice 4.0をリリース後、いくつかの付加価値をつけた“ Apache OpenOffice 4.0 the IBM Edition” をリリースすることなどを発表しました 。ほぼ1年前の出来事ですが、基本的には今もIBMはこの線で動いているように見えます。そして5月21日にLotus SymphonyのOOo関連のソースコードが公開 されました。Ubuntu Weekly Recipeの第224回 で紹介したので、ご存じの方も多いかもしれません。
もともとはAOO 3.5というLotus Symphonyの機能を取り入れつつもユーザーインタフェースの大幅な変更を伴わないバージョンをリリースしてからサイドバーを取り込んだ4.0をリリースするという話もありましたが、現在は4.0に向けて開発中です[8] 。
IVSサポート
5月4日に最初のIVS(Ideographic Variation Sequences)サポート が入りました。詳しくは鎌滝さんの日記 をご覧ください。その後特に進歩はないようですが、偉大な一歩だと思います。
メンターのインタビュー
TLPになった今となっては旧聞に属する話ですが、Ross Gardlerさんへのインタビュー は必読です。ASFは何をするのか(むしろ何をしないのか)かがよくわかります。
LibO vs AOO ラウンド1
というわけで昨年はAOOもリリースされたわけですが、プロジェクト云々はさておき[9] オープンソースのオフィススイートとしては対立しているわけで、わかりやすく数字が出ている昨年1年間のダウンロード数で比較してみましょう。
とはいえ、AOOはほぼSourceForgeのインフラからのダウンロードがすべてで、ダウンロード数の把握が正確にできますが、LibOはそうではないのでそもそも不利です。もちろんLinuxディストリビューションに含まれている分は数にありません。LibOは古いバージョン(3.3や3.4)を使い続けている人が多いということも考えられます。それに、直接利益に結びつくわけではないのでダウンロード数が多くても特にメリットはありません。いくらダウンロードする人が多くても、プロジェクトに参加する人が少なければプロダクトはよくなりません。それよりもプロジェクトに参加する人(直接的にはコードをコミットする人)が多い方が優れたプロジェクトであるという見方もできるわけです。
さらに前述のとおり古いOOoではアップデート通知が表示されているため、ユーザーベースや知名度を考えるとこれだけでもかなり有利です。
……と、ここまで予防線を張ったのは、ダウンロード数という数字では次のとおり圧倒的な大差がついたからです。
LibO:1,500万ダウンロード
AOO:3,000万ダウンロード
数字の根拠は、LibOはブログに掲載されたグラフ 、AOOはメーリングリストへの投稿 です。
LibOは15バージョン、AOOは2バージョンをリリースしてこの結果なので、個別のバージョンのダウンロード数は圧倒的大差がついていると予想できます。
ちなみに窓の杜もダウンロード数を公開 しており、倍では済まない差がついていますが、正直なところ理由は推測できません[10] 。
[9] 各プロジェクトの人たちの間ではたまに舌戦が繰り広げられています。ある意味面白いのですが、不毛なので今回は紹介を省きました。みんな喧嘩好きね……と思ったのですが、喧嘩好きなのは誰とは言わないものの一名だけの気もします。
2013年の新バージョン
Microsoft Office 2013
本題とは全く関係ありませんが、今年はMicrosoft Officeに触れないわけにはいきません。執筆段階では発売日は明言されていませんが、第一四半期にMicrosoft Office 2013が発売予定です。Microsoft Office製品マーケティングブログ を見ると、原則としてアップグレード版がない[11] にもかかわらず値下げはなしということで、かなり強気の価格設定です[12] 。LibO/AOOから見た新バージョンの魅力はODF 1.2をサポート していることでしょうか。
LibreOffice 4.0
LibO 4.0は2月の第2週にリリース予定で、これまでのことを考えればさほどの遅れもなくリリースされるでしょう。バージョニングは3.7の予定でしたが、タイムベースリリースだと4.0にするのに適切な時期はないということで4.0になりました。新機能が搭載されるからバージョンを上げるということではなく、古いAPIの削除など互換性を損なう変更を入れる[13] のでバージョンを上げるという、どちらかと言えばネガティブな理由です。新機能の実装などはこれまでと変わらないのでユーザーにはあまり関係しませんが、古いMicrosoft Officeのファイルフォーマット(95以前)の保存ができなくなったのはメリットだと思います[14] 。
LibO 4.0の新機能の解説はSoftware Design 2013年3月号(2月18日発売予定)のUbuntu Monthly Reportで行うことを予定しています。
翻訳は、対象となるビルド[15] のリリースが遅れてベータ2まで持ち越しになったほか、筆者も多忙なので遅れていますが、いつものごとくユーザーインタフェースについては何とかなるのではないかと思っています[16] 。
Apache OpenOffice 4.0
11月1日に、“ AOO.Next IBM Priorities ” という興味深いメールが投稿されました。次のAOOのバージョン(まだ4.0と決まっていませんでした)でIBMが優先的に取り組む機能を紹介しています。Windows版での差分アップデートやサイドバーフレームワーク、Writerの目次の改善など、確かに実装されたらうれしいものが多いです。これらのほか、4.0に実装される予定の機能がWiki にまとめられています。Microsoft Officeの古いバイナリフォーマットとの相互運用性も向上 するほか、ついにアプリケーション名が“ Apache OpenOffice” になるなど[17] 、全部実装されたらかなり魅力的なものになりそうです[18] 。
リリースは4月予定とのことですが、個人的にはやや楽観的かなと思います。ただ、競争上あまりずるずると延ばすことも考えにくいため、適切な時期にリリースされるのではないでしょうか。
[17] 今までは、アプリケーション名はあくまで“ OpenOffice.org” でした。Windowsのスタートメニューにも“ OpenOffice.org 3.4.1” として登録されていることからもわかります。
まとめ
今更いうまでもなく、来年2014年にはWindows XPとMicrosoft Office 2003の延長サポートが終了します。Windows7ないし8がインストールされたPCに買い換えるのと同時に、オフィススイートをどうするかを決めるには遅いタイミングとなりつつあります。多くの日本企業ではMicrosoft Officeであることが重要で、価格は二の次といったところではなかろうかと思いますが、経済状況の厳しい昨今、そうもいってられない事情もあるかもしれません。となるとLibOやAOOは充分に検討に値します。これまで述べたとおり、予定どおり実装されたとしてサイドバーを採用し、差分アップデートが可能なAOO 4.0は候補の筆頭に入る気もします。しかし、Office 2003がなくなるということはOOXMLに移行するのと同義であり、この形式で保存できるLibOが有利という見方もできます。そして、AOOの機能がLibOで使えるようになる可能性も高いです。
昨年は結びに「来年にはこの混沌としている状況がもう少しどうにかなっているといいのですが」と言及しましたが、結局のところ状況は特に変わりがないどころか、むしろどちらも魅力的なオフィススイートでどれにすべきか実に悩ましいです。いろいろ検証してどちらがベストなのかを判断してくださいという無難なまとめになってしまいますが、いずれにせよ自由に使用できるオフィススイートが注目されるのは筆者にとってうれしいことです。
お知らせ
この場を借りてお知らせがあります。オープンソースカンファレンス2013 Tokyo/Springの特別企画でLibreOffice日本語チームがLibreOffice Japan mini Conference を開催することになりました。LibOを含めた自由に使用できるオフィススイートに興味がある方は、是非ともお越しください。