新年あけましておめでとうございます。 今年もLibreOfficeやApache OpenOfficeの動きを紹介します。
昨年のLibreOfficeはあまり大きなトピックはなく、むしろ現段階ですでに今年に期待が持てるくらいです。 Apache OpenOfficeは、昨年も変わらず低調でした。
では、今年も2017年の振り返りと2018年の動きを詳しく見ていきましょう。
2017年のLibreOffice
リリース状況
LibreOfficeは昨年もたくさんのリリースが行われました。以下が一覧です。開発版は含んでおらず、あくまでリリース版のみです。
1月26日 |
5.2.5 |
2月1日 |
5.3.0 |
3月9日 |
5.2.6 |
3月16日 |
5.3.1 |
4月6日 |
5.3.2 |
5月9日 |
5.2.7 |
5月11日 |
5.3.3 |
6月27日 |
5.3.4 |
7月28日 |
5.4.0 |
8月3日 |
5.3.5 |
8月31日 |
5.3.6 |
8月31日 |
5.4.1 |
10月5日 |
5.4.2 |
11月2日 |
5.3.7 |
11月9日 |
5.4.3 |
12月20日 |
5.4.4 |
このように16回のリリースが行われました。一昨年は行われなかったX.Y.7のリリースが2回あったのが特徴でしょう。しかし5.2.7も5.3.7も現在はサポート期間が終了しているため[1]、5.4.4(またはそれ以降)を使用するのが推奨です。
Linux用パッケージの配布方法の多様化
Linux用のパッケージは従来の形式であるRPMとDebのほか、Flatpak、snap、AppImageでも配布されています(図1)。
Flatpakとsnapに関しては以前から用意されていましたが、より安心してインストールできるようになったという変化があります。具体的には、Flatpakではバイナリをダウンロードしてインストールする方式だったのがFlathubというリポジトリからインストールできるようになりました。snapでは昨年までベータ扱いだったのが今年からはstable(安定版)扱いになりました。
AppImageはThe Document Foundationがリリースしているバイナリを再パックし、一つのバイナリにすることによってポータブルに使用できるというメリットを生み出しています[2]。
ミュンヘン市での動き
Linux Daily Topicsの「2017年11月27日 ミュンヘン、LinuxからWindowsへの移行を決定、移行費用は5000万ユーロ」で既報ですが、LibreOfficeを採用しているドイツのミュンヘン市がプロプライエタリなソフトに回帰することになりました。
ミュンヘン市はただLibreOfficeを使うだけでなく、The Document Foundaionのアドバイサリーボード、すなわちスポンサーにもなっています。個別にはLibreOfficeのQt/KDE5へのポーティング作業のスポンサーもしているようです[3]。
The Document Foundationも2月に声明を発表したり、「ミュンヘン市を自由なままに」キャンペーンに賛同したりしていますが、政治的な決定はたとえどんなに誤ったものであっても覆すのは難しいです。
救いがあるとすれば、これまでの成果はソースコードという形で残されており、オープンソースライセンスの下で利用できることでしょう。
台湾での動き
すでに台湾ではLibreOfficeが広く使われるフェーズに入っています。LibreOffice Conference 2017(後述)で行われたFranklin Wengさん(リンク先はインタビュー)による「Migrating LibreOffice to Organizations ‑ What's Still Needed?」を読むとそれがよくわかります。
また、Cheng-Chia Tsengさんによる「The Localization (CJK) Challenges and Possibilities in Taiwan」とMark Hungさんによる「Overview of Writer Text Grid Formatting」は日本語でも抱えている問題を含めて発表しています。特にMarkさんはたくさんのCJK関連バグを修正しており、その内容も発表しています。
同じCJKとしてまとめられる台湾の状況から、日本でもLibreOfficeが普及するために必要なのは
- 政府や地方自治体など、広く公共団体で使われるようになる
- 翻訳者や言語固有のバグを修正する開発者を増やす
- 普及・啓蒙活動
であるという認識を新たにします。現状はどれも全く足りていません[4]。
余談ではありますが、開発者は無償で開発を行う必要はなく[5]、どこかの企業から依頼を受けてバグを修正し、それを取り込んでもらってもいいわけです。また、大規模導入でサポートサービスを購入し、そこでバグを直してもらう、という手も考えられます。
マスコット騒動
LibreOfficeのコミュニティで揉め事が起こることはあまりないのですが、ついに起こってしまいました。
LibreOffice Design Teamが主体になってLibreOfficeのマスコットを決めることになりました。
6月28日にマスコットの募集が行われ、9月28日から10月8日まで一次投票、11月13日から12月17日まで二次投票が行われる予定でしたが、さまざまな理由、特に二次に残った12個のマスコットの選定理由が不明瞭であるということから「炎上」してしまいました。ほかには注意深く排除したはずの他者の権利を侵害しているものもあるのではないかという懸念もありました。
この懸念を指摘したブログ記事やOMG! Ubuntu!での記事ではとても多くのコメントがついています。これは、Libbieというキャラクターが決勝に残らなかったのも大きな不満点の一つのようです(※6、図2)。
11月16日に事態の説明がされますが、事態は収束せず、結局11月20日には投票中止となります。
12月22日には最後の説明がありましたが、The Document Foundationのボードディレクターの意向によって今回の投票が行われたというさして重要とは思えない情報の開示があって幕引きとなりました。
今後マスコットはタブー化されるのか、あるいは仕切り直すのか、今後の展開を見守っていきたいです。
なお、過去に2回デフォルトでインストールするImpressのテンプレートを決めるコンテストは行われていますが(1回目、2回目)、こちらはおおむね問題なく終了しています。
カンファレンス
昨年もローマでLibreOffice Conference 2017が行われました。そのレポート(その1、その2)が公開されていますので、ご覧ください。
このイベントで発表されたもののいくつかは「台湾での動き」の項でも取り上げましたが、やはり重要なカンファレンスであるという認識を新たにしました。
日本での動き
10月22日にopenSUSE.Asia Summit 2017でLibreOffice mini-conference 2017 Japanが行われました。スタッフの一人である小笠原さんのレポートによると、外国からの登壇者もあり、国際的なカンファレンスだったようです。
なお、今年も国内向けのイベントを大阪で開催する予定があります。
Ubuntu Weekly Recipeの記事
Ubuntu Weekly Recipeに掲載されたLibreOfficeの記事をここで振り返ってみましょう。
いずれも主にApache OpenOfficeにはない機能を紹介しています。
2018年のLibreOffice
6.0リリース
今月1月末あるいは2月初旬にリリース予定のメジャーバージョンアップ版は6.0です。とはいえ昨年紹介したユーザーインターフェースを選択できるMUFFINを有効にするといった大きな変更はなく(図3)、おおむねいつもどおりのアップデートです。ただし5.4ではあまり大きな変化がなかったため、新鮮に感じるかもしれません。
筆者視点で一番大きな変更点は、Calcの計算エンジンがマルチスレッドに対応したことですが(図4)、どうやら6.0リリース時点ではデフォルトで無効になりそうです。Calcで1万レコードを超えるデータを扱うと動作が重くなり、OpenCLで高速化できるものの安価なビデオカードでは焼け石に水、という経験をお持ちの方は筆者以外にもいるのではないかと思います。そういったユーザーにはこのような変更があるだけでも朗報です。
LibreOffice OnLineの普及
今年はLibreOffice OnLine(以下LOOL)が普及する年になるのではないかと推測しています。というのも、現在各種LinuxディストリビューションではLOOLのパッケージがありませんが、ある問題が解決したのでパッケージとして用意されることが期待できるようになったのです。
ある問題とはライセンス問題で、LOOLに必要なPOCOというライブラリのJSONパーサーが悪名高いJSONライセンスだったのです。このライセンスの問題点はGNUプロジェクトやDebianプロジェクトで簡潔に解説されているのでここでは繰り返しません。
昨年11月にリリースされた1.8.0でこの問題が解決され、すでにDebian不安定版(sid)ではパッケージとして提供されています。
DebianのLibreOfficeメンテナーはすでにパッケージ化の作業を進めており、近いうちにパッケージとしてリリースされることでしょう。ほかのLinuxディストリビューションでも同じ動きがあることが期待できます。
パッケージ化されると手軽に使用できるようになるため、今後の普及が見込めるということです[7]。
2017年のApache OpenOffice
リリース状況
Apache OpenOfficeは、10月19日に4.1.4がリリースされました(図5、図6)。4つの脆弱性を修正しており、4.1.3以前のユーザーはアップデートを強く推奨します。
12月30日には4.1.5がリリースされました。主に4.1.4のリグレッションを修正しています。4.1.3から4.1.4への期間を考えるとずいぶんと短いスパンでのリリースですが、リリースノートによると修正された不具合が片手で数えられるほどしかなく、未修正のリグレッションもあり、急ぐ理由があったと推測できます。
開発状況
どのような角度から眺めても、Apache OpenOfficeの開発が活発であったとはとても言えるような状況ではありません。
8月2日にLWN.netで公開された「Waiting for AOO」という記事では1日に10万回ダウンロードされるだけのユーザー数と開発状況がマッチしていないと指摘しています。
図7は昨年のtrunk[8]へのコミット回数です。一昨年よりは2割弱ほど増えていますが、Apache OpenOfficeのコードの総量を考えると充分な数ではありません。
4.1.4自体も難産で、4.1.4 RC1のビルドが提供されたのが8月4日で、リグレッションが見つかってRC2、RC3はスキップされて、RC4でもリグレッションが見つかって結局RC5までいき、これがリリース版となりました。RC1のバイナリの提供からリリースまで2ヶ月以上かかってしまいました。
そもそも前出のLWN.netの記事や筆者が指摘したように、1月の段階ですでに脆弱性があることを公表しています(そして後にその記述が削除されています)。1年近く脆弱性を修正したバージョンのリリースができないのは一昨年と状況があまり変わっていないということです。
PMC Chairの交代
昨年もPMC(Project Management Committee)のChairが交代になりました。事実上のプロジェクトリーダーです。
Carl MarcumさんとPeter Kovacsさんの2名の立候補があり、Peterさんが選ばれました。2名ともにApache OpenOffice自体の開発経験はないという共通点があります。CarlさんはApache OpenOffice API Pluginの開発者とのことです。後にPeterさんのさらに詳しい経歴も投稿されています。
2018年のApache OpenOffice
4.2 Beta
現在のtrunkを4.2 Betaとしてリリースする予定もあります。今年の内に4.2としてリリースされるのを期待したいところです。もしリリースが実現すれば、2014年の4.1以来4年ぶりのメジャーバージョンアップです。