※本稿では
数人の出生の秘密が暴露されてからも、
六道家で浮かない顔をしているのは主である様也だけだ。ワンナイトラブが露見したというのに弁解も謝罪もしない妻に怒ることもできず、
その日の夕食は焼きそばだった。紅ショウガの色がいつもよりも心なしか濃く見えたとき、
- 「お父さん、
またデータの神様の怒りを買いそうなグラフを作ってらっしゃるようですね」
いちやはやく食べ終えた数人がコーヒーを淹れながら、
- 「え?」
顔を上げた様也の両眼に血の涙がにじんでいる。パブロフの犬のように、
- 「コーヒーショップチェーンの各店舗の利益率と売上を比較しているグラフのことです」
数人はさわやかな口調でそう言うと、
- 「いっつも食事中にグラフの話をするのね。どんだけグラフ好きなんだよ。グラフとファックしてろ」
美希があきれた口調で中指を立てて見せる。
- 「ははははは。いつもながら母さんのギャグはおもしろいなあ」
様也は引きつった笑いを浮かべたが、
- 「愚昧な話題はスルーします。さて、
あなたが知りたいのは売上と利益率がともに高い店舗と、 ともに低い店舗です。さて最適なグラフはどれでしょう?」
数人が冷たい声でささやくように父親に問いかけ、
一方、
- 「折れ線グラフだね!」
青のりのついた前歯を見せて様也が答えると、
- 「適当に答えましたね。地獄でデータの業火に焼かれますよ。まあ、
そもそもコンサルタントという職業を選んだ時点で人間であることを捨てたようなもので火あぶりは確定ですけど。間違っています。折れ線グラフはグラフ界の中のスーパースターですが、 いくつかの特殊な条件下においては他のグラフの方が適しています。データ系列がふたつで、 それを同時に比較したり、 傾向を見たりする場合に有用なグラフといえば……?」 - 「ええとここまで出かかってるんだけどね。ははははは」
ひきつった作り笑いを浮かべる様也を、
- 「この場合は、
散布図です。ご覧なさい。データの神に祝福された美しいグラフを! 醜い棒グラフと比べてご覧なさい」
そして1枚の紙を置いた。そこにはふたつのグラフが描かれていた。