グラフ仕事人六道数人~陥りやすいデータ分析の誤りと効率的なグラフの利用方法

第7回量的データと質的データは青春の蹉跌 その1:ビジネスには質的データがつきもの。満足度の平均値とは

本稿では直感でわかるデータ分析⁠2015年9月30日、技術評論社刊)の一部内容を参考にし、データなどを転載しています。

六道様也は最近Twitterにはまっていた。以前から本名で仕事関係の知り合いとつながっているアカウントは持っていたのだが、最近20歳代の青年という偽りのプロフィールでアカウントを作った。若い女性と相互フォローになり、ウハウハでパラダイスなTwitterライフを送っている。

もちろんひとたび現実に立ち返れば、しがないアシスタント。家に帰れば冷め切った家庭が待っている。

帰りの電車の中でフォロワーの女子中学生が送ってきた自撮りがかわいくて、思わず見入っていたら原形をとどめないほどに加工した自分の娘の顔だと気がついて、この世の闇を見た。ほくろがなければ気がつかなかった。

様也が家に帰ると食卓についていたのは息子の数人だけだった。六道家では全員一緒に夕食をとることになっている。家庭崩壊の兆しかもしれない。様也は不安を覚えたが、とっくの昔に家庭は崩壊しているのだった。

  • 「女性ふたりは、警察に相談に行くついでに食事をすませてくるそうです。お父さんの夕食は、あなたの妻がコンビニで買ってきてあります」

数人はコーヒーの香りを嗅ぎながら様也に伝えた。テーブルには、なんの肉で作ったかわからないカツカレーがそっけなく置かれている。警察と聞いて様也の頭の中でサイレンが鳴り響いた。

  • 「警察? なにかあったのか?」
  • 「鳳晏がネットストーカーにつきまとわれたと主張していました。なんでもTwitterで知り合った青年が実はおっさんだったそうです」

全身の毛穴から冷や汗が迸り、両眼から血の涙が流れた。

  • 「心配には及びません。どうせ鳳晏の妄想です。最近の若者は、鬱か乖離か妄想くらいないとカッコ悪いと思っているようなので空騒ぎでしょう。ご心配にはおよびません」

数人が本気とも冗談ともつかない言葉をもらす。様也は不安を抱えたまま腰掛けると、血の涙を流すのを止めて、さめたカレーを食べ始めた。

  • 「そういえば、このレポート拝見しました。といっても最初の数頁だけですが」

数人はそう言うと、様也の書いたレポートをテーブルに置き、最初の頁を開いた。そこには、とあるサイトのメールサービスとサジェストサービスのアンケート調査の集計結果が載っている。

  • 「満足度を5点法で評価。満足が5で不満が1として平均を計算すると、メールサービスの平均は1.88、サジェストサービスの平均は2.00」

ビジネスマン向けのコンテンツを提供しているサイトの分析レポートだ。メールサービスは毎週配信されるもので、サイトの記事の紹介やメール独自記事を掲載している。サジェストサービスは、あらかじめ関心のあるテーマを登録しておくと、その週にあるビジネス関連のイベントで関係ありそうもの一覧をマイページに表示するサービスだ。

  • 「な、なにか問題あるかな?」

様也が不安そうに、息子である数人の顔色をうかがう。まだ中学生とはいえ、卓抜した頭脳はすでにシニアコンサルタントに匹敵する。様也も何度助けられたかわからない。

  • 「元の表はこちらですね?」
表1 元の表(抜粋)
表1 元の表(抜粋)
  • 「エクセルの関数を使ったんでしょう? わかりやすいミスです」
  • 「そ、そうかな? わかりやすいならよかった」
  • 「違いますよ。わかりやすい過ちだと申し上げたんです。それだけでなく、いろいろ勘違いしてらっしゃる」
  • 「え?」
  • 「私の計算した平均値とあなたの平均値を比較してみましょう。ほら、違いますよね。なぜ、このふたつの平均の値が異なるかわかりますか? エクセルの関数でそのまま計算してはいけないケースもあるのですよ」
表2 平均値の比較
合計平均(父)平均(数人)
メールサービス1881.883.36
サジェストサービス2002.002.86
  • 「ほんとだ。違う。でも、どうして?」
  • 「その前に、そもそも5点法で評価した満足度の平均を計算してもよいものでしょうか? 多くの人が満足度や好感度、重要度など点数で評価をつけたデータの平均を計算しています。しかしほとんどの人は、なぜそんな計算をしてよいのか理解していません」
  • 「ダメなの?」

様也の表情はすっかり教えを乞う小学生に変わっていた。目にはうっすらと血の涙をためている。数人は諦念と憂鬱の瞳を父親である様也に向け、ため息をついた。

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