DBエンジニアに求められるスキルの“理想と現実”

第3回どのようにスキルを伸ばせばいいか?

3人のペルソナからスキルの伸ばし方を考える

これまで、スキルの定義、年数に応じたスキルレベル、職種や所属会社による違いを説明してきました。そうすると次に興味が湧いてくるのが、スキルの伸ばし方ではないでしょうか。

マーケティングの世界では「ペルソナ」と呼びますが、データを基に架空のユーザを想定して、商品やサービスを設計する方法があります。じつは執筆でもこのようなことを行います。

今回は、以下の3人のペルソナを定義して、スキルアップのポイントを紹介します。

  • Aさん(若手で情報システム部に所属)
  • Bさん(中堅で運用部門に所属)
  • Cさん(データベースの派遣エンジニア)

若手で情報システム部に所属するAさんへのアドバイス

Aさんは、情報システム部に所属する20代前半のエンジニアです。データベースの経験は2年程度です。以下のような悩みを持っています。

  • 社内調整ばかりで、本当に役に立っているのか実感が持てない
  • 実機に触った経験が少なく、自信がない

私の周りでもこのような人が何人かいますが、そういった人たちのデータからAさんのスキルのグラフを作ってみました。

グラフA Aさんのスキルの状況
グラフA Aさんのスキルの状況

強みと弱み

まずは強みを見ていきましょう。

オレンジの枠で囲まれている箇所を見てください。若手でありながら、調整ごとが多い立場であるため、コミュニケーション能力が高い様子が見て取れます。社内調整に伴い、ドキュメントを作る機会も多いのでしょう。

一方、弱みは赤枠の箇所に出ています。

会社の方針にもよりますが、SI会社や運用担当者に頼っている情報システム部に所属していると、実機に触る機会が少なくなります。特にバックアップやパッチの適用といった作業は、SI会社のエンジニアや派遣のエンジニアに頼みがちです。DBMSやインフラの知識も少ないと、ますます自分で作業しなくなります。そうして「調整ごとには強いものの、実作業には自信がないエンジニア」が生まれることがあります。

おすすめのスキルアップ方針

ITの世界で長い間成長していくのであれば、一度は実際の作業(プログラミングやインフラの実作業など)を経験しておくべきと私は思います。そのようなベースがないエンジニアは、最初の数年はやっていけても、その後の成長が鈍りがちだからです。例外といえるエンジニアもいますが、土台の大事さを忘れてはいけません。

では、いきなり実作業を経験すればいいのでしょうか?

私はそうは考えません。

おすすめは、理論を学んだ上で経験することです。なぜなら、経験だけで叩き上げると、自己流になり、自己流ルールを振りかざすエンジニアになることがあります(結構よく見かけます⁠⁠。理論を学んでおけば、まちがった解釈をしてしまうのを防止できます。また、その後の経験を咀嚼しやすくなり、成長のスピードも上がるはずです。

具体的には、DBMSのアーキテクチャやインフラに関する研修を受けたり、書籍で勉強するといいでしょう。

たとえば、オラクルマスターの研修ではひととおりのアーキテクチャを学べるようになっています。また、『即戦力のOracle管理術』では、データベースの仕組みを理解した上で、運用業務を実践できるよう解説しています。他にも良い書籍はいろいろあるので、自分に合う1冊を探してみてください。

中堅で運用部に所属するBさんへのアドバイス

Bさんは、運用部門に所属する20代後半のエンジニアです。データベースの経験は4年くらいです。データベースについてはある程度自信が持てるようになっています。

一方、以下のような悩みを持っています。

  • 運用の仕事ばかりで、プロジェクトのことをよく知らない
  • プロジェクトに関われない

私の経験だと、運用部門の人はプロジェクトに憧れがあったり、⁠関われず)疎外感を感じていることがあります。私の周りにいるそのような人たちのデータから作ったのが、以下のグラフです。

グラフB Bさんのスキルの状況
グラフB Bさんのスキルの状況

強みと弱み

まずは強みを見ていきましょう。

オレンジの枠で囲まれている箇所を見てください。運用で必要となるインフラ知識、そしてトラブルの対応、バックアップリカバリ、パッチ当てといった作業は得意です。2、3年こういった作業をしていれば、それなりに自信があるでしょう。

一方弱みは、赤枠の箇所に出ています。

運用部門はえてして、SQLチューニングが苦手です。アプリケーションチームがSQL関連を担当することに加え、業務知識がないとSQLの深いチューニングは実施できないからです。

また、運用部門全員ではありませんが、社内調整やドキュメンテーションが不得意だったりします。運用のドキュメントは比較的フォーマットが決まっており、開発プロジェクトほど多様な経験を積めないからです。また、もともとコミュニケーションが苦手な人が運用部門に配属されるという事情もあったりします。

おすすめのスキルアップ方針

運用からマネージメントの道に行くのでなければ、プロジェクトの経験も積みましょう。やはり必要です。

運用部門で成長していくのであれば、インフラ知識とコミュニケーション能力、ドキュメンテーション能力は伸ばしていきましょう。

運用やインフラを担当するエンジニアとして、インフラを深く知っていることが当然重要です。しかし、仕事で成果を出したり、その成果を広げていくためには、コミュニケーションが避けてとおれません。上に行けばいくほど、ドキュメントも書かねばなりません。前回の記事のように、コミュニケーションやドキュメンテーションが得意な人が成果を上げているのは、DBエンジニアでもよく見られる傾向です。

派遣エンジニアのCさんへのアドバイス

Cさんは、派遣として雇われている、30代前半のエンジニアです。データベースの経験は8年くらい。上流や設計には関われず、決められた作業を繰り返していることが多い状況です。

日本のSIの階層構造の下から上に行けず、悩んでいる人は少なくありません。契約が更改されるか心配しながら仕事している人は多いでしょう。

私の周りにいるそのような人たちのデータから作ったのが、以下のグラフです。

グラフC Cさんのスキルの状況
グラフC Cさんのスキルの状況

強みと弱み

残念ですが、特筆できる強みは見あたりません。それに対して、弱みは全般的です。データベースについても良い経験が積めず、周りに教えてくれる人もおらず、スキルが向上できずにいる様子が見て取れます。使い捨てにされる心配もあるのではないでしょうか。

おすすめのスキルアップ方針

全部のスキルをいきなり向上させることは困難です。まず、作戦を立てましょう。

1つの方法は、何かに秀でることです。そうすれば頼りにされますし、⁠お互いに教え、教えられ」という関係が作れます。もしくは、いろんなプロジェクトで手堅くニーズがある、SQLチューニングに秀でるのも1つの方法です。

「急がば回れ」でベースを固める方法もあります。その場合、まずはDBMSの仕組みを理解しましょう。オラクルマスターの勉強もおすすめです。

また、前回ご紹介したように、インフラスキルとコミュニケーション、ドキュメンテーションに強くなることもおすすめです。現場で見ていても、そういった人材は重宝されています。

最後にお伝えしたいのは、⁠成長していくぞ」という思いが大事だということです。理想を高く掲げ、努力を忘れずにがんばりましょう。私が人事として教えてきたエンジニアを見てきていても、そういう人が最終的には成長しています。

生の意見を直接聞けるチャンス

連載は以上ですが、実際のエンジニアの意見はどうなのでしょうか? また、こういった人たちを指導した人たちの意見はどうなのでしょうか?

この話、7月21日(土)に開かれるJPOUG(オラクルのユーザグループ)のイベントでディスカッションします。

豪華スピーカー陣によるセッションも多数あります。

「自分にはユーザグループに出席するような資格がないし……」

と思うかもしれませんが、参加に条件はありません。参加費無料、初心者歓迎です。

お楽しみに!

注:本記事の見解は、筆者自身の見解であって、所属企業の見解を必ずしも反映したものではありません。一部のデータ件数は少ないため、精度が劣る点はご了承ください。

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