新年あけましておめでとうございます。毎年恒例になりつつあるLibreOffice(以下LibO)とApache OpenOffice(以下AOO)の2013年のまとめと、2014年の展望を寄稿させてていただきます(編注 ) 。
LibOのニュースはともかくAOOのニュースはあまり目にする機会がないため、年に一度の貴重な情報源になっていると信じています。事前に昨年の新春特別企画 をお読みいただけると、より理解が深まるかと思います。
2013年のLibreOffice
まずは、LibOの2013年を振り返ってみます。
2013年のリリース
昨年のLibreOfficeのリリースを次の表にまとめました。あくまでリリース版だけであり、ベータ版やRelease Candidate(リリース候補版)は除いています。
1月30日
3.6.5
2月7日
4.0.0
3月6日
4.0.1
4月4日
4.0.2
4月11日
3.6.6
5月9日
4.0.3
6月19日
4.0.4
7月18日
3.6.7
7月25日
4.1.0
8月22日
4.0.5
8月29日
4.1.1
10月4日
4.1.2
10月24日
4.0.6
11月1日
4.1.3
12月19日
4.1.4
15回リリースされたのは昨年と同じです。当初予定していなかった3.6.7がリリースされるなど、3.6系列の人気が伺えますが、3.6系列も4.0系列もすでにサポートは終了しています。
SUSEのLibreOffice開発チームがCollaboraに移籍
SUSEはThe Document Foundation(以下TDF)の発足当時からLibOのフルタイム開発者を雇用し、サポートサービスを展開していましたが、これを英Collaboraに移管すると発表 しました。これが昨年一番驚いたニュースです。LibreOffice Certified Developersのページ を見ても、吉田浩平さんを始め主たる開発者がCollaboraに移籍しています。SUSEに残っている人もいますが、業務としての開発はできなくなった そうです。
CollaboraはWebサイト を見ると、オープンソースのデスクトップアプリケーションやフレームワークなどのサポートを主とする企業のようです。SUSEがLinuxディストリビューターであることを考えると、LibOのサポートにはCollaboraのほうがよりふさわしい企業のように思いますが、SUSEのLibO事業(その前身はOpenOffice.org(以下OOo)事業)はXimianが始めたものであり、NovellがXimianを買収し、さらにAttachmateがNovellを買収し……などの経緯[1] を考えると一抹の寂しさもありますし、そうなるのもむべなるかなという感じもします。
[1] 現在のLibOの開発者用メーリングリストはlibreoffice@lists.freedesktop.orgですが、openoffice@lists.ximian.com→dev@lists.go-oo.org→ooo-build@lists.freedesktop.org→libreoffice@lists.freedesktop.orgと変遷しています。ついでに筆者はこれらのメールを「ximian」というフォルダーに分類しています。
Advisory Boardの増加
Advisory Board は、端的にいえばTDFのスポンサーです。必ずしも企業ばかりではないので団体という単位を使いますが、2011年には6団体、2012年は8団体だったのが2013年には14団体と、これまでにない増加を見せています。新たに加入したのは次の団体です。
リンク先はプレスリリースの和訳ですが、CollaboraはTDFからプレスリリース配信がなかったようです。Collaboraはもちろんのこと、CloudOnもかなり積極的に開発を行っています[2] 。
移行のホワイトペーパー
TDFが移行のホワイトペーパーをリリースしました(リリースの和訳 ) 。ホワイトペーパー自体も和訳 されています。大規模導入を考える際にはぜひともご一読いただきたいですが、今のところ日本にはレベル3サポート[3] を提供する企業がないのがネックです。
日本人開発者の活躍
今年は例年にも増して日本人開発者の活躍を目にしました。Collaboraの吉田さんはもちろんのこと、IME関連の不具合を修正した湯川さん 、日付に関する不具合を修正した茂木さん 、Windowsでの鬱陶しいビルドエラーを修正した八木さん など数名です。LibreOfficeの開発がやりやすいことの証左でありますし、あとに続く人が出てきてくれればと願います。
LibreOffice Japan mini Conference開催
昨年告知した、“ LibreOffice Japan mini Conference” が2月23日に無事開催されました。今となってはずいぶん前のことですが、Wikiで発表資料や動画を 見ることができます。
このイベントの模様はITproの『主役はユーザーの皆さん、誰でも企画でき参加できます - LibreOffice日本語チーム 』で見られます。こちらの記事にも目を通してみてください[4] 。
翻訳の権限の変更
LibOの翻訳はPootle で行っています。Pootleはユーザー管理が可能であり、その機能を利用して翻訳者に権限を付与するという仕組みになっています。これまでは権限がある人しか翻訳できませんでしたが、権限がなくてもユーザーアカウントさえ作成すれば誰でも提案できるようになり、権限がある人がそれをチェックして反映するように変更しました[5] 。これでカジュアルな翻訳者が増加することを狙いましたが、今のところは功を奏したいえるレベルにはなっていません。
2013年のApache OpenOffice
次に、AOOの2013年について振り返ってみます。
2013年のダウンロード数
AOOは以前からダウンロード数を公表していましたが、今年からはより積極的に公表するようになりました。2013年のダウンロード数は次のとおりです。
2月1日
3,500万
3月4日
4,000万
5月14日
5,000万
6月23日
5,500万
8月7日
6,000万
10月5日
7,000万
10月30日
7,500万
11月27日
8,000万
あくまでダウンロード数は「のべ」であり、ユニークユーザー数ではありません。また、Download Stats でより詳細なダウンロード数を見ることができます。
2013年のリリース
AOOのリリースは穏やかなもので、1月30日に3.4.1の言語を追加してリリースした[6] のと、7月23日に4.0.0、10月1日に4.0.1をリリースしたのみです。AOO 4.0についてはUbuntu Weekly Recipeの第283回 でも紹介しています。サイドバーのことなどはこちらをご覧ください。
OSBAのミーティングで話し合われたApache OpenOfficeとLibreOfficeのエピソード
昨年の記事 の「公的機関の資金提供によるOOXMLのサポート強化」の項で、「 仕様書を読むとライセンスはAL2(Apache License 2.0)にすることが明言されているため、AOOでも取り込めるはずですが、確認した限りでは今のところ取り込まれた形跡はありませんでした」と述べていましたが、これについて進展がみられました。
10月末に、AOO関係者とLibO関係者とOSBA(Open Source Business Allience)関係者が集まって話し合いが持たれました 。その話し合いの内容は大きく次の2つに分類できます。
プロジェクトは成功して幕を閉じ、今後も継続すること
AOOとLibOでのコラボレーションを模索すること
1.はいいとして、2.ではかなり踏み込んだ発言もありました。まず、パッチを取り込むにはライセンスが適合しているだけではダメで、実際に作業する人が仕事としてやるべきだという主張です。確かにLibO側での作業は仕事として行っているため、AOOのほうで何もないのは不公平ではないかといわれるとそのとおりです。
とはいいつつも現在AOOでも別ブランチを作成して開発されたパッチを統合中 で、全部とはいかないでしょうが多くのパッチが取り込まれるべく作業中です。そればかりか、LibOのソースをMPLとしてAOOに持っていったらどうだろうという案まで出ていました。さすがにこれは無理という結論のようですが。
よって、この話し合いでおおむねこれまでどおりAOOのコードをLibOに持っていくことはできるものの、その逆は無理という合意ができたように思います。結局のところはライセンスの問題なのでどうしようもなさそうです。
移行事例
AOOへの移行事例というのはあまり耳にしないのですが、イタリアのエミリア=ロマーニャ州がAOOに移行 したそうです。3,200台分のプロプライエタリなオフィススイートの購入代金200万ユーロを節約できたとのことです。
サポート期間
AOOのサポート期間は明示されていません。OOoでもおおむねそのようになっており[7] 、Information about releases that have reached "End-Of-Life" statusのページ が昨年の7月30日まで更新されておらず 、OOo 3.3.0がサポート扱いでした。
結果的にLibOよりもAOOのほうがサポート期間が長いことになっていますが、このように事前の予告もなく終了するのは少々困りそうではないでしょうか[8] 。
IBMがApache OpenOfficeをサポート開始
公約どおりIBMがAOOのサポートを開始 しました。“ Apache OpenOffice 4.0 the IBM Edition” のリリースはやめたようで、AOOのオフィシャルバイナリがサポート対象です。日本語のページも用意されており、日本でもサポートが受けられるのかもしれません。
日本のWebサイト
日本のAOOのWebサイト が更新されておらず、手助け募集のメール が流れていました。8月のことですが、いまだに更新された形跡がなので、どなたか手助けしてみてはいかがでしょうか[9] 。このメールでも言及されているとおり、日本からのAOOのダウンロード数は5位という重要なポジションにありますが、手を動かす人がほとんどいないというのが現状です。
新たな開発者の誕生
12月28日に、日本人として唯一と言ってもいい現時点で活発なAOOの開発者/翻訳者であるTsutomu Uchino(hanya)さんが、The Project Management Committee(PMC)のメンバー になりました。これによって(ほかにもいろいろありますが)Subversionのリポジトリに直接コミットする権限が与えられたことになります。
LibreOffice vs Apache OpenOffice ラウンド2
それでは昨年に続き、今年もLibOとAOOを比べてみます。
ユーザー数の比較
去年のうちにLibOがダウンロード数を公表することはなかったようですが、9月に催された「LibreOffice Conference 2013 in Milan」でおおよそのユニークユーザー数を公表 しています。ユニークユーザーの算出方法は[更新のチェック]のpingの数からだそうです。これがおおよそ4,250万ユーザーで、Linuxディストリビューション[10] のユーザーが3,250万ほど、あわせて7,500万ユーザーとのことでした。
LibO側の公表数をどの程度信頼できるのか疑問はありますが[11] 、先述したAOOののべダウンロード数が8,000万でしたので、ユニークユーザーではAOOよりもLibOのほうが多いといえるかもしれません。日本では窓の杜のダウンロード数 を見ても絶対にそのようなことはないですし、ワールドワイドでも本当にそうなのかはなんともいえません。
開発の比較
開発の活発さを手っ取り早く知りたい場合は、Ohlohのページを見るといいでしょう[12] 。
LibOは1年間で345人により約22,000コミットほどされており、これは手元の数字ともおおむね合致しています。一方、AOOは3,500コミットほどです。もはや圧倒的としかいいようがありません。
さらにAOOは手元の数字とかなりの乖離があります。よくよく見ると、こちらはWebページやWikiの更新も含まれており、公平ではありません。というわけで、AOOのコミットの内訳を集計してみました。Ubuntu Weekly Recipeの第283回 で示したコミット数のグラフのアップデート版です。
次のグラフは2013年1月2日から12月22日まで、svn trunkにコミットのあった数です。IBM社員によるコミットが3/4となっています。
そして次のグラフはtrunk+sidebarブランチ+IA2ブランチの合計を足したものです。重複もあるはずですが、こんな数字になりました。ほかにもブランチはありますが、大勢に影響はないどころか、ますますIBMの比重が高まる結果しか出なさそうです。
2014年のLibreOffice
今年のLibOは昨年同様、やはり2回のメジャーバージョンアップが予定されています。
4.2は今月下旬ないし来月上旬にリリースされることになっています[13] 。新機能などは『SoftwareDesign 2014年3月号』のUbuntu Monthly Reportで説明しようと思っていますが、AOOからのソースの取り込みがあまりにないにも関わらず、魅力的な新機能が盛り込まれたリリースになる見込みです。
7月にリリースされる予定の4.3の開発もすでに始まっていますが、当然のことながら今のところはまだそれほど大きな変更は入っていません。
あとは、今年もAdvisory Boardが増えるのではないか、という希望的観測を挙げておきます。Advisory Boardが増えることは即LibO(TDF)の発展を意味するものです。
一方日本では苦しい状況が続きそうです。開発が活発になってたくさんの新機能が加わることはとても重要ですが、その分メニューやヘルプの翻訳対象も増えることになります。開発者が増えても翻訳者(正確にはアクティブな翻訳者)が増えておらず、4.2でも大変厳しい(翻訳率が良くない)のが現状です。特にヘルプは約半数が未訳となりました。そもそもAOOと比較して知名度が低く、ユーザー数が少なければ潜在的に手を動かす人も少ない[14] となると翻訳者も増加せず……という良くないループが回っているため、何らかの方法でブレイクスルーが必要です[15] 。
2014年のApache OpenOffice
今年、AOOは4.1のリリースが予定 されています。主に4.0に間に合わなかった機能の追加が多いですが、IA2サポート[16] やパッチメカニズム[17] など魅力的な新機能が盛り込まれそうです。ただしUIの変更はなく、今のところ新規の翻訳は予定されていない とのことで、ちょっと驚きました。
この4.1は4月リリース予定とのことですが、“ When will OpenOffice version X be released? ” (OpenOfficeバージョンXはいつリリースするの?)というブログのエントリを公開する程度には、予定したリリース日を守ることには意義を感じていないようです[18] 。
注意喚起
LibO、AOOともにですが、一部オフィシャルではないインストーラーを配布しているWebサイトがあるようです。そのWebサイトからダウンロードすると、無関係のアプリケーションも一緒にインストールされる場合があります。そのようなことにならないように、必ず公式ミラーからダウンロードするようにしてください。LibOの場合はダウンロードのページ からで間違いありません。AOOの場合はミラーサーバーがSourceForgeにある ので、sourceforge.netドメインのページからダウンロードしていることを確認してください。もちろんミラーサーバーなので、実態は違うサーバーからダウンロードされますが、少なくともダウンロードページに関してはこの説明で間違いありません。
手間を掛けたくない場合は、窓の杜 からダウンロードするのが安全で確実です。