ソーシャルネット上のコミュニケーションはどうなる?
2012年、日本で、世界でソーシャルネットワーク(以降ソーシャルネット)の利用がますます盛んになりました。また、年末年始もたくさんの方たちがFacebookで、Twitterで、mixiで、その他たくさんのソーシャルネット上にポストをし、コミュニケーションを取っていましたね。ここでは、2013年のソーシャルネット上のコミュニケーションについて展望してみます。
なお、技術的観点・利用シーンから観たソーシャルネット、ソーシャルWebの展望については、田中洋一郎(よういちろう)さんが「2013年のソーシャルWeb」で取り上げていますので、そちらもぜひご覧ください。
2012年はLINE旋風が吹き荒れる
さて、2012年、ネット上のコミュニケーションにおいて最も注目を集めたのは、NHN Japan株式会社が提供するコミュニケーションサービス「LINE」でしょう。LINEは、無料通話・無料メールという機能を有するメッセージングツールで、2012年12月頭の段階で全世界で8,000万人、ここ日本でも3,600万人の登録ユーザ数を数える、一大サービスとなりました。
LINEの特徴は、通話でも文字メールでもなく、なんといってもユニークなスタンプによるコミュニケーションです。コニー・ブラウン・ブラウン・ジェームスという独自のキャラクターを生み出し、それぞれのキャラクターの持つ特徴が、意思表示手段として多くのユーザに受け入れられました。その後、既存の漫画キャラクターやアニメキャラクター、企業マスコットのスタンプが登場し、勢いが止まることはありません。
少し余談ですが、LINEがFacebookやTwitter、mixiと比較される記事を見かけることがあるのですが、LINEそのものはメールと同じ1対1あるいは1対N(特定・不特定多数)によるメッセージングツールであり、私はLINEをソーシャルネットとは考えていません(どちらかというと、LINEから派生したLINE GAMEやLINEタイムラインがソーシャルネットと考えます)。それでも、LINE上で行われるコミュニケーションは、ネットコミュニケーションに新しい世界観を生み出したことに間違いはありません。
ここで、LINEのコミュニケーションを見てみると、昨年の「2012年のソーシャルネットコミュニケーション」で書いた2011年の3つの特徴のうち、「ノンバーバル」「ライト」の2つをさらに強くしたものだと感じています。とくに、スタンプだけでやり取りする感覚は、まさに非言語コミュニケーション(ノンバーバル)で、また、スマートフォン上の利用であればワンタップでやり取り可能な手軽さ(ライト)が、直感的な部分を強調していると捉えています。
加えて、閉じた空間(クローズド)でのコミュニケーションになっているという点がLINEの特徴と言えます。
クローズド、制限のあるコミュニケーションスタイルへ
さて、前置きとしてLINEの紹介が長くなりましたが、LINEに慣れたユーザにとっては、「ノンバーバル」「ライト」、そこに加えて「クローズド」な感覚が浸透していくように思います。これは、メッセージングツールだけの話ではなく、ソーシャルネット上でもさらに一般化していくと予想します。
Facebookでは投稿内容や参加グループ、参加イベントなどの公開範囲を制限することができますし、Twitterでは鍵付きツイートをすることができます。mixiであればコミュニティ内でのコミュニケーションにより、クローズドな世界を作り出せます。これらの機能はいずれのサービスでも早い段階から有していた機能であり、多くのユーザが利用していましたが、LINEでのコミュニケーションに慣れたユーザが増えることで、2013年は公開範囲を自分なりにカスタマイズしていく、パーソナルクローズドで楽しむソーシャルネットユーザはますます増えていくのではないでしょうか。
一方で、LINEの感覚に慣れたユーザが、限定公開あるいは完全非公開のつもりでソーシャルネット上でやりとりしてしまった結果、予想外のコミュニケーショントラブルが増えるかもしれません。
ちなみに、同じく昨年の記事で紹介した「Path」は、つながり人数の制限(2012年12月時点で150人まで)という、クローズドを意識したソーシャルネットで、私の周りでは他のツールと併用するユーザが増えてきています。引き続き、今後の動向に注目したいです。
メディアとしてのFacebookとTwitterの価値、リアルコミュニケーションとの融合
続いて、全世界で最も使われているソーシャルネット「Facebook」、そして、「Twitter」について展望してみましょう。
きっかけとしての「いいね!」利用、そこから始まるコミュニケーションが進んだFacebook
2012年は、Facebookのシェアがますます強くなった1年でした。市場的な面で見ると5月にIPO(新規上場)を果たし、また、9月には写真共有サービス「Instagram」の買収を完了し、ますます動きが活発になっています。
今回の記事では、Facebookの市場的な見方の分析はしませんが、注目度がさらに上がり、個人ユーザだけではなく企業ユーザに対してより一層浸透し、Facebookを利用したさまざまなキャンペーンが行われた年でもありました。ただし、2011~2012年に多く見られたFacebookページの開設およびFacebookページ上で行うだけのキャンペーンではなく、たとえばいいね!と連動したアプリ型のキャンペーンであったり、チェックイン機能と連動したものなど、ユーザからのコミットメント・アクションの先を意識して行うタイプのものが多く見られました。
1つの例として、昨年末に開催された「 【楽天市場】楽天Xmas Bazoooka 」があります。このキャンペーンの特徴は、Facebook上でのユーザとのコミュニケーションが「いいね!」だけという点です。そして、いいね!の先に楽天市場のキャンペーンページへの導線が用意されています。キャンペーンページに進んだユーザは、そこで行われる映像と連動した体験型のリアルタイムキャンペーンに参加することができるのです。
なお、このキャンペーンは「楽天お正月Bazoooka!」と名前を変えて、1月9日12:00より再スタートするとのことなので、興味のある方はぜひご参加ください。
こうしたキャンペーンの特徴は、ソーシャルネット上でアクティブかつコミュニケーションが活発なFacebookユーザに対して、(Facebook上でのいいね!という)ライトなアクションだけをさせた上で自社キャンペーンサイトへの囲い込みを行っているところです。入口としてFacebookを利用しながらも最終的には自社サイトに呼び込むという点で、先ほどのクローズドな感覚に通ずると考えられます。
それから、Instagramの買収に関してはたくさんのメディアで取り上げられ、Webサービス関連のニュースとして最も注目されたものの1つとなりました。その派生として、昨年末に発表された利用規約変更では、一部のユーザの間で議論を呼びましたが、現時点で使い勝手の面で大きな変化はなく、逆に、アプリの改善、Facebook連携の強化など、FacebookとInstagramを両方使っているユーザにとっては、ユーザビリティが上がったと言えます。また、画像共有が強化された結果、メディアとしてのFacebookの価値が高まったと言えるでしょう。
ここ日本でもインタレストグラフの公式活用が進み始めたTwitter
Twitterに関しては昨夏のロンドン・オリンピック、ここ日本では12月の衆議院議員総選挙や大晦日の紅白歌合戦でイベントページが開設され、多くのユーザが「#オリンピック」「#選挙」「#紅白歌合戦」など、特定のキーワードをハッシュタグとしたツイートが数多く見られた1年となりました。
第63回 NHK紅白歌合戦 をTwitterイベントページで楽しもう!
http://blog.jp.twitter.com/2012/11/63-nhk-twitter.html
「今さらハッシュタグ」と思う読者の方がいらっしゃるかもしれません。たしかに、ハッシュタグの利用はすでにユーザ主導で積極的に行われていますし、それを利用したTogetterのようなサービスも登場し浸透してきています。しかし、昨年のTwitterイベントページの登場は、そうしたユーザ主導の動きだけではなく、企業や組織から積極的にツイートを促す仕掛けになっていることが特徴で、今年以降、企業や組織からツイートを促す場面がますます増えていくと考えています。
補足として、昨年のロンドンオリンピックに関しては、2006年7月に誕生したTwitterが、全世界に浸透してから初のオリンピックで(北京の段階ではここ日本ではそれほどまだ普及していなかったので)、衆議院議員総選挙も日本でTwitterが大きく浸透してから初の衆議院議員総選挙でもあったわけです。こうした、不特定大多数が注目し、興味を持つキーワード、とくに出来事とTwitter(ツイート)の親和性は非常に高く、Twitterイベントページという“場”が用意されることで、インタレストグラフによるコミュニケーションはさらに活性化していくと考えています。
メディア化するソーシャルネット、個人と組織との融合
FacebookやTwitterのこうしたユーザの動きの変化というのは、それぞれのサービスがより一層メディア(媒介)化しているものだと考えられます。いずれも、一個人の動きだけではなく企業や組織がますます活用できる(しやすくなる)サービスになるでしょう。
つまり、これまでFacebookやTwitterはサービス上のユーザ同士のコミュニケーションが主であったのが、これからはユーザ間だけではなく、企業や組織を含めた“場”としての存在意義が求められ、ユーザはその“場”の中で何をするのか、また何につなげていくのかを考えるようになっていくと思います。また、その結果として、つながっている人たちとのコミュニケーションの活性化、場合によってはリアルコミュニケーションにもつながっていくように思っています。「2013年最注目分野?O2Oとソーシャルメディアの展望」で藤井大輔さんが語られているO2Oの動きもその1つと言えます。
ソーシャルネット上の「共有」の先にあるもの
少し余談になりますが、これからのFacebookやTwitterのユーザの動きとして考えているのが、ソーシャルネット上での「没個性」です。あくまで私自身の感覚ではあるのですが、最近のFacebookに関しては、インターネット上の情報(ニュース・写真・映像・音楽など)が共有(シェア)される場面を見る機会が多くなってきていて、(一次情報として)自分の考えや動きの投稿を見る機会が減っているように思っています。また、Twitterでは、個人的なツイート数が増えていると同時に、RTされているツイートも年々増えています。Twitter社は2012年の人気ツイート(注目・RTされたツイート)について「ゴールデンツイート」として発表しています。
このように、誰かの投稿内容を引用したり、伝達する要因として考えられるのは、Facebookのシェア機能やTwitterのRT機能の使いやすさの向上、そして、シェアやRTに対する心理的な気楽さでしょう。
おそらく、今後もこうした共有(シェア)する動きはますます増え、共有(シェア)を通じたコミュニケーションが活性化していくと思っています。一方で、共有(シェア)により情報発信欲が満たされたユーザが増えると、これまでのソーシャルメディアの特徴であった個人の考え、個の動きの多様性が薄れていくように感じています。その先にどういったコミュニケーションが生まれていくのかは、個人的に注目していきたい部分の1つです。もしかすると、その揺り戻しとしてブログへの回帰が増えるのかもしれません。
mixiの展開
さて、日本のソーシャルネット、mixiにも目を向けてみましょう。2012年9月発表の情報では1,400万人を超えるアクティブユーザ数を数えます。昨年の動きとしては、11月に発表した「ユーザーファースト」のコンセプト、同月に実施した「ユーザーファーストウィーク」のように、次のフェーズに向けた動きを見せています。とくに、Facebookなどに押されている状況に対して、開発チームをユニット制にするなど、機能ごとの改修・改善の動きを早くする体制を整備しています。これにより、11月以降はmixiの主力機能である日記機能を改修したり、メッセージのUIを変更するなど、目に見える形で動きが見え始めました。また、他のソーシャルネットに先駆けて、Windows 8対応アプリを発表したのも特徴的です。
コミュニケーションの観点では、mixiそのものよりは、たとえばmixi Xmasのようなキャンペーン連動でのコミュニケーション、ソーシャルグラフを活かしたものに注目が集まりました。さらに、mixiユーザにとって今年最も注目したいのは、訪問者リアルタイム表示機能、通称「あしあと機能」の復活でしょう。
訪問者リアルタイム表示機能の試験リリースに関するお知らせ
http://mixi.jp/release_info.pl?mode=item&id=1909
※mixiのログインが必要です。
2013年1月下旬~3月末(予定) に試験的にリリースし、ユーザからのフィードバックを見た上で継続するかどうかの判断をするとのことです。あしあと機能は多くのmixiユーザにとって愛着のある機能で、中止が発表された際には、mixiのコミュニティ内での反対運動なども起こりました。それが復活するということは、古くからのユーザにとっては嬉しいニュースと言えるでしょう。また、コミュニケーションの観点から見ると、あしあとをきっかけに生まれるものが考えられ、今年のmixi内でのコミュニケーションの変化に注目したいと思います。
公式ページやコミュニティ、さらにハングアウトとの連携を強化するGoogle+
最後に、Googleのソーシャルネット、「Google+」の動きを見てみましょう。
Google+は、一昨年末にAKB48の参加を発表し、著名人アカウントの作成に注力し、ユーザ獲得を始めました。その動きの延長として、昨年末に発表したコミュニティ機能などがあります。このように、Google+では、共通の趣味やテーマを持ったユーザに対する場を提供する動きが強くなっていると見ることができます
個人的に、他のソーシャルネットコミュニケーションと異なっていくと考えているのが、ビデオチャット「ハングアウト」機能です。Googleは2012年7月に、Gmailのビデオチャット機能を、Google+のハングアウトに切り替えることを発表しました。ハングアウトの特徴は複数人間で音声・映像・文字によるコミュニケーションが取れ、また、Google Driveのデータを同時に共有できる点です。
また、2012年10月に行われた、宇宙と交信できる「THE SPACE HANGOUT」プロジェクトは、地球の外との通信を図るなど、これまでの規模を大きく超えたプロジェクトとなり、大変注目を集めました。
THE SPACE HANGOUT
http://www.jaxa.jp/event/spacehangout/index_j.html
このような、映像や音声+ドキュメントという、グループ向けのコミュニケーションというのは、Google+の大きな特徴となり、シーンに応じて使うユーザが増えていくのではないでしょうか。
まとめ・アーカイブ機能に馴染み始めたユーザたち、その先に求められる検索機能
最後に、今後についてまとめてみます。
まず、2012年後半ぐらいから、時間軸を意識したソーシャルネットが増えています。昨年の記事で「時間軸が加わってくる2012年のソーシャルネット」という形で予想した動きが見えてきました。たとえば、Facebookの「Facebook 2012 今年のまとめ」はその1つです。これは、Facebook上の、ユーザ自身の動き・いいね!やコメントの付いた投稿のまとめを振り返ることができるもので、まさにソーシャルネットコミュニケーションに時間軸が加わったものです。
また、プラットフォーム側だけではなく、今年もサードパーティからもFacebookのアプリやTwitter分析サービスなどが登場し、その年1年のいいね!数をカウントするものや最もツイートした漢字を調べられるものが登場し、多くのユーザが利用していました。その他、スターバックスコーヒー ジャパンは「Share and gather」というキャンペーンを行い、その中でその年にもらった「いいね!」の数をカウントし、感謝の気持を添えてメッセージカードを送る「Thank you for "Like"」というアプリを用意していました(※キャンペーンはすでに終了しています)。
こうした動きの背景には次の2つの理由があると考えています。
- ソーシャルネット上に「アーカイブ」される自分の投稿内容と動き
- 「まとめ」の普及
1つ目のアーカイブについては、時間が経ってユーザがアクティブになればなるほど増えるものなので、これからもますます増えていきますし、ユーザの意識がもっと強くなるでしょう。
もう1つの「まとめ」については、前述のTogetterの他、昨年はLINEと同じくNHN Japanが提供するサービス「NAVER まとめ」の存在が影響していると考えています。共有(シェア)にも通ずるところではありますが、誰かが発信した情報を他の誰かに伝えたい、伝えるときに自分の色を出したい(編集したい)という気持ちから、情報をまとめるユーザが増えています。
このように(ソーシャルネット上の投稿に関する)アーカイブやまとめへのユーザの意識が強くなり、そしてユーザ自身が慣れていくことで、ソーシャルネット上での時間軸への意識・存在感はますます大きくなり、近い将来サービス側で当たり前のようにまとめ、ユーザはそれを探し出す(検索)という動きがどんどん強くなっていくのではないかと考えています。すでに、Facebookは2012年10月にYahoo! JAPANと連携してトップページおよびリアルタイム検索の強化を発表しましたし、前述のPathでは、モーメントと呼ばれる自身の投稿を検索する機能を実装すると発表しています。機能面の強化によって、ユーザコミュニケーションにも影響を与えていくのではないでしょうか。
ときにユルさも必要
ただし、結局ソーシャルネットも人と人とのつながりによるものであり、その上でのコミュニケーションも根幹は人間同士のつながりになります。ですから、あまりアーカイブやまとめ、さらにそれを検索することを突き詰めてしまうと、ソーシャルネット上のコミュニケーションが少々息苦しいものになってしまうかもしれません。それらを回避するために、ユルいコミュニケーションも必要だと思っています。あくまで主観ですが、そうしたユルさの要素を持っているサービスとして、2012年12月にリリースされたpaperboy&co.の「OEKAKIGRAM」を挙げておきます。
とくにクローズドとアーカイブに注目
最後になりますが、2013年のソーシャルネットコミュニケーションは、クローズドとアーカイブに注目したいと思っています。そして、少しのユルさも。その中で生まれるユーザ同士のコミュニケーション、それが2013年のソーシャルネットの特徴となっていくのではないでしょうか。